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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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「裕君にはすっかり騙されちゃったわよ。きちんと把握できていなかった私も悪いけど、多分私の勘は当たってた筈なのよ。だから先に目を付けた私の方にも権利があったと思うのだけど、佐藤君とはいったいどんな取引をしたの?ぶっちゃけそこが一番気になってるの。ねえ、何で私じゃなくて佐藤君だったの?」


玲子さんが言いたい事は裕にも何となく分かったが、それを玲子に正直に答える気は無かった。


と言うか、玲子にそう聞かれると、あの時涼太にダンジョンが見つかっていなかったら、何かが変わっていたのだろうかと考える。


一人密かにダンジョンでのかっぱ擬き討伐を楽しみ、日々貯まって行くお金をどうしたら良いのか悩んでいたが、裕は間違ってもダンジョンの事を自分から誰かに教えるなんて考えてもいなかった。


あれでダンジョンが見つかったのが他の誰かだったなら、裕は今の様な生活を送れていただろうか?


少なくとも今はダンジョンで稼いだお金を、マネーロンダリングなんて犯罪行為を考えながら隠さなくても良くなった。


アルバイトとはいえ国家未詳案件調査対策室に正式に雇用され、好きな事をしながらお給料を貰える様になった。


浄化が済んですっかり落ち着いたあのボロアパートがあった土地を、かなり安く譲って貰える事になった。


なんだかんだ言ってダンジョンを見つけてくれたのが涼太だったから、裕の今の生活があると言っても良いだろう。


あの時玲子のハニトラ(ハニトラだったのか?)に引っ掛かってダンジョンの事を玲子に話していたら、いったいどんな風になっていたんだろうか。


今こうして考えても利用されるだけ利用されて、裕は玲子に上手く手玉に取られて終わりだっただろうとしか思えない。


やっぱりこのまま知らんふりするしか無いなと裕は心を決める。


「玲子さんが何を言ってるのか考えてみたけど、やっぱり意味が分かんないよ。俺は涼太さんと本当にそんな関係じゃないから」


「まだそんな話で私を誤魔化せると思ってるの?あの部屋に例の空間があった事はすでに知っているの。知っていたけれどもうあの時点ではすでに遅かったと判断して諦めてあげたのよ。でも問題はその後よ。佐藤君に別の空間を提供しているわよね。まさか佐藤君が偶然見つけたなんて話しでは私は信じないわよ。私の勘は良く当たるの。裕君、あなた例の空間を見つける能力か何かあるんでしょう。今ここで私と取引して私にも見つけてくれるなら、他の人に裕君のその能力を知られない様にしてあげられるわ。言っておくけど、今上手く手を打たないと近い内にみんなにバレるわよ。そうなったらここでのんびり生活するのも難しくなるって分かってる?韓国ももう既に私達が何を探していたか突き止めているし、中国を直に相手にしたら簡単に残忍な手に出て来るわよ。そしてアメリカはスマートな振りしてかなり強引だし、他の国だっていつ動き出しても可笑しくないのを知らないのね。それに日本は国としては裕君をけして守ってはくれないわよ。今この状況で佐藤君が裕君のためにどこまでできるか見ものだわね」


裕は玲子の言う事をまるまる信じた訳では無いが、その冷酷な口調に固唾を飲んで顔を青くした。

今の裕には玲子の話が何処まで本当かなどまったく関係なく、玲子の話す状況をいちいち鮮明に想像できてしまったのだった。


でも、しかし、裕の能力の事はきっと玲子もまだ確証を掴んではいないのだろう。

多分玲子は裕を畳み込もうとしているが、自分の勘を頼りに話しているだけなのだと言う事は裕にも伺えた。


だからここで裕が白を切り通せば玲子も最後にはきっと諦めるしかないだろうとは思う。


が、一度話を聞き想像してしまった事はもうすっかりと脳裏に焼き付いてしまった。


これから他国の諜報員に干渉される不安を抱え生活しなくてはならないのかと思うと、足元が崩れて行く様な感覚さえある。


それに万が一にも叔母を巻き込んでしまうかも知れないと思うと、玲子が言う様に今のうちに何か手を打った方が良いのだとも思えてくる。


「俺は玲子さんの事をそこまで信用できないし、これ以上の話しは涼太さんも一緒じゃなきゃ無理だよ。だいたい俺の能力って言うけど、そこが間違ってるよ。俺達はあの空間が消滅する時に別の空間の場所を教えて欲しいと願って叶えて貰ったんだよ。それで涼太さんにその空間の権利を譲ったお礼で今色々して貰ってるだけだからね」


裕は玲子を牽制したつもりでもあり、また、涼太と一度この話をする時間が欲しいとも考えて、咄嗟に上手い言い訳を思い付いたと自分で自分を褒めていた。


そして誤魔化しきらなくてはという焦りもあって、これ以上例の空間の事を知らないと言い張るのは逆効果だと悟り、裕は敢えて肝心の所はぼかしとぼけて話した。


それにこれ以上の玲子との話し合いは、涼太と一緒でないとどんな墓穴を掘るか本当に不安でたまらなかった。

だからこれ以上何を聞かれても黙秘するつもりでいた。


玲子は裕の心理を探る様に裕を怖いくらいに冷たい目でじっと見つめて来たが、裕は負けずと目を逸らさずに頑張った。


「分かったわ、早急に話し合いの場を設けて頂戴。言っておくけどそんなに待てないし、今の話を信用した訳じゃないわよ。それにこのままだったら裕君に他国が接触して来るのを避けられなくなるのは本当よ」


玲子はそう言うと電話番号を書いたメモを裕に渡し大人しく帰って行った。


そして裕は緊張を緩めず玲子を見送ると玄関のドアに鍵をかけ、玲子が座った辺りを念入りに確かめた。


また盗聴器でも仕掛けられていたら大変だと考えたのだ。

そして何も無いのを確認してから涼太に急いで電話をしたのだった。



読んでいただきありがとうございます

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