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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第20話: 勇者の慟哭

膝をついたまま、勇者は荒く息を吐いていた。


肺が焼ける。

腕が痺れる。

それでも立ち上がる。


立たなければならない。


そうしなければ。


「どうしてだ!!」


王の間に、声が炸裂する。


「俺は勇者だ!! なぜ届かない!!」


床を拳で叩く。


石が砕ける。


「世界も……祝福してくれている! 力もある! おかしいだろ!!」


その叫びは怒号というより、悲鳴に近い。


魔王は、玉座の前に立ったまま動かない。


外套がわずかに揺れるだけ。


「貴様は、なんのためにここに来た」


静かな声。


勇者は顔を上げる。


瞳はまだ赤く滲んでいる。


「お前を倒すためだ」


即答。


迷いはない。


いや、迷いを挟む余地がない。


「否」


魔王は首を振る。


「そもそも、なぜ余を討とうとする」


勇者の歯が軋む。


「世界を守るためだ!!」


叫び返す。


その言葉は、何度も口にしてきた台詞。


村で。

王都で。

神殿で。

仲間の前で。


正しい言葉。


正義の言葉。


魔王は、ゆっくりと歩き出す。


勇者との距離を、詰めすぎず、離れすぎず。


「ふむ?」


顎に手を当てる。


「どうやらその“世界”とやらに、貴様の仲間は含まれていないようだな?」


空気が、凍る。


勇者の呼吸が止まる。


「……なかま?」


聖女が小さく息を呑む。


賢者の視線が鋭くなる。


暗殺者は、何も言わない。


魔王は続ける。


「貴様は先ほど、“世界が祝福してくれている”と言った」


勇者の瞳が揺れる。


「だからなんだ」


「ならば聞こう」


魔王の声が、わずかに低くなる。


「その祝福とやらは、貴様の隣に立つ者たちよりも重いのか」


勇者が振り向く。


聖女がいる。


震えながらも、立っている。


賢者がいる。


冷静を保とうとしながら、勇者を見ている。


暗殺者がいる。


薄く、目を細めて。


「違う」


即答。


だが声が弱い。


魔王は畳みかける。


「ならばなぜ、貴様は一人で斬りかかる」


勇者の喉が詰まる。


「それは……」


言葉が、出ない。


「なぜ、貴様は“俺が”世界を救うと言う」


一歩。


魔王が近づく。


「“俺たち”ではないのか」


勇者の視界が揺れる。


遠い記憶が、浮かぶ。


神殿。


光。


信託の間。


自分の前に並ぶ三人。


あの時。


「よし! 俺たち“4人”で世界を救おう!」


拳を突き出した。


笑った。


聖女が涙ぐみながら笑った。


賢者が苦笑しながらも手を重ねた。


暗殺者が、少し遅れて触れた。


『みんな』とならやれる。


そう誓った。


「……そうだ」


勇者の声が、震える。


「俺は……」


魔王は静かに言う。


「今の貴様は、“勇者”であろうとしている」


言葉が、胸に刺さる。


「仲間と共に立つ者ではなく、祝福に選ばれた役を演じる者だ」


「違う!!」


反射的に叫ぶ。


だが力がない。


魔王の瞳は冷たいわけではない。


ただ、真っ直ぐだ。


「貴様は何度も“世界”と言う」


「……」


「では聞こう。その世界とは、何だ」


勇者は答えられない。


国か。

人々か。

平穏か。

概念か。


「具体を持たぬ大義は、便利だ」


魔王の声は淡々としている。


「守ると言いながら、何も見ていない」


勇者の拳が震える。


「俺は……」


魔王が続ける。


「余を討てば、世界は救われると誰が言った」


「……神託が」


聖女がびくりとする。


魔王の視線が、聖女へ向く。


「ほう」


再び勇者へ。


「その神託は、貴様に何を与えた」


勇者は思い出す。


力。


祝福。


レベル。


加護。


だが。


「奪われたものは、何だ」


その問いに、胸が締めつけられる。


さきほどの戦い。


仲間の声が届かなかった。


剣を振るうたび、遠ざかる感覚。


自分が、どこかに置いていかれるような。


「俺は……」


言葉が崩れる。


魔王は一歩、距離を取る。


「貴様は余を討とうとした」


「……ああ」


「その時、隣を見たか」


沈黙。


勇者の呼吸が乱れる。


見ていない。


見られなかった。


見ようとしなかった。


「世界を守ると言いながら、隣を守れていない」


勇者の瞳から、赤がわずかに薄れる。


「なかま……」


その言葉は、呟き。


魔王はとどめを刺すように言う。


「貴様が守ろうとしている“世界”に、彼らは含まれているのか」


勇者は、振り返る。


聖女と目が合う。


涙を堪えている。


賢者と目が合う。


静かに、だが痛みを滲ませている。


暗殺者と目が合う。


何も言わない。


ただ、待っている。


勇者の胸が軋む。


世界。


祝福。


使命。


それらが、急に遠くなる。


代わりに、近いものが見える。


呼吸。


足音。


共に歩いた道。


笑い声。


喧嘩。


火を囲んだ夜。


「……俺は」


声が震える。


「俺は……」


魔王は急かさない。


王の間は、静まり返る。


補正の圧が、わずかに揺らぐ。


勇者の内側で、二つの力が拮抗している。


役割と、個。


祝福と、記憶。


「俺は……この4人で、世界を守るって……」


かすれた声。


「あの時、そう誓ったのに」


膝が崩れる。


剣先が床に触れる。


金属音が、小さく響く。


魔王は静かに言う。


「ならば問う」


勇者が顔を上げる。


「貴様は勇者である前に、何だ」


その問いは、刃より鋭い。


王の間の空気が、張り詰める。


世界は、まだ介入していない。


だが。


勇者の答え次第で、流れは変わる。


勇者は、唇を震わせる。


肩書きが、崩れかけている。


勇者という殻が、軋んでいる。


「俺は……」


その先の言葉が、まだ出ない。


だが。


初めて。


勇者は“世界”ではなく、“仲間”を見ていた。



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