外に出たくないはずなのに――依存した最強たちが“守るために外へ出る”という矛盾
——ドンッ!!
爆音が、ダンジョンを揺らした。
「……来たな」
タンクの男が、低く言う。
俺も、境界の外を見た。
闇の奥。
さっきよりも、明確な“敵意”がある。
「……数、多いな」
「十……いや、二十はいる」
セリスが、静かに数える。
「……さっきの連中か」
誰かが呟く。
「違うな」
セリスは首を振る。
「もっと統率されてる」
その言葉通りだった。
足音が揃っている。
無駄な動きがない。
「……組織かよ」
タンクが舌打ちする。
「面倒だな」
「……当然だろ」
俺は、淡々と言った。
「ここがバレた時点で、こうなる」
安全地帯。
回復。
絶対防御。
——こんな場所、奪いに来ない理由がない。
「……で、どうする?」
タンクが俺を見る。
「戦うのか?」
「……いや」
俺は、首を振る。
「ここから出ない」
「……は?」
「ここは、安全地帯だ」
ゆっくりと言う。
「わざわざ外に出る意味がない」
沈黙。
「……でもよ」
タンクが眉をひそめる。
「このままじゃ囲まれるぞ?」
「……ああ」
分かってる。
「……それでも、出ない」
俺は言い切った。
その瞬間。
空気が、微妙に変わった。
「……なるほどね」
セリスが、小さく笑う。
「“中に引き込む”気か」
「……そうだ」
俺は頷く。
「外で戦う必要はない」
「……ここに来たやつだけ、相手にする」
「……完全に待ちの構えか」
「そうなる」
だが。
「……それだと」
ミアが、不安げに言う。
「外でやられた人たちが……」
その言葉に。
誰も答えなかった。
外にいるやつは——
基本的に、切り捨て。
「……助けない」
俺は、はっきり言った。
「ここは、全員を救う場所じゃない」
沈黙。
「……冷てぇな」
タンクが苦笑する。
「……そうだな」
俺は、否定しなかった。
その時だった。
——ドンッ!!
境界のすぐ外で、爆発。
「……近い!」
誰かが叫ぶ。
煙の中から、影が飛び出してきた。
「——っ!?」
一人の男が、転がり込むように境界へ。
「入れろ!!」
必死の叫び。
後ろから、追撃。
「……っ」
俺は、男を見る。
ボロボロだ。
だが。
「……」
“合ってる”。
この空間に。
「……入れ」
その瞬間。
男が中に転がり込む。
「はぁ……はぁ……」
息を荒げながら、周囲を見る。
「……助かった……」
その直後。
「——来るぞ」
セリスが、低く言う。
煙の中から、次の影。
三人。
装備は統一。
動きも連携している。
「……あいつらだな」
タンクが構える。
「どうする?」
「……中に入れるな」
俺は即答した。
「……了解」
セリスが、一歩前に出る。
境界ギリギリ。
「……ここから先は、入れない」
静かに言う。
三人のうち、一人が笑った。
「……へぇ」
「やっぱりあるのか、壁」
手を伸ばす。
——パチン
弾かれる。
「……面白いな」
男は、ニヤリと笑う。
「じゃあ——壊すか」
その瞬間。
「——やらせない」
セリスが動いた。
境界の“内側から”。
一瞬で、距離を詰める。
「……っ!?」
男が反応するより早く——
——斬撃。
「がっ!?」
一人が吹き飛ぶ。
だが。
「……浅い」
セリスが舌打ちする。
「……回復があるな」
男が、ニヤリと笑う。
「外でもな」
「……面倒だな」
セリスが、距離を取る。
その時だった。
「……なんで」
小さな声。
さっき入った男だ。
「……なんで、お前」
震える声。
「……外に出てるんだよ……!」
セリスを見る。
「……は?」
「ここにいれば、安全なんだろ……!」
「……ああ」
「だったら、なんで……!」
その問いに。
セリスは、一瞬だけ黙って——
「……守るため」
そう言った。
「……は?」
「ここを」
振り返る。
「失いたくないから」
その言葉に。
全員が、息を呑んだ。
「……依存、か」
タンクが呟く。
「……そうだな」
俺も、静かに頷く。
安全だからいるんじゃない。
「……ここがないと、無理だから」
だから。
「……守る」
その矛盾。
「……最高に、狂ってるな」
誰かが笑う。
その通りだ。
だが——
「……それでいい」
俺は、そう思った。
その時。
「……カナメ」
ミアが、小さく言う。
「……あの人たち」
外の三人を見る。
「……入れないんですか?」
「……入れない」
即答する。
「……なんで?」
「……合ってない」
それだけじゃない。
「……敵になる」
その瞬間。
外の男が、笑った。
「……聞こえてるぞ」
一歩、前に出る。
「……選んでるんだな」
「……そうだ」
俺は、隠さない。
「……なら」
男は、剣を構える。
「……奪うだけだ」
その瞬間。
空気が、張り詰めた。
「……来るぞ!」
タンクが叫ぶ。
三人が、一斉に動く。
境界ギリギリで攻撃。
だが——
「……無駄だ」
俺が呟いた瞬間。
——パチン
全て弾かれる。
「……は?」
男が、驚く。
「……入れない限り」
俺は、静かに言う。
「……何も届かない」
絶対防御。
沈黙。
「……チッ」
男が舌打ちする。
「……厄介だな」
「……だが」
ニヤリと笑う。
「……中のやつを、引きずり出せばいい」
その瞬間。
空気が変わった。
「……なるほど」
セリスが、小さく呟く。
「外に出た瞬間を狙う、か」
「……そういうことだ」
男は、余裕の笑み。
「……籠城は、いつか崩れる」
その言葉に。
全員が、理解する。
「……どうする?」
タンクが、俺を見る。
「このままじゃ——」
「……問題ない」
俺は、静かに言った。
「……え?」
「……出なければいい」
「……それだけか?」
「……いや」
俺は、一歩前に出る。
「……もう一つある」
「……?」
全員が、俺を見る。
「……増やす」
また、その言葉。
「……まだかよ」
タンクが呆れる。
「……違う」
俺は、首を振る。
「……今回は」
境界の外を見る。
「……“選んで引き込む”」
「……は?」
その瞬間。
俺の足元の紋様が、光る。
「……呼べる」
「……え?」
ミアが、目を見開く。
「……この空間に合うやつを」
俺は、ゆっくりと言う。
「……引き寄せる」
沈黙。
「……おい」
タンクが、低く言う。
「それってよ」
「……もう、拠点じゃねぇぞ」
「……ああ」
俺は、頷く。
「……分かってる」
これはもう——
「……選ばれたやつだけが来る場所だ」
その瞬間。
空間が、大きく脈打った。
——ドクン
「……来る」
ミアが、震える。
闇の奥から。
「……あれ」
セリスが、目を細める。
「……強いな」
ゆっくりと現れたのは——
一人の女。
ボロボロのローブ。
だが、その魔力は異常。
「……あいつ」
タンクが呟く。
「……見たことある」
「……誰だ?」
「……災害級の魔導士だ」
空気が凍る。
女は、ふらつきながら歩いてくる。
「……ああ」
かすれた声。
「……見つけた」
境界の前で、崩れ落ちる。
「……ここ」
手を伸ばす。
「……やっと……」
その目。
完全に——
壊れている。
「……依存確定だな」
セリスが、小さく笑う。
俺は、少しだけ考えて——
「……入れる」
その瞬間。
女が、境界を越えた。
——ドクン
空間が、さらに強く脈打つ。
「……これ」
ミアが震える。
「……また、強くなってる……」
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
「……来いよ」
小さく呟く。
外の連中を見る。
「……全部、取り込んでやる」
その言葉に。
全員が、黙った。
——ここはもう。
逃げ場じゃない。
「……集まる場所だ」
そして。
「……縛る場所だ」
外の男が、笑う。
「……面白ぇ」
剣を構える。
「……潰しがいがある」
俺は、静かに見返した。
「……やれるもんなら」
その瞬間。
空間が、再び震えた。
——戦いが、始まる。
でも。
俺は、動かない。
「……戦わない」
その代わりに。
「……全部、使う」
それが、この場所の戦い方だ。




