表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない俺、ダンジョンで“休憩所”を作っただけなのに最強探索者たちが通い詰めて世界の拠点になってしまった  作者: ローナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

“入場権が億単位で取引され始めた”結果、休憩所が通貨そのものになった

「……一泊、五千万」


静かな声だった。


だが、その一言で空気が完全に変わった。


「は?」


誰かが素っ頓狂な声を出す。


「今、なんて?」


「だから」


男は淡々と繰り返す。


「一泊、五千万。現金でも資産でもいい。対価は払う」


休憩所の入口。

そこに立っているのは、明らかに“探索者じゃない”男だった。


仕立てのいい服。

無駄のない所作。

そして何より──


命の価値を金で測ることに一切の迷いがない目。


「……誰だ?」


レオニスが低く問う。


男は軽く礼をした。


「商会の者です。名前はどうでもいい」


その言葉で分かる。


こいつは“個人”じゃない。


背後に、でかいものがいる。


「要件は単純です」


男はまっすぐ俺を見る。


「この場所に、入れていただきたい」


沈黙。


全員が、俺の反応を待っている。


「……なんでだ」


俺は短く聞く。


男は少しだけ笑った。


「逆に聞きます。入らない理由が?」


空気が、凍る。


「ここにいれば、死なない。壊れない。回復する」


一つ一つ、確かめるように言う。


「それが金で買えるなら、安いものです」


「……安い?」


誰かが呟く。


「五千万だぞ……?」


男は肩をすくめる。


「死ぬよりは」


その一言で、場が静まり返る。


(……始まったな)


俺は内心で呟く。


依存が、“市場”になった。


「……ダメだ」


そのとき、別の声。


振り向くと、若い探索者が前に出ていた。


「ふざけんなよ」


拳を握りしめている。


「ここは、そういう場所じゃねえだろ」


「そういう場所、とは?」


男が首を傾げる。


「……助け合う場所だろ」


沈黙。


数秒。


そして──


「違いますね」


男はあっさり言った。


「ここは、“価値がある者が生き残る場所”でしょう?」


全員が、言葉を失う。


その視線が、一斉に俺に向く。


(……言ったよな、俺)


“価値があるやつを残す場所”だって。


「……で?」


男が一歩近づく。


「いくらなら、入れてくれますか?」


金額じゃない。


そう思った瞬間。


「……条件がある」


気づけば、口が動いていた。


「ほう」


男の目が細くなる。


「金だけじゃダメだ」


「では?」


俺は、ゆっくりと言う。


「“継続的に価値を生むこと”」


ざわっ。


「……具体的には?」


「情報、物資、人脈、全部だ」


俺は男を見る。


「ここに来る価値を“増やせるやつ”だけ入れる」


沈黙。


そして。


「……なるほど」


男は、小さく笑った。


「単なる客ではなく、“機能”になれと」


「そうだ」


「面白い」


男は頷く。


「なら、提案があります」


空気が、ピンと張る。


「この場所の“入場権”を、私に管理させてください」


一瞬、理解が遅れる。


「……は?」


「整理します」


男は淡々と話し始める。


「今、この場所は需要が供給を完全に上回っている」


その通りだ。


「つまり、“入れない人間”が大量にいる」


全員の視線が、外へ向く。


あの泣き声。


壊れた声。


「そこに“市場”を作る」


男の声が、少しだけ熱を帯びる。


「入場権を発行し、売買させる」


「……チケット制ってことか?」


誰かが言う。


「そうです」


男は頷く。


「ただし、ただのチケットではない」


「何が違う?」


「価値が変動する」


沈黙。


「需要が高まれば、価格は上がる」


「……当たり前だろ」


「違う」


男は首を振る。


「“生存率”に直結するんです」


空気が、変わる。


「ここに入れるかどうかで、生きるか死ぬかが決まる」


「つまり」


男は笑う。


「これはもう、“通貨”です」


ゾワッ、と背筋が粟立つ。


「入場権そのものが、価値になる」


誰も、否定できなかった。


「……お前、頭おかしいだろ」


レオニスが呟く。


「ありがとう」


男はあっさり受け取る。


「で、管理させてくれるなら」


一歩踏み出す。


「この場所の価値を、何倍にもできます」


沈黙。


全員が、俺を見る。


(……どうする)


拒否すれば、今まで通り。


だが、受け入れれば──


「……条件がある」


俺は言った。


男の口元がわずかに歪む。


「なんでしょう」


「“最終決定権は俺”」


「当然です」


即答。


「もう一つ」


「はい」


「気に入らないやつは、全部切る」


「問題ありません」


男は一切迷わない。


「それも含めて、“価値”です」


沈黙。


そして。


「……いいよ」


俺は言った。


その瞬間。


空気が変わった。


「契約成立ですね」


男が微笑む。


その顔はもう、完全に“商人”だった。


「まずは試験的に」


彼は指を鳴らす。


後ろから数人の男が現れる。


「彼らに入場権を与えます」


「……いくらだ?」


「一人、一億」


場が凍る。


「は?」


「即決で買いました」


男はさらっと言う。


「この瞬間から、“価格”が生まれます」


その言葉通りだった。


「……俺も買う」


別の声。


「三億出す!」


「待て、五億だ!」


一気に、崩壊した。


「順番だ!!」


「ふざけんな、俺が先だ!!」


叫び声。


押し合い。


完全に“市場”になった。


「……やばいなこれ」


レオニスが呟く。


「もう止まらねえぞ」


俺は、静かにそれを見ていた。


(……これが、“支配”か)


力じゃない。


金でもない。


「“必要とされること”そのもの」


それが、支配になる。


そのとき。


外から、また声。


「頼む……入れてくれ……」


弱々しい声。


だが──


誰も見ない。


もう、価値がないから。


俺は少しだけ考えて。


そして。


「……あいつ、いくら出せる?」


ぽつりと呟いた。


その瞬間。


空気が止まった。


「……お前」


レオニスが、苦く笑う。


「完全にそっち側だな」


「最初からだろ」


俺は答える。


そして、外に向かって言う。


「金、あるか?」


沈黙。


そして。


「……ない」


小さな声。


俺は、迷わなかった。


「じゃあ、無理だ」


その一言で。


外の声は、完全に消えた。


静寂。


重たい、静寂。


そして。


誰かが、震えながら言う。


「……これ、地獄じゃね?」


違う。


俺は思う。


(これは、“選別”だ)


そのとき。


【空間最適化:経済機能を統合します】


表示が、変わる。


(……は?)


次の瞬間。


俺の視界に、“数字”が浮かんだ。


入場権の価値。

滞在時間。

個人の“貢献度”。


すべてが、可視化されている。


「……はは」


思わず、笑った。


(完全にゲームだな)


いや、違う。


「現実のほうが、よっぽど残酷か」


そして俺は、静かに理解する。


この場所はもう、“休憩所”じゃない。


世界で最も安全で、最も残酷な市場だ。


そのとき。


商人の男が、ふと空を見た。


「……来ますね」


「何が?」


次の瞬間。


通路の向こう。


大量の人影。


貴族、商人、兵士。


そして──


明らかに“異質な存在”。


「……他国ですね」


男が呟く。


「情報が回った」


ゾワッとする。


「これ、全部……」


「ええ」


男は微笑む。


「“お客様”です」


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


(……規模、バグってきたな)


そして。


次の支配が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ