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魔法に関してイメージをするのが意外に難しい事に気が付いた。
身体強化の魔法をダンジョンの外でも発動出来ないかと練習し始めてみたが、まったく思う様にいかないまま時間だけが過ぎていた。
例えば身体強化をイメージした時に小説やアニメの世界を参考にするならば、物凄いスピードで動けたり、一撃で岩をも砕く腕力や刃物でも傷つけられない強固な筋肉と言うのが定番だろうと思い付くが、その凄いスピードで身体を動かすイメージがはっきりとできない。
目にも止まらない早業って、動きが目で追えない時点で想像もできない。
身体を普通に動かすだけでそれが勝手にスピードに乗るのか?それっていったいどういう原理なんだ?自分の周りの時間がスローモーションとなり自分は早送り再生の様に動けると言う事か?
速いパンチを繰り出すのなら多少はイメージできるし早く走るのも何となくイメージできるが、自分が求めているのはそう言う事じゃ無いだろうなどと堂々巡りを繰り返してしまうだけだった。
それに実際速く動けるようになったとして、自分の身体はその速さに付いて行けるのかとも考えてしまい、走り始めたら思った所で止まれないギャグアニメの様な動きをも想像してしまうので、取り合えず速い動きに関しては見送る事にした。
次に例えば刃物でも傷つけられない筋肉って鉄のように硬くなると言う事だよなと理屈は思いつくが、実際筋肉が鉄になるイメージはできないし、傷つかない程硬い筋肉のイメージもできなかった。
実際に皮膚や筋肉がそんなに硬くなったらば、まず動く事ができないだろうとも思ってしまう。
それに身体強化の魔法を使った途端いきなり自分の身体が筋肉でムキムキになっていき、スーパーヒーローになるなんて事が現実で実際に起こったら、それってヒーローじゃなくて化け物扱いで研究施設にでも拘束されるよね、なんてことを考えたり、その流れで、岩をも砕く腕力って自分の腕は粉砕骨折しないのかと考えてしまい、結局とあるハンターマンガの中にあった気の操作を思い出し、それを参考に修練を始めてみた。
しかしそれも一向に効果が現れず、閉じ切っている穴をこの際誰かに無理やりこじ開けて貰えないかと真面目に本気で思っていた。
「誰かって言ったら、やっぱり黒猫か九尾に頼んでみるしかないよな」
裕がぼんやりとそんな事を考えていると≪創作上の穴はこじ開けられないわよ≫と黒猫にはっきりきっぱりと言われてしまった。
「あれって完全な創作だったの?僕は能力に関してだけが想像から考えられたものだろうけど、実現できるかもしれないと信じていたのに・・・」
裕は心底がっかりして肩を落とした。
≪あのマンガを参考にするなら、強化した気を纏う事はできるんじゃない≫
黒猫にそう言われると途端にその様子を想像できた。
身体中に纏った気を硬くしてみたり、拳に集め一気に放出してみたり、それならば自分が考えていた身体強化に近い事ができそうな気がした。
(でも肝心なのは、その気をどうやって作りだし纏うかと言う事だよな)
裕は魔法として使うためにしっかりとしたイメージはできたが、それを発動させる事がなかなかできなかった。
(イメージはできてるのに何で出来ないんだ?要するに結界みたいなもんだろう)
そうは思うが、裕が考える隠蔽結界の様な結界のイメージとは少し違い、所謂スライムみたいな自由度の高い液体の様なものが身体を覆うイメージなので、魔法として発動させようとしても、結界として発動させようとしてもなかなか思うようにいかなかった。
(そもそもまだダンジョンの外で発動させるのは無理だと言う事か?)
そう結論付け半ば諦めかけた時≪願いの申請で能力として願えば簡単よね≫と黒猫に言われ、目から鱗が落ちた。
裕はイメージさえできれば自力で使える様になると何故か思い込んでいたが、出入り口設置にしても隠蔽結界にしても、ダンジョンの外で使える魔法はすべて願いの申請で手に入れた能力だった。
それに魔法に関しては、ダンジョンの外ではあまり使えないと言われていた事を、今になって思い出していた。
そんな簡単な事だったのかと膝から崩れ落ち、裕はがっくりと項垂れるのだった。
「どうしてもっと早くに言ってくれなかったのですか」
裕は恨めし気に黒猫に言うと≪努力を楽しんでいるみたいだったわよ≫と言われれば何も反論できなかった。
しかしそれでも今までの苦労はいったい何だったのかと思わずにはいられず、自分は迂闊な上に何故か変な風に思い込んでしまう事が多々あると気付き、そういう欠点をどうにかしなければと強く反省したのだった。
そしてその後程なくしてあった九尾のダンジョンでの願いの申請で、無事身体強化結界と言う名で能力を貰った。
かなり色々と考え苦労して手に入れた能力だったので、嬉しさもひとしおだった。
しかし考えてみればこの能力を使う時って、自分の身に差し迫った危機が訪れると言う事なのだと気が付き、できる事なら本気でこの能力を使う事が無いように祈るのだった。
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