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俺だけのダンジョン  作者: 橘可憐


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一時期電子ケトルの中に迄現金を隠していたのでとても不便だったが、今はちゃんと使えているので急いでお湯を沸かし、今朝はご飯を炊く時間も無いので、冷凍してあるご飯をレンジに入れ、手早く卵焼きを作りながら、後は冷蔵庫に残っている作り置きのおかずで良いだろうと考える。


ご飯にフリーズドライの味噌汁に卵焼き、そして一昨日作った筍の煮物と明太子を冷蔵庫から出し、然程時間も掛けずに用意した朝食だったがテーブルに並べてみると結構形にできた事に裕は満足していた。


筍の煮物は、金井さんと言うこのボロアパートに住んでいたおばあちゃんが引っ越す前に「旬の物を食べると健康にも良いのよ」と教えてくれたもので、糠を使ってあく抜きから自分でやるのがちょっと面倒だったが、砂糖と醤油と鷹の爪を使って煮るだけなのに作ってみるととっても美味しくて、実は何気にマイブームになっていて、採れたての筍を見かけると作りたくなっていた。


「山伏君凄いね、とっても美味しそうだ」


涼太は社交辞令ではなく本心からそう思っているのか、さっきまでとは違い明るい笑顔を見せているので、裕はちょっと嬉しくなっていた。


やっぱり食べてくれる人がいると用意した甲斐があるし、喜んでくれるとそれだけで気分が良くなって来る。


「朝食代の請求はしないから安心して全部食べていいよ。勿論毒も入れて無いから」


裕は照れ隠しで敢えてふざけた事を言ってみたが、涼太はうんうんと頷きながら手を合わせ「いただきます」と言って早速食べ始めた。


ただのありふれた朝食なのに一緒に食べる相手がいるといつもより美味しく感じ、美味しいと言ってくれる人がいると不思議と次は何を作ろうかと考える自分が居て、やっぱり早く叔母と同居して、毎朝こうして作ってあげたいと裕は思うのだった。


そして裕も涼太につられてご飯をかき込む様にして食べ、話は食べ終わってからゆっくりとだなと、さっきまでの話の内容が気になっていた気持ちが少しどうでも良くなっていった。



「本当に残さず食べてくれて俺も嬉しいよ」


「あはは、美味しくてつい食べすぎちゃった。いつもは朝からこんなには食べないんだよ」


涼太は食べ終えた食器を洗いながら、思いの外食べ過ぎた事への言い訳を言っている様だった。


裕は涼太の為に用意する様になったインスタントのコーヒを淹れて、定位置に座り涼太を待つ。


「それで話っていったいどんな話なの」


「うん、それなんだけどね、お腹が膨れたらもうどうでも良いかなって…ちょっと違うか、なる様にしかならないのかもなってそんな気がして来ちゃって、僕っていったい一人で何を悩んでいたんだろうね」


すっかりといつもの雰囲気に戻った涼太は既に自己解決している様だったが、裕は何だか納得がいかなかった。


「話を聞く気満々だったのにそれは無いでしょう。かえって気になるって」


「そうだよね、気になるよね。じゃぁ搔い摘んで話すから、僕のただの愚痴だと思って聞き流す感じでお願いね」


涼太は裕にそう前置きをするので、裕は自分で淹れたカフェオレを口に運んでから静かに頷いた。


「あの不思議な空間を発見したのも実際浄化をしているのも山伏君だからね、願いの権利は山伏君にあると思っていたんだよね僕は。でも山伏君が未調室のアルバイトとして権利を放棄した事を、僕は上に色々と報告するにあたってその事実も書かなくちゃいけないのだけれど、そうするとどうしたって想像しちゃうんだよね、その結果どうなるかを。多分報告が上に行けば行く程欲が絡み出して、それこそ権力争いみたいな事も起こるんじゃないかって。うちの課長辺りはただの超能力馬鹿だから願いを聞いたとしても山伏君同様あまり実害が無いと思うけれど、この空間の事をたいして知らない権力者は結果だけを見て権利は自分のものだと考えがちになるでしょう。僕はそれを想像するだけで怖くなるんだよね。それにあの管理者と意思の疎通が明確にできるのが山伏君や僕だけって事になったらそれこそ想像して行けば行く程怖くなって、正直に報告書を書いても良いものかって悩んでしまったんだよね。でも僕もただの宮仕えってやつだから、報告しない訳にもいかないし本当に困り果てていたって所かな。でも考えてみたらそれって僕が考える事じゃ無いんだよなって、山伏君の作った美味しいご飯をこうして一緒に食べてたら素直にそう思えた感じかな、だから本当にありがとうね。まだ何も起こっていないのに今考えても無駄だよね。僕は今僕にできる事だけをやれば良いんだってもう結論は出たから、ホント騒がせてごめんね」


涼太の話を聞きながら、裕も実は他人事じゃないんだよなと考えていた。


自分が実は世界中の異空間を見つける事ができると誰かに知られたら、そう考えるだけで不安になるし、想像すると怖くもあるけれど、裕は自分の人生を楽に生きるための現金を手に入れたいだけなのだ。


その為にダンジョン攻略を楽しみたいといった気持の方が大きいから、それ以外の事はなるべく考えたくもないし、ある程度の現金が貯まったらダンジョンや未調室とも関わる必要も無くなるだろうと思っている。


だから隠した能力を知られるのはマズいがそれ以外はあまり深く考えず、これからもできるだけ自分中心でやりたい事をやって行こうと思うのだった。



読んでいただきありがとうございます

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