表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪徳不動産  作者: Estate-K
17/29

脱税の免罪符、税務署の「決戦前夜」

 平山さんの指示通り、市販の源泉徴収票に「150万円」の架空の数字を書き込み、山下さんに手渡す。それは単なる紙切れではなく、銀行を欺き、税務署を煙に巻くための「偽造のパスポート」でした。


 役所の人間を「持ち合わせが3万しかない」ととぼけて丸め込み、まんまと手に入れた<住民税決定通知書>。それは、年収300万円の男が、書類上だけ「年収450万円」の富裕層に化けた瞬間でした。


 しかし、この物語の本当の「毒」は、その先に待つ大芝居に隠されていたのです。


 「いやぁ〜、意外と簡単でしたわ!」


 山下さんが晴れやかな顔で持ってきたのは、一通の書類。本来なら国民の義務を証明する神聖な公文書であるはずの<住民税決定通知書>だ。しかしその中身は、私が書いた嘘の数字が反映された、汚れた「偽装年収」の証明書だった。


 「でっしゃろ。これでローンはもう通ったも同然ですわ」


 平山さんは、手柄を自慢するように書類を掲げた。


 銀行は、会社が発行する源泉徴収票だけでは信じない。公的機関が発行するこの「決定通知書」を見て初めて、その年収を本物だと認めるのだ。つまり、山下さんは国家機関を「証人」に仕立て上げることに成功したのである。


 「あ、ありがとうございます!」


 深々と頭を下げる山下さん。だが、彼はまだ気づいていない。この書類を手に入れた代償として、本来払わなくていいはずの「追加の税金(十数万円)」という爆弾を抱え込んでしまったことに。


 「……でも平山さん。このままじゃ、山下さんは嘘の年収のために、本当に高い税金を払い続けることになりますよね?」


 私が小声で尋ねると、平山さんはパンチパーマの奥で冷ややかな目を光らせた。


 「富ちゃん、お前はまだ分かってへんな。だから明日『大芝居』打つんやないか」


 そう。自己資金ゼロで家を買おうとしている山下さんに、追加の税金を払う余裕など一円もない。

銀行に「年収が高い」と信じ込ませるために修正申告はしたが、その税金自体を「なかったこと」にする。それが、明日、税務署という虎の穴で繰り広げられる地獄のパフォーマンスの目的なのだ。


 「明日、午前十時。わしら先に税務署入っとくから、あとは打ち合わせ通りにたのんまっさ」

 「……腹はくくってます。大丈夫です」


 山下さんの顔には、もはや善良な市民の面影はなかった。崖っぷちまで追い込まれ、悪徳不動産屋の甘い囁きを命綱にするしかない、必死な男の形相だ。


 嘘の年収を証明させ、その年収にかかる税金を踏み倒す。

 そんなことが、この現代社会の仕組みの中で通用するのか?


 翌朝、午前十時。

 淀んだ空気の税務署のロビーに、私たちはいた。

 定刻通り、重い足取りで現れる山下夫婦。その手には、震えるような覚悟が握られている。


 「(さあ、始まる……)」


 私は、これから起こるであろう「凄まじい光景」を想像し、激しく鼓動する胸を押さえた。それは、不動産業界の闇を凝縮したような、狂気と芝居が入り混じる「税務署襲撃作戦」の幕開けだった。


■業界用語解説:住民税決定通知書

住民税決定通知書とは、前年の所得に基づいて市区町村が計算した住民税の額を通知する書類です。


銀行ローンの役割: 源泉徴収票は会社が発行するため改ざんが容易ですが、この通知書は役所が発行するため、銀行にとって「最も信頼できる年収証明」となります。


今回の手口: 「修正申告」を行うことで、一時的に役所のデータ上の年収を書き換え、その瞬間の通知書を取得。その後、何らかの方法でその申告を取り消す、あるいは税金を逃れるという極めて悪質なスキームです。現在では修正申告した場合、備考欄に「修正申告」と記載されるのでこの手は使えなくなりました。


 平山さんの言う「大芝居」とは、一体どのような内容なのか?

誠実そうな山下夫婦が、税務署の窓口で演じさせられる「地獄の脚本」……。その衝撃の展開へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ