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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第11話: 焚き火のない夜

夜は来る。


 それはいつも通りだった。


 野営地は森の縁。

 湿った土の匂い。

 遠くで虫が鳴く。


 だが、火がない。


 勇者は薪を拾いに行かなかった。


 聖女は言い出さなかった。


 賢者は火種の準備をしなかった。


 暗殺者は何も言わなかった。


 それだけだ。


 それだけなのに。


 空気が違う。


 四人はそれぞれ、少し離れた場所に座る。


 距離は数歩。

 だが視線は交わらない。


 焚き火は、これまで必ずあった。


 戦いの後。

 負傷の確認。

 情報の整理。


 そして、沈黙。


 沈黙は共有されていた。


 今は違う。


 それぞれの沈黙が、別々に落ちている。


 勇者は剣を磨いている。


 必要以上に。


 刃は既に整っている。


 それでも布を動かす。


 聖女は祈ろうとして、やめた。


 指を組み、ほどく。


 言葉が出ない。


 賢者は書板を広げたが、何も記さない。


 理論は回らない。


 暗殺者は木にもたれ、夜を見ている。


 口元に薄い笑み。


 誰も口を開かない。


 風が通る。


 寒い。


 だが火は起こらない。


 やがて勇者が立つ。


「……寝るか」


 誰も返事をしない。


 それぞれがそれぞれに寝床を作る。


 火がない夜は、音が近い。


 葉擦れ。


 小動物。


 自分の呼吸。


 勇者は目を閉じる。


 眠れない。


 いつもなら火の向こうに三人がいた。


 それが“形”だった。


 今日は闇だ。


 何かが欠けている。


 だが何かを言うのは違う気がする。


 勇者は歯を食いしばる。


 こんなことで。


 こんなことで揺れるな。


 俺は勇者だ。


 聖女は横になり、空を見る。


 星がある。


 神はいるのか。


 神がいるなら、


 なぜ祈りは揺れる。


 なぜ心が空洞になる。


 火がない夜は冷える。


 冷えは骨に入る。


 賢者は目を閉じる。


 仮説が壊れていく。


 勇者は守られている。


 魔王は殺しきらない。


 補正。


 もしそれがあるなら。


 自分の理論は、何のためにある。


 暗殺者だけが目を開けている。


 星を数える。


 一つ欠けても、誰も気づかない。


 それが世界だ。


 焚き火は、消えたのではない。


 起こされなかった。


 誰も“囲もう”と言わなかった。


 それが答えだ。

朝は来る。


 火がないと、朝は冷たい。


 勇者が最初に起きる。


 空気が重い。


 何か言うべきだ。


「今日は北へ行く」


 短い指示。


 賢者が頷く。


 聖女は立ち上がる。


 暗殺者は無言で歩き出す。


 会話がない。


 足音だけが続く。


 魔物と遭遇する。


 数は多い。


 勇者は飛び込む。


 いつもより速い。


 強い。


 無理に前へ出る。


「下がれ!」


 叫ぶ。


 だが連携が遅れる。


 聖女の詠唱が一瞬遅い。


 賢者の補助が半拍ずれる。


 暗殺者は援護に入らない。


 勇者は被弾する。


 浅いが、確実な傷。


 苛立ちが走る。


「何してる!」


 声が荒れる。


 沈黙。


 魔物は倒れる。


 静寂。


 聖女が近づく。


 治癒の光が揺れる。


 不安定。


 勇者はそれを見る。


 言葉を飲み込む。


「……悪い」


 謝罪なのか、何なのか。


 自分でも分からない。


 歩き出す。


 背中が固い。


 空回り。


 焦りが刃に乗る。


 勇者は強くなろうとする。


 もっと。


 もっと。


 役目を果たせば、戻るはずだ。


 あの形に。


 焚き火のある夜に。


 だが。


 夕刻。


 再び野営。


 薪はある。


 火種もある。


 誰も動かない。


 勇者は立ち尽くす。


 言えばいい。


「火を」


 その一言で済む。


 だが喉が詰まる。


 言ってどうする。


 それは形だけではないのか。


 火を囲めば戻るのか。


 違う。


 分かっている。


 火は象徴だった。


 同じ方向を向いている証。


 今は違う。


 勇者は薪を蹴る。


 音が響く。


「……好きにしろ」


 吐き捨てる。


 自分でも嫌になる声。


 聖女は目を伏せる。


 賢者は何も言わない。


 暗殺者は小さく笑う。


「勇者様」


 初めて口を開く。


「火は、囲うものだと思ってる?」


 勇者が睨む。


「……何が言いたい」


「囲いたいなら、自分で言えばいい」


 静かな声。


「俺たちは従うよ。勇者様だから」


 刃より鋭い。


 勇者は拳を握る。


「俺は……」


 勇者だから。


 言葉が止まる。


 勇者だから、何だ。


 強くあれ。


 守れ。


 導け。


 全部、役目だ。


 俺は何だ。


 焚き火がない。


 夜は来る。


 勇者は立ったまま。


 誰も近づかない。


 勇者は初めて理解する。


 これは喧嘩ではない。


 崩壊だ。


 音もなく、形が崩れていく。


 勇者は唇を噛む。


 守る。


 進む。


 戦う。


 それしか知らない。


 だが今、必要なのはそれではない。


 分からない。


 分からないまま、


 勇者は強くなろうとする。


 それが空回る。


 夜は深まる。


 焚き火は、ない。


 そして誰も、


 囲まない。




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