“選ばれるために自分を捨てる人間たち”――それでも俺は入れなかった
——泣き声が、外から聞こえた。
「……また来てるな」
タンクが、眉をしかめる。
「……しかも、今回は多い」
境界の向こう。
そこには——
人、人、人。
「……何だこれ……」
ミアが、息を呑む。
「……前より増えてる……」
その通りだった。
明らかに。
異常な数。
しかも——
「……様子がおかしい」
セリスが、目を細める。
「……統制がない」
バラバラだ。
隊列もない。
規律もない。
ただ——
「……“入りたい”だけで来てる」
俺は、静かに言った。
沈黙。
その時だった。
「——頼む!!」
一人の男が、叫ぶ。
「——入れてくれ!!」
境界に、手をつく。
「……嫌だ」
俺は、即答した。
静寂。
「……な、なんでだよ!!」
男が、叫ぶ。
「……俺はちゃんと来ただろ!?」
「……知らない」
「……俺は……」
男は、震える。
「……全部捨ててきたんだぞ!!」
沈黙。
「……家も」
「……仲間も」
「……全部だ!!」
叫びが、響く。
「……それで?」
俺は、静かに聞いた。
「……それで入れると思ったのか」
沈黙。
「……当たり前だろ!!」
男が叫ぶ。
「……ここに入れば助かるんだろ!?」
「……違う」
俺は、首を振る。
「……“選ばれたやつだけが助かる”」
その一言で。
空気が、凍った。
「……じゃあ……」
男の声が、震える。
「……どうすればいいんだよ……」
沈黙。
「……知らない」
俺は、答えた。
「……それは俺が決める」
静寂。
その時だった。
「——なら」
別の声。
女だった。
「——証明すればいいんだよね?」
全員が、そちらを見る。
女は——
笑っていた。
「……何をだ」
セリスが聞く。
「……“選ばれる価値”」
女は、ナイフを取り出す。
「……おい」
タンクが、顔をしかめる。
だが。
止まらない。
——ザクッ
自分の腕を、切った。
「……っ!」
ミアが目を見開く。
血が、流れる。
「……ほら」
女は、笑う。
「……痛みに耐えられる」
「……だから価値がある」
沈黙。
「……狂ってる」
タンクが、低く言う。
だが。
それで終わらなかった。
「……なら俺も」
別の男が、前に出る。
「……俺の方が耐えられる」
——ザクッ
さらに深く、切る。
「……見ろよ」
笑う。
「……俺の方が強い」
「……違う」
女が、笑う。
「……足りない」
——グサッ
自分の太ももに、刺す。
「……これくらいでしょ?」
沈黙。
「……やめろ!!」
ミアが叫ぶ。
だが——
止まらない。
「……俺もやる」
「……俺も……!」
次々と。
人間が、自分を傷つけ始める。
「……最悪だな」
セリスが、笑う。
「……“選ばれるための競争”」
「……カナメ」
ミアが、震える声で言う。
「……止めてください……!」
沈黙。
俺は、見ていた。
ただ、見ていた。
「……なんで……」
ミアの声が、崩れる。
「……なんで止めないんですか……」
静寂。
「……必要だからだ」
俺は、静かに言った。
「……え?」
「……“見極める”ために」
沈黙。
「……そんなの……」
「……じゃあ聞く」
俺は、ミアを見る。
「……全員入れるか?」
言葉が、詰まる。
「……無理だろ」
俺は、続ける。
「……なら選ぶしかない」
静寂。
その時だった。
「——ああああああああああ!!」
絶叫。
一人の男が——
別の男を、殴り倒した。
「……は?」
タンクが、目を見開く。
「……お前より俺の方が上だ!!」
殴る。
踏みつける。
「……やめろ!!」
「……違う!!」
女が、叫ぶ。
「……そいつは関係ない!!」
「……関係あるだろ!!」
男が、叫ぶ。
「……減れば入れる可能性が上がる!!」
沈黙。
その一言で。
空気が、変わった。
「……あ」
誰かが、呟く。
「……そうか……」
理解してしまった。
「……減らせばいいんだ」
静寂。
そして——
——ドンッ!!
争いが、始まった。
「……最悪だな」
セリスが、楽しそうに言う。
「……やっぱりこうなる」
「……カナメ!!」
ミアが叫ぶ。
「……もう無理です!!」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……だから」
一歩、前に出る。
「……切る」
沈黙。
「……何をだ」
タンクが聞く。
「……“外”を」
その瞬間。
——パチン
空間が、変わる。
「……え?」
ミアが、息を呑む。
境界が——
閉じた。
「……は?」
「……入れない……?」
外の人間たちが、ざわめく。
「……なんでだ!!」
「……さっきまで開いてただろ!!」
「——拒否した」
俺は、静かに言った。
「——全員」
静寂。
「……は?」
「……条件を満たさない」
俺は、淡々と続ける。
「……だから終わりだ」
沈黙。
「……そんな……」
誰かが、崩れる。
「……嘘だろ……」
「……ここまで来たのに……」
泣き声。
絶望。
だが——
俺は、動かない。
「……カナメ……」
ミアが、震える。
「……これでいいんですか……」
沈黙。
「……いい」
俺は、答えた。
「……これは“選別”だ」
静寂。
その時。
“それ”が、静かに言った。
「——新条件、生成」
「——“他者依存排除”」
沈黙。
「……何だそれ」
「——他者を踏み台にした者」
一言。
「——永久拒否」
静寂。
外の人間たちの顔が——
一斉に変わる。
「……は?」
「……嘘だろ……?」
「……じゃあ……」
震える声。
「……さっきの……」
殴った男が、顔を歪める。
「……俺は……」
「——拒否」
即座に、切られる。
「……あ」
膝から崩れ落ちる。
「……終わった……」
沈黙。
「……面白いな」
セリスが、笑う。
「……“やり方”まで選別される」
「……ああ」
俺は、頷いた。
その目が、静かに細くなる。
「……次は」
一言。
「……“中の選別”だ」
空間が、静かに震えた。
——次は、“内部の裏切り”。




