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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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裕は考えていた。


このかっぱ擬きダンジョンは、このまま浄化を手伝っていれば後2回は願いを叶える事ができると黒猫は言っていた。


多分抜け目のない涼太ならばその事は当然黒猫から既に聞いているだろう。

ならばその願いのタイミングは涼太と一緒の時の方が良いのだろうけれど、消滅まで付き合うと決めたは良いが、このままだと涼太相手にいつボロを出し何がバレるか分からない。


(さっさと終わらせて早い所離れた方が良いよな)


裕はそう思い直し、深夜や早朝にスライムダンジョンに隠れて行っていた時間帯もかっぱ擬き討伐に精を出す事にしたのだった。


しかしそのせいで、またもや隠さなくてはならない現金が増えて困っていた。


3回目の成長促進設定でさらに沸きを早くしたから、本気でかっぱ擬きを討伐すると10万を稼ぐのもそう時間が掛からず、スライムダンジョンを少しの時間攻略するのとは違い、やはり段違いに稼ぐ事ができた。


裕は漸くキャッシュレス生活の為の手段を色々手に入れたのに、実際の所まだ始められてはいなかった。


しばらくは生活費として隠れて稼いだお金を使い誤魔化すしかないが、最近は現金を部屋に隠しておくのはちょっと怖く、それだけで色々と不安を感じてしまうのだった。


このボロアパートも3人程退去したがいまだに5室が埋まっていて、全員が出て行くのを待っていると言う設定で裕も管理人の仕事を続けている。


そしてその入居者達が皆揃って、他国の諜報員ではないかと言う疑惑も裕に不安を感じさせている要因でもあった。


(涼太さんが変に脅かすから)


裕は涼太の言っていた他国も関わっていて裕が思っている以上に複雑で危険だと言う話が頭にこびりついて離れずにいて、隠し事が増える度に、不審な態度を取らない様にと思う程に、裕は追い詰められて行く様な気分になっていた。


「早く自由になりたい」


裕は心からの叫びをかっぱ擬きを討伐しながら上げていた。


「今日は随分と早いんだね」


裕の叫びを聞いた訳では無いのだろうが、涼太の突然の登場に裕は少し慌てた。


「涼太さんも早いじゃないですか」


「僕は山伏君に話があって早めに来たんだけど、いつもこんなに早くからダンジョンに入っているの?」


裕は今まで早朝や深夜にバレない様に気を使いながらスライムダンジョンに通ってはいたが、今日はかっぱ擬きダンジョンだった事もあり油断をして、気付けば長く籠り過ぎていたようだった。


(やっぱり涼太さんにこの部屋の鍵を渡したのは間違いだったな)

裕は今更ながら反省していた。


「ちょっと考え事があってつい入っただけだよ、それよりも話するなら出るよ」

裕はかっぱ擬きの討伐を止めダンジョンから出ようと出入口に向かった。


「それにしてもその魔法って便利だよね。山伏君って本当にこのダンジョンを楽しむ事を考えていたんだろうね」

涼太はそんな事を言いながら裕に続いてダンジョンを出た。


「そんな事無いよ、俺はあくせく働かなくても良い様に少しでも多く稼ぎたかっただけだから」


「あくせく働くのも悪くは無いよ。まあ、思い通りに行かない事も多いし色々とストレスも溜まるけどね」


涼太の溜息を聞きながら涼太に少しだけ同情をしたが、裕はまた何か厄介な話をされるのかと予感して少し憂鬱になっていった。


「そんなに急いでしなくちゃならない話なの? まだ朝食べてないよ」


裕は涼太を少し牽制したつもりだったが、涼太はさらに深い溜息をつき肩を落としてから裕を見上げる様にした。


「急ぎって訳じゃ無いんだけどね、僕もどうしたら良いか困って寝られなかったから、もう良いかなって思って来てみたんだけれどやっぱり早かったかな」


裕は思いもしなかった涼太の反応にすっかり毒気を抜かれ警戒を解いていた。


「急いで支度するから一緒に食べようよ」

裕は涼太に思わずそんな提案して、ゆっくり話を聞くつもりになっていた。


と言うか、涼太をこんなにも困らせている話の内容が気になってしまい、さっきの厄介事を想像して憂鬱になった気分はいっぺんに吹き飛び、少しだけ気分が上がるのを止められずにいた。



読んでいただきありがとうございます

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