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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第17話: 至る者

魔王城近郊。


空が、濁っていた。


雲ではない。


圧。


目に見えぬ重力のようなものが、大地を押し潰している。


勇者パーティは、既に均衡を失っていた。


勇者の瞳は赤く揺らぎ、

聖女は神託に縛られ、

賢者は計算を重ねながら沈黙し、

暗殺者だけが、わずかに“外”を見ている。


その異様な気配は、魔王城にも届いていた。


玉座の間。


「補正出力、上昇中です」


闇宰相の声は冷静。


巨大な魔導盤に、波形が乱れている。


「勇者の狂化、段階三。聖女の神託干渉率七割。世界は討伐完遂へ収束しています」


魔王は玉座に座したまま、目を閉じている。


「……そうか」


「好機です」


即答。


「勇者は崩壊寸前。今なら確実に討ち取れる。討伐を“成立”させることが可能です」


「成立、か」


魔王の声は低い。


「はい。循環は正常化します」


その言葉。


それが、引っかかった。


魔王はゆっくり目を開く。


「宰相」


「は」


「それは誰にとっての“正常”だ」


一瞬の間。


「世界にとって、です」


「魔族ではないのか」


「魔族もまた、世界構造の一部」


「人間は」


「同様に」


魔王は立ち上がる。


長い外套が揺れる。


「では問う」


玉座の段を一歩降りる。


「我は、世界の歯車か」


闇宰相は迷わない。


「左様にございます」


空気が止まった。


「魔王とは、破壊の象徴。勇者とは対なる存在。討たれ、また現れ、均衡を保つ」


「均衡」


「はい」


魔王は笑わない。


怒らない。


ただ、静かに歩く。


「勇者が狂うのは、何故だ」


「補正過多。討伐完遂への圧力」


「聖女が縛られるのは」


「神託強制」


「賢者が沈黙するのは」


「計算不能領域への恐怖」


「暗殺者は」


そこで、闇宰相がわずかに言葉を止めた。


「……誤差です」


魔王の目が細くなる。


「誤差」


「循環の蓄積。今回のみ発生した例外」


「排除対象か」


「可能であれば」


沈黙。


重い。


魔王は、ようやく理解する。


これは、戦ではない。


これは、収束だ。


世界が“物語”を終わらせに来ている。


勇者を勇者として、

魔王を魔王として。


「宰相」


「は」


「もし我が、討たれぬとしたら」


「世界は強制介入します」


「例えば」


「新勇者の発生。内部崩壊誘発。魔族暴走因子の活性化」


「……なるほど」


全て用意されている。


選択など、ない。


「ならば」


魔王は振り返る。


「我が、討たれる役を拒否したらどうなる」


「不可能です」


即答。


「構造は強固。個の意思では覆りません」


「個の意思」


魔王の声が、わずかに低くなる。


「我は個ではないのか」


「魔王です」


「だからか」


「はい」


「勇者もか」


「同様に」


「聖女も」


「然り」


「賢者も」


「然り」


「暗殺者は」


「例外ですが、いずれ修正されます」


そこで、魔王は止まった。


はっきりと。


「修正」


「はい」


「消すのか」


「必要であれば」


その瞬間。


魔王の中で、何かが噛み合った。


勇者が狂う理由。

聖女が泣く理由。

賢者が怯える理由。


暗殺者が“居場所を持たない”理由。


全て、構造。


「宰相」


「は」


「お前は正しい」


「光栄です」


「だが」


魔王の声が変わる。


王ではない。


武人の声。


「正しさは、強さではない」


初めて、闇宰相の眉が動く。


「魔王様?」


「我は戦ってきた」


一歩、近づく。


「勝ち、敗れ、また立った」


「はい」


「だがそれは、“選んだ”戦だ」


声が重くなる。


「討たれるための戦など、した覚えはない」


沈黙。


宰相は理解している。


これは論理の分岐。


「魔王とは、役割です」


「違う」


即断。


「我は、我だ」


空気が震える。


「世界が勇者を狂わせるなら」


「……」


「我は、その世界と戦う」


「無謀です」


「武人に無謀はない」


「ございます。敗北という形で」


「敗れてもよい」


その言葉に、闇宰相は初めて動揺した。


「魔王様は、魔族の王でございます」


「だからこそだ」


低く、重く。


「王が役割に従うだけなら、誰が個を守る」


静寂。


「勇者は、狂いながらも進んでいる」


「補正に押されています」


「ならば、押しているものを斬る」


「世界を、ですか」


「そうだ」


闇宰相は、はっきりと言う。


「不可能です」


魔王は、はっきりと返す。


「ならば、不可能を試す」


長い沈黙。


やがて宰相は、静かに言う。


「それは魔王の選択ではない」


「何だ」


「個の反抗です」


その言葉に、魔王は笑った。


初めて。


「そうか」


一歩、踏み出す。


「ならば我は、個として選ぶ」


決定的な断絶。


「闇宰相」


「は」


「貴様では、余の横には立てん」


空気が凍る。


「……理由を」


「貴様は構造を守る」


「当然です」


「だが余は、構造を斬る」


沈黙。


「方向が違う」


「魔王様」


「今までご苦労だった」


その声は、静かだった。


怒りもない。


軽蔑もない。


ただ決断。


「側近の名を解除する」


重い言葉が落ちる。


玉座の間の魔力が揺らぐ。


闇宰相は、わずかに目を伏せる。


「……承知いたしました」


反論はしない。


理解している。


これは感情ではない。


思想の断絶。


「四天王の任は解かぬ」


「畏まりました」


「だが余の隣には立てぬ」


宰相は膝をつく。


深く。


「最後に申し上げます」


「言え」


「世界は、黙ってはおりません」


「知っている」


「強制介入が始まります」


「来るなら来い」


魔王の瞳が、燃える。


「余は、勇者と戦う」


「討たれるためではなく」


「選ぶために」


闇宰相は、ゆっくりと頭を垂れた。


「……魔王様は、至られましたか」


「ああ」


「個に」


「そうだ」


沈黙。


やがて宰相は立ち上がる。


「では、私は構造を守りましょう」


「好きにせよ」


扉が閉まる。


重い音。


玉座の間に、魔王ひとり。


遠く。


城外で、勇者の魔力が暴走する。


空が軋む。


世界が収束しようとしている。


魔王は、ゆっくりと剣を手に取る。


「待たせたな、勇者」


それは宣戦布告ではない。


対話の予感。


世界は、わずかに揺れた。


だがまだ、介入しない。


魔王が、役割から外れた瞬間だった。



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