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≪一定値の浄化の確認ができたわ、願いの申請はどうするの≫
思ってもみなかった願いの申請に裕は心底驚いていた。
「あれっ?だってついこの間願いを叶えたばかりだよ?」
裕が気に掛け始め頑張っていた何だか良く分からない丁寧語も漸く慣れて落ち着いてきた様だった、と言う話ではなく、一度消滅した黒猫と新たに繋がってからもまだそれほど日にちも経っていなければ、空間の出入り口を新たに作れる能力を貰ったのはつい最近の事なのに、いくらなんでも早すぎるだろうと裕は正直信じられなかった。
≪私も驚いたけれど、ビックウェーブの具現化の威力ね≫
魔法は浄化された気を使って発動されるという話だったが、ビックウェーブの圧倒的な威力の為に具現化される水量は、魔物を具現化させ1体ずつ消滅させるより遥かに多い量の浄化の効果も発揮したと言う事かと裕は取り敢えず納得した。
しかしそれならば、これからはダンジョンでの魔物討伐の手段は浄化効率を考えてビックウェーブ一択となってしまう。
それにビックウェーブの発動には今ではすっかり慣れてしまい、それほど時間を掛けずに思った通りに発動できるようになっている。
と言う事は、杖に魔法を固定化登録させる必要が無くなるという話で、世界最強の杖作成案は消える事になる。
何だかそれはそれで寂しい気がするが、他の魔法が使えなくなるという訳じゃない、ここは取り敢えず魔法の固定化登録はしばし候補として温存しておくとして「完全記憶能力が欲しいです」裕はそう願っていた。
「前に僕がテレビで見た通りの見たもの聞いた事を完全に記憶できる能力で、現実できちんと活用できる能力であって欲しいのですが大丈夫ですよね?」
裕は完了の返事が来る前に少しだけ心配になり、詳細を確認する様に聞いていた。
≪完全記憶は視覚からの情報だけしか無理ね、でも能力を使いこなせる様にあなたのまだ使われていない脳の一部も開放しておくわ≫
見たものしか記憶できないのはちょっとだけ残念だったが、しかしそれでも十分に有難い能力だった。
できれば聞いた事も記憶できれば、課長対策には持って来いだと思ったが、できないのなら別にそれはそれで仕方ないだろうと諦めた。
しかしまだ使われていない脳が解放されると聞くと、裕には確かめたい事があった。
「それってもしかしなくてもアレですよね、確実にスペックを手に入れられるって事になるんですよね?」
≪完全記憶能力が既にスペックだわ、その処理能力も必要でしょう≫
何だか裕が考えていた返事とは違ったが、完全記憶能力がハイスペックな能力になりそうな予感に裕は胸を躍らせた。
裕は≪完了したわ≫と言う黒猫の言葉を待って「空間を広げてください」と空間の成長促進設定を先回りして申請した。
そして裕はかねがね疑問に思っていた事を聞いてみた。
「この空間の広さと管理者の管理地域って、いったい何がどう違うのですか?」
黒猫の説明によると、初めに作られる空間の広さはほぼ決まっているそうだ。
その後浄化を進め消滅させた空間のあった場所を自分の管理地域として、所謂マーキングされるのだそうだ。
なのでどれだけ空間を広げ消滅させられるかも、管理者としての能力として重要になるのだそうだ。
それに一度マーキングされた地域に新たに空間が作られる場合は、取り込む事も可能になるので色々と手間も省けるそうだ。
≪それに管理者は基本自力ではそんなに離れた場所へは移動できないのよ、だから消滅後も自分の管理地域近くの空間にしか行けないの≫
「自分の管理地域近くに空間が作られなかった場合はどうするの?」
消滅後は新たな空間を作るか、管理者不在の空間に移動すると聞いていた裕はさらに聞いてみた。
≪自分の都合の良い空間を選んで乗っ取るのよ≫
「そこに居た管理者は?」
≪強制的に別の場所に飛ばされるわね≫
「それって・・」陣取り合戦じゃないのかとか、強制的に飛ばされた管理者はどうなるのかと言う言葉は何故か飲み込んでいた。
≪その通りよ、そうやって管理地域を広く大きくしていくの。それにやる気の無い管理者はどこへ飛ばされようとあまり変わらないわね≫
「それで君は何かが変わるの?」
≪管理地域が広がれば得られる情報量が全然違うわ。それに、浄化された気の使える量も全然変わってくるわ。だから空間の外でも能力を使う事も可能になるの≫
裕は黒猫の話から、管理者が空間の外で浄化された気を使い能力を使えるのなら、自分の能力も使えるのだろうかと言う疑問が湧いた。
「ちょっと待って、じゃぁ、もしかしたら僕の魔法も外で使う事も可能になるという事ですか?」
≪そうね、可能と言えば可能だけれど、この空間内程の派手な具現化はできないわ。今の念話程度で満足しておいて≫
言われてみれば当然と考えていたダンジョンの外での黒猫との念話だったが、それは思いの強さと言うか絆の深さが関係していると思っていたのに、黒猫の能力だか裕の能力だかによるものだと知ると驚くより納得するしかなかった。
しかしそれよりも大事な話で、魔法がダンジョンの外でも使える様になる可能性があると知り裕はそこに一筋の希望を見た。
まあ確かに、いきなり炎を具現化させたら放火魔扱いされるだろうし、ビックウェーブなんて発動させたら津波や水害の心配をされるだろうから、当然そんな見るからに派手な魔法を使おうとは思わないが、例えば誰かに襲われた時は身体能力を強化させるとか、自分を守る強固な結界を張るとか、相手を弱体化させたり暴力を振るわずに無力化させる事ができる様になるかも知れない。
例えば何か質の悪いウイルスにでも感染したとして、体内からウイルスを除去させる回復能力なんていうのも使えたらどうだろう?
あまり派手に治してまわったら忽ち注目され能力を知られる事になるだろうが、ひっそり使う分には役に立つ事間違いないだろう。
裕は現実で使える魔法の有用性をあれこれと考え始めていた。
「あっ、でもあれか、出入り口を設置したり隠蔽結界なんて考えてみたら外で使っている魔法って事になるのか」
裕は咄嗟に思いついた事を言葉にしていた。
≪その通りね。後はあなたがどれ位の空間を浄化できるかと私の管理地域を広げられるか、そして魔法を具現化させる為の能力が肝心になるわね≫
「魔法を具現化させる能力って?」
≪そのままよ、あなたも知っての通り使えない魔法は使えないのでしょう≫
(そうか、回復魔法や身体強化魔法って適性が無いと使えないとか、習得しないと使えないという縛りが大抵あったりするよな。でも要するにイメージ力だろう、だったらやれない筈がない)
こうして裕はダンジョンの外で身体強化魔法が使える様に、一人ひっそりと毎夜の様に練習を始めたのだった。
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