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ソルティ・レモネードと白い夏  作者: John B. Rabitan
マリンブルー
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8

 陽子は動物園か水族館に行きたいといった。


 「動物園だったら野毛山動物園があるけど、あそこは子供向きでデートの場所ではないなあ」


 「でも、デートしたって人いるよ」


 「まあ、いることはいるけど、子供連れとカップルの半々くらいかなあ」


 「でも、動物園は暑いからね。水族館がいいかな、屋内なら涼しいし」


 「水族館なら“えのすい”がある」


 「江ノ島水族館ね。正確には新が付くけど」


 「あと八景島」


 「どっちもいいね」


 ふと思い出したように翔は言った。


 「全然関係ないんだけど、城ケ島にも行ってみたいな」


 「え? 何しにいくの? 何もないよ」


 「海もあるし、磯遊びができる」


 「じゃあ、考えとく」


 「昔だったら城ケ島行って、その帰りに油壷マリンパークに寄れたのに」


 「え? なあに、それ?」


 「知らない?」


 「うん、知らない」


 「城ヶ島の近くにそういった水族館があったんだよ。俺、子供の頃に親に連れて行ってもらった記憶があるけど。今はもうなくなっちゃったんだって」


 「へえ。でも、城ケ島にしようかな。えのすいは小学校の校外学習で行ったし、八景島は高校のやっぱ課外活動で行ったけど、城ケ島は行ったことない」


 「でも、暑いぞ、きっと」


 「じゃあ、涼しい日を選んで」


 ウフフという感じで陽子は笑う。


 「バイクで連れて行ってくれるの?」


 「もちろん」


 「私、自分のヘルメット買おうかなあ。いつも妹さんの借りてたら悪いし」


 「よし、俺がいいの探しておくよ」


 翔がにっこり笑う。


 「やったー」


 陽子もうれしそうにしていた。


 なんとなくということで決まりかけた時に、二人はコスモワールドのゲートを出て、国際橋をみなとみらいの方へと渡り始めた。



 翔はデパート閉店後の清掃のバイトも、ある程度まとまったお金が入ったのでしばらく休むことにした。

 バンドの方もライブ後はしばらく各自で練習ということになり、集まって合わせるのは秋になったらということになっている。次のライブのことなども話さないといけないのだが、皆が放心状態になっているようだ。

 バンドのグループLINEにも、今後のことについての話題の連絡はない。本当ならば、次のライブや秋の学祭ライブ参加などについても討論しなければならないはずだ。

 陽子は家族で信州上田の祖父母の家に行くことになったと、LINEが来た。陽子の母の帰省に連れていかれる形だそうだ。

 だから、城ケ島は信州から帰ってきてからということになった。

 翔は暇なので、映画を三本も見に行った。ラブストーリーやSF、そしてアニメの劇場版と続けざまだ。


 「お兄ちゃん、また映画見に行くの?」


 出かけ際に予備校に行く妹の由佳と玄関で鉢合わせし、由佳に言われた。


 「ああ」


 「一人で?」


 「おひとり様」


 「陽子さんと行けばいいのに」


 由佳はもう、いつの間にか陽子の名前まで知っている。どうせ密告者は千恵に決まっている。


 「俺、昔から見たい映画は一人で行くと決めてるんだ。友達とも行かない」


 「なんで?」


 「没頭したいし、それに俺はいつも映画館では前から二、三列目の中央の席でしか見ない。だから誰かと行くとッそんな席は嫌がられるし。俺が妥協して後ろの方で見るのも嫌だし」


 「それはお兄ちゃんが変。首、痛くならない?」


 「でも、視界にほかの客の姿が見えたら没頭できないし、視界の大部分をスクリーンが占めてないとだめなんだ。後ろの方から小さいスクリーンを見るんなら、家でテレビ見てるのと同《おんな》じだ」


 「ま、人それぞれってことで。私は悲しい受験生だし、お兄ちゃんは勝手に青春してなさい」


 「おまえも彼氏とかいないのかよ、夏なのに」


 「だからあ、私は受験生」


 「受験生が恋をしてはいけないなんで法律はない」


 「法律はなくてもダメなの、大学入ったら思い切り青春するから。じゃ、行ってくる」


 「バイクで送ろうか? 予備校まで」


 「ぜひ」


 しばらくして、兄妹はタンデムで走り出した。前に陽子がかぶっていた赤いヘルメットを今日は本来の持ち主である由佳がかぶっている。

 陽子のときと違って由佳が乗る場合は、翔はタンデムベルトはつけていない。由佳は後ろから自分の両腕を左右から翔の腰に回し、前で組んでいる。

 けっこうな体の部分が密着するその部分や二―グリップの膝から直接体温が伝わるのは陽子と同じだが、やはり妹は妹だ。異性であって異性ではない。また、由佳自身が全然気にしていないから、気が楽だった。


 こうして由佳を送ると、また翔は家でごろごろしていた。外に出ると暑い。エアコンの効いた部屋で過ごすのがいちばんだった。

 そして夜になると、陽子からLINEが来る。それも決まって夜八時だ。昼間は家族といろいろイベントを楽しんでいるようで、落ち着いてスマホに向かう時間が取れないでいるらしい。


 ――[今日家族で虫の演奏会]


     ――[虫の演奏会?]


 ――[夜に近くの原っぱで]


 ――[そこでコオロギとか鈴虫の鳴く声を聴いた]


     ――[なんだ]


     ――[てっきり何かのコンサートかと思った]


 ――[立派なコンサート]


 ――[虫さんたちの]


     ――[もう虫が鳴いてるの?]


 ――[こっちは立秋過ぎたらもう鳴きはじめる]


     ――[こっちはまだ蝉が鳴いてる]


 ――[蝉も鳴いてる]


 ――[昼は蝉で夜は虫さんの演奏会]


     ――[昼は何やってるんだ?]


 ――[だからあ、蝉の演奏会]


     ――[じゃなくてよっぴーが]


 ――[パパの車でドライブ]


 ――[お寺行ったりお城行ったり]


 ――[あとはおじいちゃん家《ち》でごろごろ]


 ――[日帰りで行ける温泉にも行った]


     ――[気候は?]


 ――[少し涼しい]


 近況報告のたわいのないLINEが、毎晩続く。


     ――[俺も行こうかな信州]


 ――[え? 何しに?]


     ――[よっぴーに会いに]


 ――[ってか私明日帰るよ]


     ――[ガクっ 笑]


 ――[それよか帰ったらお土産渡したい]


     ――[じゃあ、城ケ島行こう]


     ――[疲れてるだろうから二日後くらいに]


 返信まで少し間があった


 ――[その頃は自信ない]


 ――[ってか無理]


     ――[なんで?]


 ――[バイクで行くんでしょ]


 ――[遠くは無理]


     ――[だからなんで?]


 ――[お願い 聞かないで]


 ――[女の子なら誰でも月に一度あることだから]


     ――[ごめん]


 ――[横浜くらいなら]


     ――[じゃあ、えのすいにしよう]


 こうして、一度はボツになった新江ノ島水族館に行くことで決まった。

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