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夢の国でかなり時間を掛けて選んだ折角の魔法の杖だったが、やはりと言うか当然と言うべきか魔法の威力が変わる事は無かった。
(この杖を本物(?)の杖にできないかな)
お気に入りの杖をこのまま使い続けたい裕はそんな事を考えていた。
(できる事なら、魔法の範囲を指定しなくても望んだ場所に決まった範囲の大きさで発動してくれるとか、威力が倍増するとか、発動時間が早くなるとかできる杖だったらなぁ)
≪杖に魔法を固定化登録すれば良いのじゃ≫
あれからまりもダンジョンの隣に九尾ダンジョンの出入り口も設置した裕は、早速ダンジョン攻略を始めていた。
月曜は聖女様、火曜はエルフ、水曜は黒猫、木曜は九尾、金曜はまりも、そして土日はフリーと決め、昨日の土曜日はあのまままりもダンジョンを攻略し、そして今日はまだ一度も攻略していなかった九尾ダンジョンの攻略を始めていた。
「どういう意味だ?」
≪そのままの意味じゃ、魔法の威力や大きさを固定化させて登録しておけば発動も簡単なのじゃ≫
「そんな事ができるのか?」
≪願いの申請は何でも叶うのじゃ、思いのままじゃ≫
(ですよねぇ~)と思ってみたが、裕の考えを補いこうして提案して貰えるのは本当に有難い事だった。
九尾のダンジョンに出現するウルフの弱点をイメージして、何となくファイヤトルネードを発動して楽しんでいた裕は「じゃあ本気で行きますか」と呟くと魔物の湧きの早さを命一杯早め、安定のビックウェーブを発動させ一気に討伐して行く。
最近はビックウェーブをイメージするのにもすっかりと慣れたのか、慌てる事も無く作業の様に発動できるようになっていた。
「杖を手に入れた俺にもう怖い物など何も無い。そして俺は近い将来この杖を世界最強の伝説の杖とするのだ」
勇者と言うより魔王になった気分で芝居がかったセリフを吐く裕はすでに無敵状態で、ウルフなど恐るるに足りず、裕は傷つけられる事も無く一掃して行った。
(でもそうなると次の願いの申請で何を望むかが問題になってくるな)
裕は次の願いの申請では完全記憶能力を望む気だったが、近い内に北海道への出張があるとなると、素早く終わらせるためにも空間出入り口の可視化能力も欲しいし、今教えて貰った杖に魔法を固定化登録させる能力も早速欲しい。
他にも空間の外側からでも新しい出入り口を設置出来る様にもなりたいし、次から次へと欲しい能力が増えるばかりで、優先順位がどんどんと変わって行く。
「何で空間の外側からだと新しい出入り口が設置出来ないんだ?」
≪できるはずなのじゃ、お主が空間の壁を認識できておらぬのが問題なのじゃ≫
何となく呟いた裕の疑問であったが、九尾の返答に思わずうなってしまった。
「空間の壁が問題だったのかぁ~、そりゃそうだよな、壁の無い所に出入口を設置できる訳がないよな。って事は、やっぱり出入り口の可視化の方が確実だな」
裕はひとり納得して、次の願いの申請で貰う能力を出入り口の可視化と決めた。
≪それならば出入り口だけでなく空間の可視化にした方が良いのじゃ≫
(そんな簡単な事なんで思いつかなかった?)
裕は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
「そうだよな、そうすれば外側からでも出入り口を作れるようにもなるのか」
管理者の格が高いとこうして助言が貰えると言う事は、やはり管理者自体の能力もそれぞれでかなり違っているのだろう。
そうとなると管理者の格を上げるのもやはり急いだ方が良いだろうと裕は考えていた。
とは言っても、結局ダンジョン攻略で浄化を手伝う程度の事しか思いつかない裕は素直に聞く事にした。
「管理者の格上げを手伝いたいけど、手っ取り早い方法ってあるのか?」
≪管理者のやる気次第なのじゃ。お主は浄化を手伝ってくれるだけで良いのじゃ≫
「何だそれ?それじゃまるで管理者にも性格があるみたいじゃないか」
≪性格かどうかは分からぬが、やる気の無い奴も多いのじゃ≫
裕は一瞬聞いてはいけない事を聞いた様な気がして戸惑った。
「やる気の無い奴って・・・」
同じ管理者を切り捨てるかのような言い方にもちょっと驚いていた。
≪事実なのじゃ。自分の役割も忘れただ存在しているだけの奴も多いのじゃ。大抵の奴らはみなそうなのじゃ。今現在格が高い管理者は過去にもお主の様なやる気のある人間を見つけているか、自分なりに考え行動している奴らなのじゃ≫
「見つける?」
≪そうなのじゃ、出入り口の場所を変えてみたり、自分から迎えに出てみたり一応工夫もしているのじゃ、妾は何度出入りを繰り返したか分からぬのじゃ≫
「って事は、おまえはかなりやる気のある管理者って事なんだな」
≪人間の考える事は面白いのじゃ。妾は人間が好きなのじゃ≫
(と言う事は、管理者の格を上げるより格の高い管理者に手を貸した方が良いって事か?)
≪その方がお互いwin-winなのじゃ≫
この間までAIの様な会話しかできないと思っていた管理者から聞けるセリフとは思えなかった。
管理者のキャラ設定だとか、付き合いの長さとか絆の深さが関係するんじゃなかったのか?
裕は自分の考えていた事がガラガラと音を立てて崩れるて行くのを感じていた。
「それじゃ繋がりの深さってのは何だったんだよ」
思わず裕の口から出た言葉だった。
≪自分ファーストかお主ファーストかの違いなのじゃ≫
(なんだそのオチは!)
≪もっとも何も考えておらん奴らはその辺も考えておらぬのじゃ≫
裕は繋がりの深さとか親密度とか絆とか、管理者と親しくなって行けば口調が変わるだろうと聖女様やエルフに期待していた分がっかりした。
そして親しくなると同時に管理者の格も上がっていくのだと思っていた所もあったので、かなりショックだった。
≪落ち込まなくても良いのじゃ、妾はお主を気に入っておるのじゃ≫
九尾に慰められながらも言葉遣い一つの違いとは言え、結局は管理者に踊らされているのかと思わずにはいられなかった。
でもAI口調よりはずっと親しくなれた気がするのは確かなので、聖女様やエルフがやる気のある管理者なのか、これから変わって行く可能性はあるのかは正直とても気になる所だった。
これから格上げにどんなに協力しても、やる気も無く裕を気に入って貰えるか分からないのだとしたら、裕のやる気も努力も無駄になってしまうかも知れない。
そう考えると、やはり格の高い管理者と関わった方が良いのかと思わずにいられなかった。
読んでいただきありがとうございます。




