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――もしもし? さっき電話いただいたようですけど。
「あ、たまちゃん? 俺、寺島。寺島翔」
――ああ、翔さんだったの? 知らない番号だったけど、そうじゃないかと思ってた。
「うん。折り返しありがとう」
――あ、こんばんは。
「さっき、メール届いた」
――あ、ちゃんと届いたんだ。よかった。みっちゃんからアドレス聞いて、慌てて送ったんだけど。
「でも、びっくりしちゃったよ。みっちゃんからのメールも合わせて」
――ね、もうたまんない。私もみっちゃんもとみこも、よっぴーのことで悩みっぱなしなの。
「どうしてこんなことになっちゃったんだよ?」
――そんなの、分かんないよ。
翔は声を落とした。
「やっぱ俺のせい?」
その声は、震えっぱなしだった。
「俺と別れたせいで、あいつおかしくなっちゃったんかなあ?」
――さあ、どうかな?
「ちょっと待ってて」
翔は通話をハンズフリーのスピーカーフォンに切り替え、スマホをベッドの上に置いた。だがすぐには会話に戻らず、しばらく天井を見つめていた。そしてベッドの上のスマホに向かって口を開いた。
「俺の思い上がりだったらいいんだけど、でも俺のせいなら俺が今出て行くべきかな? 俺に責任あるんなら」
――とにかく今のよっぴー、男ならだれでもいいって感じなの。
「男ならだれでもいいんなら、俺でもいいんじゃん」
――そうかもしれない。
「俺のうぬぼれじゃなかったら、あいつ、俺の代わりの探してるんかな? なら、俺が出て行けば万事解決じゃん」
――う~ん
翔はひとつ深呼吸して、焦り気味だった言葉をなんとか平静に戻した。
「もし俺の思い上がり? うぬぼれ? 自意識過剰? そんなんだったら、俺がのこのこ出て行ったところで何の解決にもならないってことになるけど、でも……」
翔はしばらく間を置いた。
――でも?
「俺、ちょうど、あいつのことが忘れられなくて、もう一度付き合ってくれって言おうと思っていたとこなんだよ」
――そうなんだ。
「でも、空白期間を置こうなんて言ったのは俺だけど、実質的には俺が振られたんじゃん。恋人から友達になろうなんて勝手に言い出したのは向こうだし。だから、無理かなとも思ってたんだけど」
――え? よっぴーは自分が振られたって思ってるよ。かっちゃんに振られちゃったって、しばらく沈んでたもん。
「そっか。じゃあやっぱり、今のよっピーがおかしくなったのは俺のせいだって可能性は大きくなるな」
――とにかく、今のよっぴーは病気なの。よっぴー、とってもとっても悪い子で、悲しくなっちゃう。昔はいい子だったのに、今のよっぴーなんて嫌い!
「でも、よっぴーがたばこ吸ってたって、みっちゃんから聞いてる?」
――うん。ああ、みっちゃん、言ったんだ。
「それがめっちゃショックだったよ。大人ならたばこを吸う吸わないは個人の自由だけど、よっぴ―まだ十八歳じゃんかよ。だめだろ」
――ねえ、まったく。
「どうやってたばこ、手に入れたんだろう?」
――吉野さんって人からもらったみたい。なんかみっちゃんの話だと、その吉野さんって人とよっぴーは、毎日一時間は電話してるって。
翔はまた一つ、ため息をついた。
――とにかく今のよっぴー、毎日ツーンとしてて笑いもしないし話もしないし、かわいくない。みっちゃんに聞いたら、ダンス部の合同練習で向こうの大学の男子にばかりにこにこしてるって。よっぴーと別れた時の翔さんの気持ちとても分かるねって、みっちゃんと二人で話してる。
「とりあえず、みっちゃんともまた相談してみる。とみことも」
――とみこの電話番号、教えとくね。個人情報だけど翔さんならいいや、とみこだし。
珠実はよくわからないことを言いながらも、すぐに教えてくれた。
「じゃあ、ごめん、長話して。この電話番号でLINEに招待しておくね」
――うん、登録しとく。
「おやすみ」
珠実との電話の後、すぐにとみここと冨﨑《とみざき》茉緒に電話するのもはばかられたので、幼馴染の千恵に今度はLINEの無料通話で電話した。
翔の話を聞いて、千恵は「うそぉ!」「まじ?」「かっわいくなーい!」の連発だったけど、最後にひとこと言った。
――よっぴーちゃんって、どう考えたって翔が付き合い続ける価値ある女の子じゃないよ。悪いこと言わないからきっぱりやめなさい。
茉緒は大学では陽子たちとは少し距離があるらしく、むしろ翔が美咲から聞いた話をすると初耳のことも多いようで驚いていた。
そしてもう一度、珠実にも言った陽子とよりを戻したいということについてはこう言った。
――私がどうこうって言えないけどね、でも私だったらUターンもしてみるかもしれな。もしその相手のことを本当に好きで、それに少しでも可能性があるなら。あ、あくまで私の場合はだよ。
言うことが人それぞれだった。
やはり、いちばん陽子のそばにる美咲と話すのが、いちばん有意義だった。
翌日は、美咲はけやき祭実行委員会の仕事で大学に泊まり込みと言っていたので、電話しても込み入った話はできないだろうし、何よりそばに陽子本人がいる可能性もある。だからその日はやめて、その翌日にもう一度電話してみた。
――おととい、電話くれたでしょ。
「うん」
――折り返せなくてごめんなさい。
「いや」
――実は折り返したんだけど、話し中だったし、そのうち眠くなって寝ちゃった。
「ごめんごめん。たぶんたまちゃんと話してた時だ」
――そっか。実はさあ、たばこ吸ってたこと言っちゃったけど……ああ、どうしよう、言っちゃっていいのかなあ。
「何か前にも同じようなやり取りをしたようなあ。あの時は結局しっかりとしゃべってくれたけど…」
――うん。
「今回もまた、吉野という人の話?」
――う~ん、そうなんだけど。
「頼むから言って」
――メールにはたばこのことしか書かなかったけど、さすがにこれは言えないと思って……
「頼む、言ってくれ!」
翔の声は悲痛な叫びのようだった。
――実は……
翔は息をのんだ。
――本当はたばこ吸ってただけじゃなくて……あの時、もう暗くなってたし……、喫煙所には他に誰もいなかったし……
翔は黙って聞いていた。




