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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
Gmの雨
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6

 相変わらず北条は情報が早い。


 「三浦も信じられないって言ってたぞ」


 「なぜ?」


 翔の方から聞いた。

 

 「だっておめえら、海の中で抱き合ってたっていうじゃんかよ」


 「海水浴場でのことか。三浦もまたペラペラよくしゃべるなあ。まあ、あんなの軽い方だったけどな」


 それを聞いた北条は苦笑していた。そこへ畠山が口をはさんだ。


 「おめえら、やりすぎたから振られたんじゃないのか?」


 そして笑いながら、さらに付け加えた。


 「でも今がいちばん落ち着いてっぺ」

 

 畠山の声は重くて硬い。だから、その声でくすくす笑っても軽薄な感じは受けなかった。さらにその声で畠山は言った。


 「俺も振られたことあっからなあ」


 「ああ、あれにか」


 大庭が畠山を見てニタッと笑った。


 「そう、あれに」


 「ありゃ、だめだよ。あっちの方が畠山より背高いじゃん」


 「でも、畠山には今、しっかりいるじゃんかよ」


 北条が言った。


 「まあな」


 「出たよ」


 大庭が笑いながら、畠山の肩を軽くはたいた。

 そして北条も言う。


 「俺、今フリーだけどよ、気楽でいいよ」


 「何がフリーだよ」


 大庭がその言葉を笑いながらまぜっかえす。


 「うるせえんだつうに」


 北条が笑いながら、大庭を軽くパンチする真似をした。


 「でもジョーは明日の夜、デートだろ?」


 畠山がゆっくり言った。北条は照れたように頭を掻いた。


 「そんなんじゃねえんだけどな」


 翔も最初は笑って聞いていたが、だんだんその顔に影がさすようになった。


 「なんかやっぱ寂しい」


 翔はぽつんとつぶやいた。あまりに真顔だったので、皆少し笑いを抑えて翔を見た。


 「振られたって言っても別れたわけじゃないんだ。一度は友達にってことになったけどすぐには無理だって俺が言って、今は空白期間を置いている」


 「友達から恋人になるパターンもあるけど、逆のパターンもないことはないな。でも一部の例外を除いて、だいたいだめになる」


 「でもやっぱ、あいつが忘れられねえ」


 「今さら何を言ってるんだよ。男らしくねえ」


 大庭がそういう向こうで、北条はうなずいた。


 「寺島の気持ち、わかるぜ」


 大庭はかまわずに、グラスを口に運びながら言った。


 「一度終わったのなら、諦めるべきだ。別れた後も、いつまでもグチグチ言っているんは男じゃないよ」


 「でも、それができれば苦労はねえんだよな」


 そんな畠山の言葉を、翔もグラスを空けながら聞いた。大庭は自分でグラスにナポレオンを注ぐとアイスキューブを入れ、カラカラと音を立ててグラスをゆすった。


 「俺やっぱ、空白期間なんてやめてもう一度昔のように付き合ってくれって言おうかな」


 「よせよせ、また振られるのが落ちだ。未練だよ未練」


 大庭は引かない。だが、畠山はグラスを置いて言った。


 「いや、俺はやってみる価値はあると思う。自分が彼女を今でも好きなら、その気持ちに正直になるべきじゃねえか?」


 「そうだそうだ」


 鼓舞するように北条も言う。

 

 「よくドラマなんかで、一度は破局を迎えた主人公のカップルがもう絶対別れて終わりだろうって思ってたら、最終回にどんでん返しで結局ハッピーエンドなんてこと、あるあるじゃないか」


 「おまえはドラマの見過ぎなんだよ」


 大庭がまたまぜっかえす。


 「いや、俺、そんなにドラマ見てねえ。この間たまたま見てたやつがそうだった」


 「それじゃ余計にあてにならねえ」


 大庭が鼻で笑った。北条はそれでも真顔だ。


 「そんで、もしそれでだめだっら、その時はその時ではっきりと諦めがつくだし」


 「なんだよ、そのつくだし(・・・・)って、どこの言葉だよ。飲みが足んねえんじゃねえのか?」


 畠山が笑う。


 「まずい。舌が回んねえ」


 北条は笑いながら、自分の頬を軽く叩いた。畠山は翔を見た。


 「とにかく、寺島がいいと思ったようにやればいい」


 翔は黙ってうなずいた。


 「あれ、俺のナポレオン、もうこんなに飲んじまったのかよ」


 北条が半分空(から)になったナポレオンの瓶を持ち上げ、左右に振った。皆で一斉に笑った。翔も笑っていた。


 その晩は、二枚の布団に四人で雑魚寝した。朝晩は涼しくなったとはいっても、まだ薄い毛布で十分だった。

 翌朝、起きたのは九時過ぎだった。大庭と畠山は午前に授業があるとのことで、飛び起きた。


 「おい、時間ねえぞ」


 そう言いながら、着替え終わった畠山がネクタイを結び始めた。


 「ネクタイなんかどうでもいいだろ」


 大庭はそう言ってブレザーを羽織ると、二人で出て行った。北条がその二人を車で駅まで送って行っている間、翔は一人で残された。目は覚めていたが、布団からは出なかった。

 昨夜のことはあまり記憶にない。普段は飲み慣れないウイスキーが強すぎて、まだ頭が朦朧としている。確か、自分が陽子にもう一度モーションをかけようと言ったらしいことだけは思い出される。

 そのうち北条も戻ってきたので、翔ものそのそと起きだした。翔と北条は、この日は午後からしか授業がない。

 二人でゆっくりと準備をして、昼前には出かけた。

 翔はまた昨日の大江戸線で大学まで行くつもりでいたけれど、北条はいつも西武線で池袋まで出て、JR山手線で行くのだという。そこで今日は、北条に付き合うことにした。

 駅まで歩く間に、右側に広大な敷地で視界が開け、奥の方にアミューズメント施設が見えた。


 「あれがワーナー ブラザース スタジオツアー東京-メイキング・オブ・ハリー・ポッター」


 一気に行ってから、北条は嬉しそうに笑った。


 「噛まずに言えた」


 「ってことは、ここが昔のとしまえん遊園地?」


 「そう。昔よく遊んだけどな、もうすっかりなくなっちまった」


 「じゃあ、駅名だけが豊島園の名前を残してるってことか」


 「そういうことだな」


 その豊島園から池袋まで約20分、まだ時間があるので池袋で朝食兼昼食の食事をすることにした。駅の中にはいくらでもレストランはあるが、どれも高そうだ。

 一度外に出てサンシャインシティ69通りの方に行き、有名なチェーン店のファミリーレストランに入った。


 「なんだか昨日はいろいろあったな」


 北条が食事をしながら、翔に言った。


 「そうだな、みんないろんなこと言ってたな」


 翔も苦笑だ。北条も同じように苦笑していた。


 「でもなあ、なんだかんだ言ってこんないい天気なのによぉ、男二人でファミレス来て、飯食って……なあ」


 「そうだな」


 しかし、これが現実だった。

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