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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第2章

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第4話: 『逸脱の消失』

雨が降るはずだった。


 賢者は空を見上げる。


「本日未明から低気圧。午後には豪雨になる予測だ」


 地図を広げる。


「この街道はぬかるむ。足を取られる可能性が高い。野営地を変更する」


 勇者は頷く。


「早めに進もう」


 聖女は空を仰ぎ、静かに祈る。


 暗殺者は雲を見る。


 重い。


 確かに降る色だ。


 だが。


 昼を過ぎても、落ちてこない。


 風向きが変わる。


 雲が、わずかに流れる。


 進軍は滞らない。


 賢者が眉をひそめる。


「気圧の変動が鈍い……」


「晴れたならいいだろ」


 勇者は笑う。


 街道は乾いたまま。


 移動速度は理論値通り。


 疲労蓄積も想定範囲。


 夜。


 予定していた野営地に、予定通り到着する。


 賢者は記録をつける。


「天候変化、局所的逸脱」


「逸脱?」


「予測誤差だ。自然現象だ」


 自然。


 その言葉は便利だ。


 暗殺者は焚き火の火を見る。


 もし豪雨だったなら。


 足を取られたなら。


 到着は遅れた。


 戦闘準備はずれた。


 回復の時間も減った。


 だが。


 ずれない。


 天候すら。


 逸脱が、起きない。



 翌朝。


 街道脇の村。


 本来なら魔物被害が出る地域。


 だが被害は軽微。


 勇者たちが通る前日に、魔物は森の奥へ移動していたという。


「最近、魔物の出現位置が偏っています」


 賢者が村長から話を聞く。


「偏り?」


「勇者様が通る道を避けるように」


 村長は冗談めかして笑う。


 勇者も笑う。


「俺、そんなに怖いか?」


 だが。


 暗殺者は笑わない。


 魔物は本能で動く。


 危険を避ける。


 それは自然だ。


 だが。


 勇者の進路だけを、的確に避ける。


 まるで。


 衝突しないよう調整されているかのように。


 遭遇はある。


 だが過剰ではない。


 不足でもない。


 常に。


 成長に最適な数。


 最適な強度。


 最適な頻度。


 賢者は満足げだ。


「効率がいい。無駄がない」


 無駄がない。


 暗殺者はその言葉を記憶する。



 その夜。


 勇者は剣を磨いている。


「最近、無駄な動きが減った気がする」


「訓練の成果だ」


 賢者は即答する。


 聖女は微笑む。


「導かれているのかもしれませんね」


 勇者は軽く肩をすくめる。


「導きねえ。俺は自分で選んでるつもりだけどな」


 その言葉は、まだ軽い。


 重みはない。


 暗殺者はその背を見ている。


 選んでいる。


 本当に。


 天候も。


 遭遇率も。


 敵配置も。


 遅延も。


 無秩序も。


 すべてが。


 勇者の成長を阻害しない。


 逸脱が、蓄積しない。


 誤差が、痕にならない。


 削られている。


 どこかで。


 静かに。



 魔王城。


「天候変動、勇者進路上のみ緩和」


 闇宰相の報告は簡潔だ。


「自然現象の範囲内か」


「範囲内と分類可能」


 分類可能。


 魔王は窓の外を見る。


 城の外では雨が降っている。


 重い。


 冷たい。


 だが勇者の進路は晴れた。


「魔物の出現偏り」


「勇者の成長曲線を阻害しない分布」


「誰が決めた」


 闇宰相は沈黙する。


 魔王は続けない。


 まだ断じない。


 だが。


 戦闘だけではない。


 環境。


 天候。


 遭遇。


 偶発事象。


 すべてが。


 一定の方向へ傾いている。


 勇者は強くなる。


 予定通りに。


 滞りなく。


 逸脱なく。


「逸脱が、消えている」


 魔王は小さく呟く。


 怒りはない。


 ただ、観測。


 確率は揺らぐ。


 自然は乱れる。


 本来なら。


 だが。


 揺らぎが常に収束するなら。


 それは揺らぎではない。


 魔王は記録を閉じる。


 まだ動かない。


 観測を続ける。


 暗殺者もまた。


 何も言わない。


 ただ、数える。


 雨の降らなかった日。


 魔物の避けた道。


 遅れなかった到着。


 削られた逸脱。


 静かに。


 確信へ向かって。


 まだ。


 誰にも告げず。



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