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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第3章

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第8話: 守られすぎた命

空気が重い。


 魔王城へ続く街道は、明らかにこれまでと違う。


 魔力の密度が濃い。


 賢者が小さく告げる。


「高位反応、接近」


 姿を現したのは、異形だった。


 四天王ではない。


 だが、それに準ずる圧。


 漆黒の鎧。歪な大剣。目の奥に理性はない。


 ただ、排除の意志。


「来るぞ」


 俺は前に出る。


 足取りは安定。


 呼吸も乱れていない。


 それが逆に怖い。


 魔族が踏み込む。


 速い。


 これまでとは段違い。


 剣を合わせる。


 重い。


 腕が軋む。


 今度は、軽くない。


 確かに強い。


 安堵に似た感覚が一瞬よぎる。


 ようやく“戦っている”気がする。


 だが。


 振り下ろし。


 本来なら受けきれない角度。


 衝撃。


 視界が白く弾ける。


 ——死んだ。


 そう思った。


 だが俺は立っている。


 大剣は、わずかに逸れていた。


 肩口を掠める程度。


 深くない。


 ありえない。


 あの角度は、防げない。


 俺の腕は間に合っていない。


 賢者が何か叫ぶ。


 聖女は祈らない。


 祈っていない。


 それでも。


 傷は浅い。


 魔族が追撃。


 横薙ぎ。


 地面を蹴る。


 遅い。


 間に合わない。


 だが足元の石が砕ける。


 身体がわずかに沈む。


 刃が頭上を通過。


 偶然。


 いや。


 偶然が多すぎる。


 俺は反撃する。


 手応えはある。


 だが相手も強い。


 数合、打ち合う。


 今度は、確実に捕まった。


 胴を狙う突き。


 避けきれない。


 刃が貫く。


 ——はずだった。


 鎧の継ぎ目に、刃が引っかかる。


 軌道がずれる。


 胸を外す。


 血が滲む。


 だが致命傷ではない。


 俺は息を荒げる。


 今のは、死んでいた。


 間違いなく。


 魔族の動きが一瞬止まる。


 その隙。


 俺の剣が、心臓を貫く。


 終わり。


 崩れ落ちる巨体。


 静寂。


 俺は立ったまま、呼吸を整える。


 荒れている。


 だが生きている。


 賢者が駆け寄る。


「致命傷、回避」


「見ればわかる」


 声が低い。


 聖女が近づく。


 祈らない。


 手をかざさない。


 それでも、傷は塞がり始める。


 ゆっくり。


 確実に。


 俺はそれを見る。


 何も言わない。


 言えない。


 暗殺者が死体を確認する。


「今のは、当たっていた」


 小さく言う。


「……ああ」


「二度」


 俺は黙る。


 否定できない。


 夜。


 焚き火の前。


 誰も口を開かない。


 賢者は計算をしていない。


 聖女は祈らない。


 暗殺者は火を見ている。


 俺は、剣を握る。


 震えている。


 恐怖ではない。


 理解しかけているからだ。


「……なあ」


 声が掠れる。


「俺、死ぬはずだったよな」


 沈黙。


 誰も否定しない。


 否定できない。


「でも、生きてる」


 自嘲気味に笑う。


「運がいい、で済ませていいのか」


 答えはない。


 胸のひびが、音を立てる。


 ぱき、と。


 確実に広がる。


「守られてる、のか」


 その言葉を出した瞬間。


 空気が変わる。


 賢者が目を閉じる。


 聖女の指が震える。


 暗殺者は視線を逸らさない。


「誰に」


 誰も答えない。


 俺は立ち上がる。


 夜空を見上げる。


 星は変わらない。


 風もない。


 だが確信する。


 俺は、勝っているんじゃない。


 “勝たされている”。


 だが。


 まだ言い切れない。


 言ったら終わる。


 何かが。


 だから、飲み込む。


「……明日も進む」


 声は低い。


 勇者の声。


 だが、迷いが混じる。


 焚き火が爆ぜる。


 火の粉が舞う。


 その一瞬。


 炎が不自然に揺らぐ。


 風はない。


 俺はそれを見つめる。


 守られすぎた命。


 それが、こんなにも重いとは思わなかった。


 胸の奥で、


 何かが、限界に近づいている。



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