助けたはずなのに壊れていく――“安全地帯依存”が最強たちの精神を蝕み始めた
「……おかしい」
最初に気づいたのは、ミアだった。
「……なにが?」
タンクが振り返る。
「……回復量が……増えてます」
「……は?」
「通常の三倍……いや、五倍以上……」
その言葉に、全員がざわついた。
「……そんなバカな」
タンクが腕を見る。
傷が、もうない。
いや——
「……早すぎる」
再生が、異常だ。
「……これ、いいことじゃねぇのか?」
誰かが笑う。
だが。
「……違います」
ミアが、首を振った。
「……これ……“回復”じゃない」
沈黙。
「……は?」
「……“上書き”です」
その言葉に。
空気が、冷えた。
「……どういう意味だ」
セリスが、目を細める。
「……この空間に最適な状態に、強制的に整えてる」
「……それの、何が問題だ」
「……“元に戻らない”」
沈黙。
「……は?」
タンクが、眉をひそめる。
「……つまり」
ミアは、ゆっくり言う。
「……外に出たら」
「……適応できなくなります」
その瞬間。
全員が、凍りついた。
「……おい」
タンクが、低く言う。
「……それって」
「……ここにいないと、生きられないってことか?」
「……はい」
ミアは、震えながら頷いた。
静寂。
「……はは」
誰かが、笑った。
乾いた笑い。
「……マジで?」
「……やばすぎだろ」
その通りだ。
「……完全に、依存だな」
セリスが、静かに言う。
「……戻れなくなる」
「……ああ」
俺は、頷いた。
その時だった。
「……あ、ああ……」
小さな声。
全員が振り向く。
さっき入った魔導士の女。
「……なんだ……これ……」
自分の手を見ている。
震えている。
「……魔力が……」
空気が、ざわつく。
「……どうした?」
タンクが近づく。
「……出せない……」
「……は?」
「……魔法が……」
女の目が、見開かれる。
「……使えない……!」
沈黙。
「……おい」
セリスが、低く言う。
「……それ、どういうこと?」
「……分からない……」
女は、必死に手をかざす。
だが。
何も起きない。
「……さっきまで……」
「……外では、使えてた……」
震える声。
「……ここに入ってから……」
「……使えない……」
静寂。
「……まさか」
ミアが、青ざめる。
「……最適化……」
「……何がだ」
「……この空間にとって“不要な能力”を削ってる……」
沈黙。
「……は?」
タンクが、固まる。
「……つまり」
ミアが、震える声で言う。
「……戦闘能力が……いらないと判断されてる……」
その瞬間。
空気が、凍った。
「……ふざけんな」
女が、叫ぶ。
「……私の力が……!」
「……消えていく……!」
必死に、何度も手をかざす。
だが。
何も起きない。
「……っ」
膝から崩れる。
「……やっと……」
震える声。
「……ここまで来たのに……」
その目に、涙。
「……全部……」
「……意味ないのかよ……」
沈黙。
「……違う」
俺は、静かに言った。
全員が、こちらを見る。
「……ここでは」
ゆっくりと言う。
「……戦う必要がない」
「……は?」
「……回復も、防御も、全部ある」
「……だから」
「……戦闘能力は、不要」
その言葉に。
女の顔が、歪む。
「……ふざけんな……」
「……それが……私の……」
「……全部だったのに……!」
その瞬間。
セリスが、小さく笑った。
「……なるほどね」
「……完全に、依存させる構造だ」
「……どういう意味だ」
タンクが聞く。
「……簡単だよ」
セリスは、女を見る。
「外では強い。でも中では無力」
「……逆に」
こちらを見る。
「中では最強。でも外では死ぬ」
沈黙。
「……逃げ場、ないな」
タンクが、苦笑する。
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……ここに適応した時点で」
「……終わりだ」
その時だった。
「……やめて」
小さな声。
女が、震えている。
「……これ以上……」
「……消さないで……」
「……」
俺は、黙って見ていた。
「……お願い……」
手を伸ばす。
「……元に……戻して……」
沈黙。
「……無理だ」
俺は、あっさり言った。
その瞬間。
空気が、凍る。
「……え?」
「……戻せない」
「……なんで……」
「……最適化は、一方通行だ」
静寂。
「……じゃあ……」
女の声が、震える。
「……私は……」
「……もう……」
「……ああ」
俺は、静かに言った。
「……ここで生きるしかない」
その言葉に。
女の顔から、全ての色が消えた。
「……ああ……」
力なく、笑う。
「……最高じゃないか……」
「……は?」
タンクが、眉をひそめる。
「……戦わなくていい……」
女は、ゆっくりと笑う。
「……痛くない……」
「……怖くない……」
その目。
完全に——
壊れている。
「……これ」
ミアが、震える。
「……精神、依存してます……」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……もう戻れない」
その時。
「……カナメ」
セリスが、低く言う。
「……これ、止める気ある?」
沈黙。
「……ないな」
俺は、即答した。
「……は?」
「……必要だ」
全員が、固まる。
「……ここを維持するには」
ゆっくりと言う。
「……依存が必要だ」
「……」
誰も、反論できない。
「……だから」
俺は、女を見る。
「……そのままでいい」
その瞬間。
女が、笑った。
「……ああ……」
「……最高だ……」
完全に、壊れた笑顔。
「……ここが……」
「……全部でいい……」
沈黙。
「……やべぇな」
タンクが、小さく呟く。
「……完全に中毒だ」
「……ああ」
俺は、頷いた。
その時だった。
——ドクンッ!!
空間が、激しく脈打つ。
「……っ!?」
ミアが叫ぶ。
「……また!?」
紋様が、さらに広がる。
「……まだ増えるのかよ!」
タンクが驚く。
「……違う」
俺は、目を細める。
「……これは……」
「……“外”だ」
沈黙。
「……は?」
「……外のやつらが」
ゆっくりと言う。
「……変わってる」
境界の向こう。
残っていた探索者たちが。
「……なんだよ……」
「……体が……」
膝をつく。
「……勝手に……!」
一人が、叫ぶ。
「……ここに……行きたい……!」
「……やめろ!」
仲間が止める。
だが——
「……無理だ……!」
その目。
完全に、引き寄せられている。
「……呼ばれてる……」
ゆっくりと、歩き出す。
「……来いって……」
「……やめろおおお!!」
叫びながら。
止まらない。
——ドンッ
境界に、ぶつかる。
「……っ!」
「……選ばれる……!」
ミアが、震える。
「……これ……」
「……止まらない……!」
その瞬間。
俺は、理解した。
「……依存は」
小さく呟く。
「……中だけじゃない」
全員が、固まる。
「……外にも広がる」
その言葉に。
誰も、笑わなかった。
——これはもう。
拠点じゃない。
「……感染だ」
俺は、静かに言った。
その瞬間。
全員の背筋が、凍った。




