税務署を欺く「大芝居」の方程式
修正液での「かきあげ」が序の口に思えるほど、物語はいよいよ国家機関をも巻き込む危険な領域へと足を踏み入れました。
年収300万円の客に、450万円のフリをさせる。そのために税務署へ乗り込み、嘘の申告をさせる……。平山さんが仕掛ける「一世一代の大芝居」とは一体何なのか。富山さんの心臓の鼓動が聞こえてきそうな緊念のシーンです。
山下さんの自宅は、引越し前だというのにすっかり「新生活」の熱気に包まれていた。
「ここにタンスを置いて、カーテンは何色がいいかなぁ!」
間取り図に色ペンで書き込み、未来の城について熱く語る山下さん夫婦。その無邪気な笑顔を見ていると、私は胸が締め付けられる思いだった。なぜなら、彼らの夢は「年収不足」という冷酷な数字によって、今にも崩れ去ろうとしていたからだ。
そこに、平山さんが氷水を浴びせるような冷徹な声を出した。
「山下さん……。実は、ローンがいまいちなんですわ」
「えっ……いまいちって、ダメなんですか!?」
山下さんの顔から血の気が引く。息子が近所に言いふらしてしまった「家買うねーん!」、今さら後戻りできない……。パニックになる山下さんに、平山さんは「銀行の条件が変わった」と嘘をつき、450万円の年収が必要だと告げた。
「そんな……私、年収300万しかないですやん……」
ガクッと肩を落とす山下さん。その絶望の底を見計らったように、平山さんがそっと悪魔の手を差し伸べた。
「まぁ、方法はないこともないんですわ。……年収を増やせばいいんですよ」
平山さんの提案は、耳を疑うものだった。架空の源泉徴収票をこちらで作成し、それを税務署に持って行って「実は他にも収入がありました」と嘘の修正申告をさせるというのだ。
「でも、申告したら追加の税金がかかるでしょ? そんな金ありませんわ!」
山下さんのもっともな叫びに、平山さんは不敵に微笑んだ。
「実は! その税金を払わんでいい方法があるんですわ。」
「本当ですか!?」
「本当でおま。……しかし、ご主人と奥さん、一世一代の大芝居を打ってもらわなあきまへん。……できまっか?」
平山さんの鋭い眼光が、夫婦を射抜く。
「は、はい! やります! あの家が買えるなら、なんでもします!」
生唾を飲み込み、震えながら決意する夫婦。その姿は、まるで怪しげな宗教の儀式に身を投じる信者のようだった。
平山さんが私の方を向き、自信たっぷりにウインクを投げてきた。
(……富ちゃん、よう見とけよ。これが『プロ』のやり方や)
そう言いたげな勝ち誇った顔。山下さん夫婦はもう、平山さんの掌の上で転がされるだけの操り人形と化していた。
「で、その芝居とは……?」
山下さんの問いに、平山さんは声を潜め、じりじりと身を乗り出した。
「ええか、山下さん。今から教えるのは、税務署の職員を完全に信じ込ませる、究極の『泣き落とし』や……」
平山さんが語り始めたその「芝居」の内容は、あまりにも泥臭く、しかし人間の心理を突き抜いた、この悪徳不動産屋ならではの「禁断の脚本」だった。
■業界用語解説:修正申告
修正申告とは、一度提出した確定申告の内容に誤り(過少申告など)があった場合に、正しく直して再申告することです。
不動産業界での悪用: 住宅ローンの審査を通すため、所得を水増しして修正申告を行い、納税証明書の発行を受ける行為。
リスク: 脱税、公文書偽造、詐欺罪に当たる重大な犯罪です。
「税金を払わずに済む芝居」とは一体?
平山さんのシナリオによって、山下さん夫婦はどのような姿で税務署に乗り込むことになるのでしょうか……。富山さんが驚愕した、その驚くべき内容へ続きます。




