守口支店、狂乱の土曜日
怒涛の3日間が過ぎ、私は少しずつこの「パンチパーマの巣窟」の生態を理解し始めていました。
見た目の威圧感とは裏腹に、先輩たちは意外にもカラッとしていて、中には唯一パンチを当てていない、優しそうな中田主任のような人もいる。「これならやっていけるかもしれない」……そんな甘い予感は、土曜日の朝、一瞬で吹き飛びました。
週末の守口支店は、朝から戦場だった。
新聞折込チラシが各家庭に届く土曜日。それは不動産屋にとっての「決戦の日」である。
「っしゃあ! 勝ち抜けやぁ!」
事務所の真ん中で、ダブルのスーツを着た男たちが血走った目で拳を突き出している。お客様の接客順を決める、命がけのジャンケンだ。
1番手を勝ち取った者は、宝くじに当たったかのような雄叫びを上げ、負けた者は壁を蹴らんばかりに悔しがる。朝一番に食いついてくる客は、成約率が格別。つまり、今日のメシの種がその拳一つにかかっているのだ。
「……富ちゃん、よう見とけよ。これが『銭』を掴む顔や」
田山係長が脇でニヤリと笑った。
午前10時。自動ドアが開くと同時に、一組の家族連れが足を踏み入れた。
1番手を勝ち取ったのは、あの「パンチパーマ以外似合わない男」、横田課長である。
(……どんな怒鳴り込み営業が始まるんだ?)
固唾を呑んで見守る私の前で、信じられない光景が繰り広げられた。
「いらっしゃいまぁ〜せぇ〜! よくぞお越しくださいましたぁ!」
あの地鳴りのようなドス声はどこへ行ったのか。横田課長は、見たこともないような「猫なで声」を出し、顔中の筋肉を総動員して満面の笑みを作っている。
正直、不気味極まりない。凶悪な顔面のまま笑顔を張り付けているその姿は、子供が見れば泣き出しそうな、逆にホラーな迫力があった。
接客が始まり、お客様がカウンターに座った。するとその瞬間、事務所の空気が一変した。
「……よし、いけッ!」
誰かの合図とともに、先輩営業マンたちが一斉に受話器を掴んだのだ。
「はい! あ、先日のお客様! ありがとうございます、ご契約ですね!」
「あ、明日ですか? はい、手付金の500万、忘れずに持ってきてくださいよ!」
「ええ、もうあの物件、他に3人ほど検討中の方がおられまして……」
事務所中に響き渡る、威勢のいい「成約」の報告。活気あふれる人気店そのものの光景だ。
だが、私は気づいてしまった。彼らが回しているダイヤルの先は、外部ではない。隣の席や、空き番号、あるいは受話器を上げただけの「無」だ。
呆然と立ち尽くす私に、隣に座っていた平山さんが、受話器を肩に挟んだまま小声で鋭く言った。
「あほ、富ちゃん。早よ『テンプラ』せんかい!」
「えっ……? て、テンプラ?」
揚げ物? 昼飯の話か? 混乱する私を、平山さんが眉間にシワを寄せて睨みつける。
「そんなんも知らんのかィ! ほら、早よ受話器取れ!」




