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翔はデスクチェアを横向きにし、左ひじを机の上に、両足をベッドの上に乗せて右手でスマホをもってメールを読んだ。
――「ハーイ! 元気そう……でもないかな?
秋ですね。
ところでよっぴーのことですけど、まあ私とたまちゃん、とみこは同じ学校ですし、そして私などは同じけやき祭実行委員ですので、よっぴーといつも一緒です、ハイ。そこで観察は十分できるわけ!
そこで今、問題が出てきています。私もたまちゃんもとみこも、もうよっぴーに手が負えません! 何が何だかさっぱりわかんないの!
前にも電話で「よっぴーがよっぴーらしくないの」って言ったでしょ。それが近ごろとーっても強く表れているのですよ!
まずここ最近の報告をしますと……」――
メールのそのあとには、ここ最近の陽子の様子が長々と書かれていた。
たしかにこの長い内容を、苦手な人がスマホで入力するのは大変だろう。
まずは、最近の陽子は大学での講義中、ほとんどが居眠りをしているという。高校時代から通して、陽子が授業中に居眠りすることなど決してなかったと美咲は断言する。
そのことを美咲や珠実が注意しても、陽子はすぐに機嫌が悪くなる。たまに機嫌がいい日もあるが、そんな日は決まって陽子が言うのは「昨日、吉野さんと電話しちゃった」。
だから美咲も翔から電話きたと言ってみたら、返ってきた言葉は「あ、そう? 暇なんでしょ」。
そして週に一度、その吉野のいる大学のダンス部との合同練習の日は、行く時間というのに陽子がなかなかトイレから出てこない。気になって美咲が見に行ってみると、鏡ににらめっこで延々とメイクしていたという。
前に翔と会っていた時も陽子は軽いアイシャドウと薄いリップくらいで、ほとんどナチュラルメイクだった。だが、美咲のメールによると、今はかなりの濃厚なメイクをしているらしい。
そしていざ合同練習に行くと、あちらの大学の男子部員には、陽子はまるで人が変わったようににこにこしてい接しているのだという。
またけやき祭実行委員会の時、キャンパス内の他校舎にポスターを貼りに行くときになって突然大雨が降ってきた。それでも陽子は先輩と一緒に傘を差してポスターを貼りに行った。
あとから美咲も追おうとしたが、美咲の傘が傘立てにない。残っていたのは陽子の傘で、二人はおそろいの傘だったので陽子は間違えたらしい。
陽子の傘を差していくのも気が引けた美咲はしばらく委員会室で待っていたら、戻ってきた陽子は「傘、間違えちゃった」と言って、美咲に傘を返そうとした。「みっちゃんの傘、壊れちゃった」と悪びれもなく「はい」と言って陽子が差し出した傘は、骨が全部折れていて見るも無残な姿になっていた。「風が強かったから」と陽子が言うが、もう傘は捨てるしかない状況になっていた。そうしたら陽子が言った言葉は「傘の骨買って直せば? うち、針金あるからいつも直すよ。ホームセンター行けば道具もそろってるし、針金とか買って直せば。九百円くらいだよ」……美咲は返す言葉もなかったという。
陽子はこんな子じゃなかった。少なくとも翔が知っている陽子はこんな子じゃなかったと、翔のスマホを持つ手が震えた。
美咲から陽子が最近おかしいと電話で聞いた時も、まさかここまでとは思っていなかった。
そして極めつけの情報が、メールの文面には書かれていた。
合同練習に出かける時にいなくなったのはメイクのためだったが、今度は帰るときも陽子の姿が見当たらなかった。美咲が探していると、向こうのダンス部の女子部員が教えてくれた。
陽子は第一校舎の前にいたと。
近代建築の南校舎と歴史を感じさせる古い第一校舎の間の中庭のようなところの木立の中に、いくつかの古いテーブルと椅子が並べられているところがある
たしかにそこに陽子はいた。しかも吉野と一緒にだ。実はそこは、キャンパス内で唯一の喫煙所で、一服している吉野の話し相手にでもなっているようだった。
ところが近づいてみて、美咲は目を疑った。なんと一緒に、陽子もたばこを吸っていたのだという。しかも慣れた様子で、深々と吸い込んでいるようだ。
そこまで読んだ翔は、手が震えるどころか、目を見開いたまま全身の動作を止めていた。呼吸すらしていなかったかもしれない。
――「今のよっぴーはこんな感じです!!
私達もうよっぴーが分からなくなってきました!ハイ!
もうしばらくは様子を見るつもりです!
委員会が終わったら(けやき祭)どうなるか? など……元に戻るといいけど……
はっきり言ってよっぴーが吉野さんを好きだとしても、絶対に合わないでしょう! 吉野さんの好みじゃないみたい! 性格的に…… このようなよっぴーを知ったら、すぐ別れちゃうと思うな! まあ、好きなのかどうかはわからないけどね! 思わせぶりな態度を見てるとバカらしくなってくる! 良いお知らせでなくてごめんね
じゃ、バイバイ」……
すぐ続いて、もう一通メールが来た。
珠実からだった。美咲がアドレスを教えたのだろう
珠実は大和の駅で毎朝陽子と待ち合わせて大学に行っているが、最近は会うことは会っても何の会話をすることもなく、話しかけても「うるさいなあ」というひと言しか返ってこなくて、電車の中でも陽子はすっと無言のままなのだそうだ。しかも、それがここずっと毎日のことだという。
「どうしたの?」と聞いても、「眠いの!」のひと言でまた無言。
そんなことが珠実のメールには書かれていた。
――「じゃあ、よっぴーのこと、よく考えてみてください」……
メールは珠実の電話番号とともに、それで結ばれていた。
翔はスマホをベッドの上に放り投げると、深くため息をついた。
「よっぴー、なんでこんなになっちまったんだよ」
声に出して叫ぶと、自分の頭を掻きむしった。そして「ワオーーッ!」と絶叫し、足をバタバタさせた。
「嘘だ! 嘘に決まってる!」
悪い知らせを受けた時に、誰もが思うことだ。
翔はポンと机の上を叩くと、ベッドの上のスマホを拾って美咲のトークルームからの音声通話で電話をかけた。だが、美咲はスマホから離れているようで、電話に出なかった。
そこで、翔は珠実のメールに書いてあった番号に電話をかけた。
珠実も電話には出なかったが、十分ほどして折り返しがかかってきた。




