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『導かれる者たちの中で 〜レベルを上げて魔王を倒す。それが正しいと、誰も疑わなかった。〜』  作者: 街角のコータロー
第2章

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第3話: 『予定調和』

勇者の成長速度は、理論値に極めて近い。


 賢者は焚き火の前で計算式を組み立てていた。


 経験値取得量。

 戦闘時間。

 負傷回数。

 回復回数。

 敵強度補正。


 数字は揃っている。


 揃いすぎている、とまでは言わない。


 だが、滑らかだ。


「どうだ?」


 勇者が肉を焼きながら問う。


「順調だ。理論曲線からの逸脱は誤差〇・四%以内」


「誤差ってあるんだな」


「ゼロはあり得ない」


 賢者は即答する。


 ゼロは、異常だ。


 だからこそ。


 〇・四%という数字は、正常である。


 正常であるはずだ。


 聖女は静かに祈っている。


 炎が揺れる。


 暗殺者は焚き火の外側に座っている。


 前回より、ほんの半歩だけ距離がある。


 誰も気づかない程度の差。


 だが、確かに。


 勇者が笑う。


「最近、敵の動きが読みやすい気がするんだよな」


「経験の蓄積だろう」


 賢者は否定しない。


 理屈としては正しい。


 勇者は強くなっている。


 技術も向上している。


 だが。


 暗殺者は、思い出す。


 前回の峡谷。


 小石。


 逸れた斧。


 間に合った光。


 偶然。


 多すぎる。


 だが、口にはしない。


 まだ、観察だ。



 獣王は、怒っていなかった。


 巨大な体を石座に預け、報告を聞く。


「伏兵、想定位置に展開。しかし勇者、最短経路で突破」


「罠は?」


「発動前に看破」


「なぜだ」


「……偶然」


 獣王は鼻を鳴らす。


 偶然。


 その言葉は、便利だ。


 だが。


 続く報告。


「勇者の踏み込み、三度連続で急所に到達。敵側の回避行動がわずかに遅延」


「遅延?」


「記録上は反応速度正常範囲」


 正常。


 正常。


 正常。


 獣王は黙る。


 偶然が重なる。


 回避が遅れる。


 罠が間に合わない。


 伏兵が露出する。


 まるで。


 勇者が最適解を選び続けているかのようだ。


 だが、勇者は未来を知らない。


 知るはずがない。


 獣王は腕を組む。


「次は配置を変えろ。無秩序に」


「無秩序、ですか」


「読ませるな」


 命令は単純だった。



 三日後。


 森。


 本来、獣王の兵は統制が強い。


 隊列は規則的。


 包囲は理論的。


 だが今回は違う。


 配置は散発。


 連携は曖昧。


 意図的な乱れ。


 読めない動き。


 賢者が眉をひそめる。


「統率が低い……? いや、違う」


 勇者が駆ける。


 敵の突進。


 横から別個体。


 予測不能。


 本来なら、混戦。


 乱戦。


 事故が起きる。


 だが。


 勇者は偶然にも、最短の隙間を通る。


 聖女の祈りは、なぜか最も被弾の少ない位置に重なる。


 賢者の魔術は、散発した敵をまとめて拘束する角度で発動する。


 暗殺者の刃は、孤立個体だけを正確に狙う。


 無秩序は。


 結果として。


 勇者にとって最も都合のいい形に収束する。


 戦闘時間、六分三十秒。


 損耗、軽微。


 死者なし。


 森は静まり返る。


 勇者が息を吐く。


「今の、ぐちゃぐちゃだったな」


「統制が崩れていた」


 賢者は分析する。


「だが結果は良好だ」


 聖女が微笑む。


「守られているみたいですね」


 勇者は笑う。


「運がいいな、俺たち」


 暗殺者は森を見る。


 無秩序だった。


 確かに。


 読めなかった。


 だが。


 噛み合った。


 乱れは、勇者の軌道を邪魔しなかった。


 むしろ。


 最短経路を作った。


 偶然。


 偶然。


 偶然。


 まただ。


 敵の無秩序。


 味方の最適解。


 収束。


 予定通りのように。


 予定。


 誰の。


 暗殺者は勇者を見る。


 勇者は笑っている。


 健全だ。


 疑っていない。


 聖女は祈り。


 賢者は記録する。


 誰も壊れていない。


 壊れていないのに。


 整いすぎている。



 魔王城。


「獣王、戦術を無秩序化」


 闇宰相が報告する。


「結果」


「勇者側有利に収束」


「なぜだ」


「……確率的揺らぎ」


 魔王は静かに立ち上がる。


「揺らぎは、揺らぐから揺らぎだ」


 窓の外、雲が流れる。


「乱せば崩れる。崩れれば事故が起きる。それが戦だ」


 だが。


「崩れぬ」


 報告書の数字は整然。


 無秩序は、最適化へ変換。


 混乱は、成長へ変換。


 偶然は、利益へ変換。


「コチラの選択までが、勇者の糧になる」


 魔王の声は低い。


 怒りではない。


 まだ、観測だ。


「これは戦か」


 誰にも聞こえぬ問い。


 答えは出さない。


 断じない。


 だが。


 確率の揺らぎが、常に同じ方向へ傾くなら。


 それは揺らぎではない。


 魔王は目を閉じる。


 勇者は、また強くなる。


 予定通りの速度で。


 そして、暗殺者はまだ言わない。


 ただ。


 記憶する。


 偶然の数を。


 乱れの回数を。


 収束の角度を。


 静かに。


 確信へ向かって。


 まだ。


 誰にも告げず。



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