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とても感激しています。
裕はホテルに近い場所に空間探知の反応があるのを確認し、早速空間を見つけるためにそっとホテルを抜け出した。
かなり念入りに探したがなかなか出入り口は見つけられず、誰かに見られ不審がられても構わないと一心不乱に両手を使って探した。
これからも出張と銘打って地方へ出向き誰かと空間を探す事がまだあるだろうと考えると、やはり空間出入り口の可視化能力は絶対に必要だと裕は本気で考え始めていた。
そして漸くビルとビルの間の路地とも呼べない狭い通路の壁際でそれを見つけた。
そして空間出入り口が建物の中でなくて良かったと胸を撫で下ろした。
気が付けば夜も大分更けていた。
かなり疲れていたが、天使の望みを叶えるために頑張ったと思えば、接待で楽しませて貰ったお礼にはなるだろうと充実感を抱いていた。
勿論元々裕が攻略していたダンジョンだと思わせるために、出入り口は裕の部屋に設置するので、天使に見せるために攻略するのは家に帰ってからになる。
裕は誰かに見られていない事を念入りに確認して、空間へと足を踏み入れる。
管理者のイメージは空間を探している間にずっと考えていた。
初めは女子ウケの良い動物系にしようかと思ったが、家にはもう既に黒猫が居る。
それに魔法と言うファンタジーな世界を見せるのだから、管理者もファンタジー世界のものでと考え、老若男女問わず大好きだろうスライムにとも考えたが、スライムはダンジョン魔物にした方が良いだろうと却下した。
そして結局全世界の誰もがその存在を知る妖精にする事にした。
異世界ファンタジーに登場する精霊ではなく、昔絵本で見た羽の生えた妖精ティンカーベルだ。
裕は空中を浮遊するティンカーベルをイメージしながら管理者の出現を待っていると、フワフワと浮遊する物体が裕に向かって来る。
裕の想像では手のひらサイズの可愛い妖精の筈が、想像とは違い赤ん坊サイズの毛玉の様な生物だった。
まりもの様に真ん丸で緑色の身体に小さな手と足と耳が付いていていて、マスコット化されたカエルのゆるキャラにも見えない事も無い不思議な生物だった。
(ティンカーベルはどうした!?)
空間に入った時に強く意識すればイメージ通りの管理者が現れると思っていた裕は、ちょっと、いやかなりショックだった。
しかし瞬時に自分を取り戻し、魔物はスライムでダンジョン認定させ、早速出入り口を自分の部屋へと設置させた。
そしてまりもダンジョンに戻り新たにホテルへと出入り口を作って繋げ、ホテルに戻ると出入口を消去した。
ダンジョンの出入り口を新しく作るのは何故か空間内からしかできなかったが、消去は外側からでもできたので、やはり使い方を上手く改善出来ればど〇でもドアとして使えると考えていた。
そうして予定より随分と早めに家へ帰り着いた裕は、緊張しながら自分の部屋へと天使を招き入れる。
ボロアパートで管理人をしていた時は、涼太や諜報員達がかなり頻繁に裕の部屋に出入りしていたので、すっかり慣れた気になっていたが、天使相手ともなるとやはり緊張せずにはいられなかった。
部屋の中で話をするのも落ち着かないので、早速天使とまりもダンジョンへと入る。
認定したばかりのダンジョンなので広さもそう広くはなく、魔物の湧きもかなり遅かったが湧きの調整はせずにそのまま討伐を始める。
スライムに杖を翳し、「ファイヤーボール」と唱えながら炎の球を飛ばしスライムを消滅をさせると、天使は手を叩いて興奮した様に喜んでいた。
裕は実はかなり格好つけただろう自分の姿を思い浮かべ恥ずかしかったが、天使が喜ぶ姿を見てちょっと満更でも無くなった。
2発目からは恥ずかしさと面倒くささから「ファイヤーボール」の詠唱は止めたが、次々と杖から炎の球を飛ばしスライムを討伐していると、天使が興奮したままで「私も魔法を使ってみたいです。私にも魔法を使える様にして貰えませんか?」と言った。
天使の無邪気なその言葉を聞き、裕は一気に自分の気持ちが醒めて行くのが分かった。
(何を言っているんだこの女は?自分が言っている事を理解しているのか?)
一気に氷点下まで冷めきった裕の気持ちは今度は沸々と沸き立ち始める。
(願いの申請を受けるのがどれだけ大変か理解できているのか?涼太や課長がその1回に心血を注ぎ、その1回を大事にするために年下の俺に頭を下げてまで協力を仰いでいるんだぞ。)
裕にしてみれば一人で地道に頑張って達成させる願いの申請で、彼女のために魔法を使える様にしろと、あまりにも気軽に遊び気分で言われては気分が良い訳がなかった。
それで魔法を使える様になったとしてその後はどうするんだ?
きっと次はその魔法を使うために一緒にダンジョン攻略したいとか、自分専用のダンジョンを見つけて提供しろと言い出すだろう事は裕にも容易に推察できた。
「それは自分でダンジョン見つけて叶えなよ。そりゃぁ、俺がダンジョンを見つけられたのはラッキーだったと思うよ。それにそこで手に入れた能力を君に自慢気に見せた俺も悪いと思うよ。でもさぁ、課長に頼まれて空間を探して提供しているのは、あくまでも仕事だと思っているからだよ。それに、それに見合った報酬も大分貰ってるからね。それなのにさぁ、苦労して手にする願いの申請を、君にお願いって言われてハイそうですかって簡単に譲れると思う?涼太さんに言わせると、望めば一生遊んで暮らせるお金を手に入れる事も可能らしいよ。なのにそれを簡単に自分の為に使えって、それってどう言い繕っても質の悪い搾取だよね。俺がどうしてそれ程の価値のあるものを君に貢がなきゃならないの?俺って君の何なの?」
願いの申請を何の関係もない奴に無償で提供すると言う事は、それまで頑張った裕の時間と労力の搾取でしか他ならないと裕は思っていた。
今までずっと家族に虐げられてきた裕にとって、この女も結局そっち側の人間なのかと心底がっかりだった。
きっと今までずっと家族や友達に十分すぎる程愛され、欲しい物望む物は簡単に与えられてきたのだろう。
だから人のものであっても何も考えず気軽に欲しいと口にできるのだ。
結局裕に関わって来る現実の女なんてろくでもないヤツばかりだと思っていた。
すると彼女は今にも泣き出しそうに顔を歪め「ごめんなさい、そういうつもりじゃなくて」と決まり文句を言い始めた。
裕はその言葉を聞きながら、わざとらしい程大きく溜息をつくと「どんなつもりかは知らないけど、俺、頭ん中お花畑な奴とは関わり合いたくないから」そう言ってダンジョンを出た。
さっきまで天使だと思っていた彼女は、一緒に居ても性格が悪そうな所は無かった。
寧ろ躾も良く行き届いた裕とは住む世界が違う人種だと思えていた。
だからきっと育ち方の違いなのだろうと納得する事はできたが、裕にとって簡単に搾取しようと考えた事はどうしても許し難い事だった。
泣きながらダンジョンから出てきた彼女が「ごめんなさい」と呟きながら帰って行くのを裕は見送りもせずに、まりもダンジョンにも隠蔽結界を張ったのだった。
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