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「じゃあ、あの玲子さんって涼太さんとは関係無いの?」
「少なくとも僕とは全く関係ないのは確かだよ、何でそんな事聞くの?」
「だってさぁ、引っ越してきた時期も同じだったし、今思えば何気に色々探られていたよ」
「山伏君の好みだったのかな」
「そんなんじゃなくて、歳を重ねた女の人ってずうずうし、じゃなくて、ずぶと、じゃなくて、なんて言ったら良いか、押しが強くてでも適度に賑やかだったので何となくそのペースに巻き込まれた感じだよ。でもしばらくしたらあまり来なくなったから、俺が何かしちゃたかなって気になってただけで」
「ふ~ん」
涼太は裕の言い訳を聞いて鼻を鳴らし、何が言いたいかは分かっているとでもいう様だった。
「絶対にそう言うのじゃないからね、叔母に似た強引さを感じて同じく俺の事を気にしていてくれるのかと思っただけだから」
「だから分かってるって」
「その言い方が俺をイライラさせるんだけど」
「若いってやっぱりイイね~、でも、まあ多分の話だけれど、彼女は他国の諜報員だと思うよ。山伏君が簡単に引っ掛かってこの空間の事を話していたら、きっともっと何か別の展開があったかもしれないね。もっとも前にも言ったけど、最悪の場合消された可能性もあったと思うと、山伏くんって結構危機管理能力が高いのか余程口が堅いのか、本当に感心するよ。それでこの際だから聞いちゃうけど、山伏君はいったい何を隠してるの?」
裕は玲子の話から一転して突如ツッコまれた事に一瞬頭が真っ白になってしまった。
隠し事をしていると明らかにバレている様な聞き方に、裕はいったいいつ何をどうしてと思うばかりだった。
「な、何を言っているのか、お、俺にはちょっと・・・」
「山伏君って危機管理能力高い様で素直だよね。そう言うとこ僕には好感度高いよ。多分の話で聞いちゃうけど、ココとは別の同じ様な空間の存在も知ってるんじゃないの?」
「えっ!」
裕は涼太のド直球な質問に何も答える事ができず顔を青くするばかりだった。
「前にね、山伏君はね、『この黒猫とは』って言ったの覚えてない?僕はあの時ちょっと違和感を抱いたんだけれど、何となく何か隠していると感じる程に確信めいたものを持つようになったんだよね。他にもこんな空間の事を知ってるんじゃないかってね。そう思うと山伏君の態度にも色々と納得がいくんだけど・・・どうかな。僕の考え、間違って無いでしょう?」
ニコッと冷たい雰囲気の作り笑顔を浮かべ、核心をついていると言いたげな涼太に裕は固唾を飲んだ。
裕は涼太の言う態度っていったいいつのどんな態度なのかとあれこれと思い浮かべるが、普段からそんなに不審な態度はとっていない筈だと思うしかなかった。
というより、何一つ思い浮かぶ事など無かった。
それよりも涼太は裕が思うよりもずっと鋭くてできる男なのだと改めて知り、簡単に気を許してはいけなかったのだと反省するばかりだった。
空間内転移の事も、ダンジョンの出入口を好きな所に設置出来る事も、絶対に知られる訳にはいかない、それだけは絶対にだと思えば思う程に裕は顔が青くなっていった。
「まあ、今の所話したくないのならそれでも良いけど、隠し事っていずれはバレるものだよ。その時に山伏君一人では解決できない事もあると思うし、僕たちが関わっていれば守ってあげる事もできる。この問題は実は山伏君が思っている程簡単な物じゃないんだよ。それに他国も絡んでいる以上危険が無いとは言い切れないんだよ。だからもっと僕達を信用して欲しいって僕が思っている事だけは忘れないで」
涼太の思いは伝わって来たが、実際の所何をどれだけ信じて良いのかは裕には分からなかった。
涼太だって実は裕の事を利用しようと考えているだけかも知れないし、涼太が言う様な他国から危害を加えられる事は今の所は何も無い。
ここで焦って何もかもぶちまけるのはまだ早い、裕はそう自分に言い聞かせ心を強く持ち直した。
最悪の場合スライムダンジョンの事を明かしても良いけれどそれは最終手段だ。
裕は冷静さを取り戻し、これからもっと慎重にならなければと考えるのだった。
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