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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第19話: 狂化

王の間に、沈黙が落ちた刹那。


勇者の内側で、何かが弾けた。


脈動。


鼓動が一段、跳ね上がる。


視界が赤く滲む。


耳鳴り。


遠くで誰かが囁いている。


――討て

――終わらせろ

――今だ


理屈ではない。


命令でもない。


衝動。


勇者の喉が震える。


「まおぉぉぉぉぉう!!!!」


絶叫。


床石がひび割れる。


魔力が爆発的に膨れ上がる。


聖女が悲鳴を呑み込む。


「勇者様……!」


賢者の魔導盤が軋む。


「出力上限、突破……補正強化だ……!」


勇者が踏み込む。


爆発的な加速。


空気が裂ける。


王の間を一直線に駆ける。


剣が振り上げられる。


力任せ。


構えも、間合いも、理もない。


ただ叩き潰すための一撃。


魔王は、動かない。


一瞬遅れて、口を開く。


「そう急くな。勇者よ」


その声は、静かだ。


勇者の剣が振り下ろされる。


轟音。


玉座の前の床が砕ける。


だが。


金属音は、響かない。


魔王の剣が、わずかに触れている。


真正面から受けていない。


横へ、流している。


「ようやくまみえたな」


勇者が吠える。


「お前を討つ!!!」


横薙ぎ。


縦斬り。


突き。


連撃。


速度が増す。


魔王の外套が揺れる。


足運びは小さい。


最小限。


紙一重で軌道を外す。


刃が触れる瞬間だけ、角度を変える。


受けていない。


弾いてもいない。


“通している”。


勇者の一撃は、全力だ。


魔力を乗せ、肉体を軋ませ、魂ごと叩きつける。


だが。


手応えが、ない。


まるで水を斬っているような。


いや。


柳。


打ち込むほど、逃げる。


「全く話が通じん」


魔王は、軽くため息をつく。


勇者の突きが、喉元を狙う。


わずかに身を傾けるだけで、外れる。


「これではどちらが魔王か、わからんではないか」


勇者の瞳は、完全に赤い。


理性が焼けている。


「黙れえぇぇぇ!!」


剣を振り回す。


荒い。


重い。


速い。


だが、粗い。


魔王の足元の石が砕け、柱に傷が走る。


王の間が震動する。


聖女が息を呑む。


「……凄い」


震える声。


「全て、受け流してる……」


勇者の斬撃は、神速。


常人なら一太刀で肉片。


だが魔王は、涼しい顔だ。


汗もかかない。


呼吸も乱れない。


賢者が呟く。


「まるで……演舞だ」


正確だ。


魔王の動きは戦闘ではない。


型。


理。


重心移動の連鎖。


勇者の力を奪わず、殺さず、ただ“抜く”。


「どれ」


魔王が、初めて一歩踏み込む。


勇者の剣を、ほんの少し押す。


力ではない。


角度。


勇者の身体が前に流れる。


体勢が崩れる。


その背に、掌が触れる。


軽く。


衝撃。


勇者が吹き飛ぶ。


壁に叩きつけられる。


轟音。


粉塵。


だが、すぐに立ち上がる。


息が荒い。


「まだだ……!」


再び踏み込む。


加速。


さらに速い。


補正が、上乗せされる。


床石が弾け飛ぶ。


魔力の尾が残像を描く。


魔王の瞳が、わずかに細まる。


(世界が押しているな)


勇者の速度が不自然だ。


限界を越えている。


肉体が悲鳴を上げているはずなのに、止まらない。


「勇者」


魔王が言う。


だが、届かない。


勇者の耳には、血の音しかない。


剣が振り下ろされる。


魔王は、刃の側面に自分の刃を添える。


流す。


そのまま回転。


勇者の背後に抜ける。


首筋に刃を置ける位置。


だが、置かない。


「力任せでは、己も斬る」


勇者が振り向きざまに薙ぐ。


怒り。


焦燥。


理解できない苛立ち。


「当たれぇぇぇ!!」


連撃。


連撃。


連撃。


魔王は下がらない。


円を描くように動く。


勇者の中心を、常に外す。


まるで、嵐の目。


勇者が荒れ狂うほど、魔王の周囲だけが静かになる。


暗殺者が低く呟く。


「勇者には、魔王の心が届いてないようだがな」


賢者が歯を噛む。


「届いていないのではない。届かせない圧がある」


勇者の一撃が、天井を裂く。


瓦礫が落ちる。


聖女が結界を張る。


「勇者様、やめて……!」


声が、届かない。


勇者は、ただ斬る。


討つために。


終わらせるために。


だが。


魔王は、斬られない。


「終わらせたいのは、誰だ」


魔王の声が、わずかに低くなる。


勇者の剣が止まる。


一瞬。


だがすぐに振り払う。


「俺だ!!」


「違う」


即断。


勇者の刃を、軽く弾く。


体勢が崩れる。


「貴様は急かされている」


「違う!!」


「焦っている」


「違う!!」


「選んでいない」


その言葉。


勇者の瞳が、わずかに揺れる。


だが。


補正が、さらに押す。


魔力が暴走する。


床が陥没する。


賢者が叫ぶ。


「限界だ! それ以上は肉体が――」


勇者は踏み込む。


最後の加速。


咆哮。


剣が一直線に魔王の胸を狙う。


魔王は――


初めて、正面から受ける。


金属音。


衝撃波。


王の間が揺れる。


勇者の剣は、止まる。


魔王の剣に、受け止められている。


真正面。


視線が交わる。


至近距離。


勇者の呼吸は荒い。


瞳は赤い。


涙が滲んでいる。


「どうして……」


小さな声。


「どうして当たらない」


魔王は、静かに言う。


「貴様が、ここにいないからだ」


勇者の腕が震える。


「いる!!」


「半分はな」


押し返す。


勇者が膝をつく。


息が乱れる。


魔力が不安定に弾ける。


聖女が駆け寄ろうとする。


だが、賢者が止める。


「今入れば、巻き込まれる」


暗殺者は、動かない。


勇者の背を見ている。


魔王が、刃を引く。


「血の気は、少し抜けたか」


勇者は、震えながら立ち上がる。


赤い瞳が、わずかに揺れる。


理性の欠片が、浮かぶ。


だがまだ。


補正は止まらない。


王の間の空気が、重い。


見えない力が、討伐成立へ押している。


だが。


魔王は笑わない。


嘲らない。


ただ、立っている。


揺るがず。


勇者の荒れ狂う刃を、受け流し続ける。


力と理。


衝動と選択。


その差が、王の間に刻まれていく。


戦いは、まだ終わらない。


だが。


この瞬間。


誰の目にも明らかだった。


勇者は、勝とうとしていない。


“終わらされようとしている”。


そして魔王は――


それを、許していない。

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