ここにいるのが怖い――“楽園依存”が限界を超えた瞬間、自ら外に出ようとした
——静かすぎた。
「……おかしい」
セリスが、ぽつりと言う。
「……静かすぎる」
その通りだった。
ついさっきまで——
人で溢れていた。
声があった。
ざわめきがあった。
だが今は——
「……誰も、喋ってない……」
ミアが、震える声で言う。
全員が、座っている。
動かない。
ただ——
「……見てる」
タンクが、低く呟く。
「……全部、こっち見てるぞ」
沈黙。
数十人。
いや、百近い視線が——
俺に向いている。
「……来たな」
俺は、小さく言った。
「……何がだ」
「……限界だ」
その瞬間。
——カタッ
一人が、立ち上がる。
ゆっくりと。
ぎこちなく。
「……なあ」
声が、響く。
「……ここってさ」
笑っている。
だが、目が笑っていない。
「……安全なんだよな?」
沈黙。
「……ああ」
俺は、頷く。
「……安全だ」
「……だよな」
男は、笑う。
「……じゃあさ」
一歩、近づく。
「……なんで怖いんだ?」
静寂。
誰も、答えない。
「……なあ」
男は、周囲を見る。
「……お前らも思ってるだろ?」
沈黙。
「……ここにいるのに」
「……安心できない」
空気が、揺れる。
「……それは」
ミアが、口を開きかける。
「……やめろ」
セリスが、止める。
「……もう遅い」
その通りだった。
「……ここさ」
男が、笑う。
「……“終わりがない”んだよ」
沈黙。
「……外はさ」
続ける。
「……死ぬかもしれない」
「……でもさ」
「……終わるだろ?」
その言葉に——
何人かが、顔を上げた。
「……ここは違う」
男の声が、震える。
「……終わらない」
「……ずっとだ」
「……ずっとここにいる」
「……ずっと選ばれ続ける」
沈黙。
「……それってさ」
一言。
「……地獄じゃね?」
その瞬間。
——ドクン
空間が、脈打つ。
「……っ!?」
ミアが息を呑む。
「……反応してる……!」
「……当然だ」
俺は、静かに言った。
「……“認識”したからな」
沈黙。
「……なあ」
別の男が、立ち上がる。
「……外に出たい」
静寂。
「……は?」
タンクが振り向く。
「……正気か?」
「……正気だよ」
男は、笑う。
「……むしろ今が一番まともだ」
「……ここにいるとさ」
頭を押さえる。
「……自分が自分じゃなくなる」
沈黙。
「……依存してるのは分かってる」
「……でも」
「……だから怖い」
その言葉で——
連鎖した。
「……俺もだ」
「……分かる……」
「……ここにいたら……終わる……」
次々と、立ち上がる。
「……おい……」
タンクが、後ずさる。
「……なんだこれ……」
「……崩壊だよ」
セリスが、笑う。
「……依存の限界」
その時だった。
「……カナメ」
ミアが、震える声で言う。
「……どうしますか……」
沈黙。
全員が、俺を見る。
「……出たいなら」
俺は、静かに言った。
「……出ればいい」
静寂。
「……え?」
「……止めない」
その一言で——
空気が変わった。
「……いいのか……?」
誰かが、呟く。
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……選べ」
沈黙。
「……はは……」
最初の男が、笑う。
「……やっとだ」
一歩、境界へ向かう。
「……やっと終われる」
その言葉に。
ミアが、目を見開く。
「……違う……!」
叫ぶ。
「……それ、終わりじゃない!」
「……知ってる」
男は、振り返らない。
「……でもさ」
一言。
「……それでもいい」
沈黙。
「……行く」
男が、境界に触れる。
——スッ
そのまま、外へ出た。
「……っ!」
ミアが、息を呑む。
男は、立っている。
数秒。
何も起きない。
「……ほらな」
男が、笑う。
だが——
次の瞬間。
——ドクン
体が、揺れる。
「……あ」
崩れる。
「……ああ……」
呼吸が、乱れる。
「……これだ……」
笑っている。
「……これが……」
「……終わりだ……」
——ボロッ
体が、崩れ始める。
「……やめろ……!」
ミアが叫ぶ。
だが。
男は、止まらない。
「……ありがとうな」
最後に、言った。
「……選ばせてくれて」
そして——
消えた。
静寂。
「……なんでだよ……」
タンクが、低く言う。
「……なんで笑ってんだよ……」
「……簡単だ」
セリスが、静かに言う。
「……“選べた”からだ」
沈黙。
その時だった。
「……カナメ」
ミアが、震える声で言う。
「……これ……」
「……ああ」
俺は、頷いた。
「……新しい依存だ」
静寂。
「……何がだ」
タンクが聞く。
「……“選択”」
俺は、静かに言った。
「……ここは」
一言。
「……“選べる場所”になった」
沈黙。
「……つまり」
セリスが、笑う。
「……出ることすら価値になる?」
「……ああ」
俺は、頷いた。
その瞬間。
——ドクンッ!!
空間が、強く脈打つ。
「……また!?」
ミアが叫ぶ。
「……今度はなんだ!?」
「……範囲拡張だ」
沈黙。
「……は?」
「……外にも」
ゆっくりと、言う。
「……“選択”が広がる」
静寂。
「……意味分かんねぇよ」
タンクが呟く。
その時。
“それ”が、静かに言った。
「——外部変化」
「——人間行動、変質」
沈黙。
「……何が起きてる」
「——“ここに入るために”」
一言。
「——人間が、自分を選別し始めた」
静寂。
全員の背筋が、凍る。
「……は?」
「……どういうことだよ……」
俺は、小さく笑った。
「……始まったな」
その目が、細くなる。
「……“世界全体の選別”」
空間が、静かに震えた。
——次は、“人間が自ら選ばれる世界”。




