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第五話 深層を知る

                  管理人の記録


プログラムナンバー00 NEEDLE

 


備考 


・記憶消去処理を施した例のエイ。エイの姿から人間の姿に変身する能力を持つ。意思疎通が可能。


・謎のエイに関する文献が存在し、江戸時代から似たようなエイはいたようだがNEEDLEとは別個体と判明。


・裏の住人のオリジナル。規格外の戦闘力を持つ。(おそらく海の神の力によるもの)


・記憶消去処理を行いデータの海に放り込む予定だったが、記憶を消すときに完全に消すことができず「分離」という形で記憶を消すことに成功。しかし分離した記憶はまた別の形で顕現する(別の資料参照)


・何かに執着している様子がある。自らを「レイ」と名乗る。


プログラムナンバー01 BLADE


 備考


・例のエイをもとにゼロから作り出したサメがモデルの人物。性格の調整は不可能。


・誰よりも早い段階で「イサナ」を疑い始める。疑り深い性格。


・いずれのループでも最初に防衛プログラムと遭遇。


プログラムナンバー02 TENTACLE


 備考

・ナンバー01の次にナンバー00を基に作り出したタコをモデルにした人物。


・いずれのループでもBLADEに対して恋心を抱く。


・三人のまとめ役としてよくまとめ上げている。


・戦闘力は高いが本人の性質的に戦闘向きではない。





               記憶を辿って side円海


 私とレイは辺りを見渡し、あっけにとられていた。


 無造作に置かれたディスプレイ。あちこちに伸びている配線。むき出しになっている基板。とても研究所という名前からは程遠いようなものばかりが目についた。


「驚きましたか? それもそのはずです。ここは表向きには研究所ですが実態はその限りではありませんから。」


 後ろから「フジツボ」と名乗る案内ロボットが話しかけてくる。このロボットが私たちをここに案内した張本人だ。空間がゆがんだかと思えばいつの間にかこんなところに居た。


 状況からしてフジツボの仕業だろうがこいつは一体何者なのだろうか。少なくとも私とレイをどこかに飛ばせるくらいだ。相当の力を持っているに違いない。


 イサナから直接命令されたと言っていたが怪しさ満点である。


「じゃあなんなんだ。ここは何なんだ。」


 レイが苛立ちを隠さずにそう尋ねるとフジツボは表情の変わらない張りぼての顔で笑うしぐさをする。


「ここは研究所であり、製作所です。ここで作られているものを円海様なら表の町でも見たことがあるはずですよ。」

「表の町…?」


 表の町で見たことある? 私は考える。

 フジツボの「表の町でも」という言い方的に裏の町でも見たことのあるものだろう。

 少し考えたところで気づく。

 いるじゃないか。表にも裏にもいる出所のわからない存在が。


「まさか…海異のこと?」


「お気づきになられましたか。そうです。ここは海異を作り出している製作所なのです!」

「なんだと?!」


 レイはフジツボの言葉に対して驚いたように声を上げる。


 どうやって海異を作っているのか、どうしてそんなものを作っているのか。分からないことだらけだが、辺りの異様な景色やフジツボの自身のある言い方からなんとなく説得力があるように感じる。何も分からないのに説得力も何もないが。


 もしフジツボの言う通り、この場所で海異が作られているならば、裏の世界から海異が表の世界に行っていることになる。


 海異を討伐させるような依頼をしているイサナはこの場所を知らずに依頼していたのだろうか?それとも知っていて依頼していたのだろうか?


 もし知っていて依頼していたのだとしたら何のために?


「まあ裏の町には大きい化け物の海異もいますがね。」


 フジツボは表の事情も知っているかのように語る。

 フジツボがそこまで言ったタイミングでレイはフジツボの喉元に刀を突きたてた。


「お前の目的はなんだ。ただイサナから案内をしろと言われたわけではないだろう。」

「せっかちなですね。レイ様。」


 フジツボはやれやれといった風に手を広げ、首を振りレイを挑発する。そしてフジツボは突然笑いだす。


「では私どもの真の目的を果たしましょう。」


 フジツボがそういうとまた、この場所に連れられた時と同じように空間がゆがみ始める。だが最初の時とは違い、どんどんとレイとの距離が離れていく。


「レイ!」

「円海!」


 私たちは名前を呼び合い、手を伸ばすがどんどん離れていく。私はレイの名前を叫び続けることしかできなかった。



 気が付くと私は映画館のような場所にいた。


「レイ! レイ! いるの?!」


 必死に叫び、辺りを見渡す。それでも私の声は虚しく館内に響くだけだった。


「レイ様は諸事情により別の場所へご案内させていただきました。」


 私は驚いて振り返るとそこにはフジツボが立っていた。フジツボは続けて説明をする。


「ここは映画館の姿をしていますが実際は投影室です。しかもただの投影室ではありません。とある記憶媒体から記憶を呼び出し、その記憶を見ることができます。しかしただ見るだけではなく、まるでその場にいるかのような感覚で記憶をみることができます。」


 フジツボは長々と説明をする。だがそんな説明が入ってくるわけもない。


「…何が目的なんですか。今のところ、イサナの自己中にしか聞こえませんよ。」


 牽制の意味も込めて聞いてみる。フジツボはこちらに顔を向けると「まってました」と言わんばかりにゆっくりと話し始める。


「これから円海様には記憶媒体に保存されたとある人の記憶をご覧になってもらいます。それは一匹のエイが産み落とされてからの物語。」 


 フジツボはそういうとスクリーンへと目を向ける。私はそれにつられてスクリーンのほうを向く。その瞬間、辺り一面の景色が映画館から汐光町へと変わった。だがそこはここに来る前に見た崩壊していく汐光町そのものだった。茫然と空を見上げているとフジツボは無機質な声でこう言った。


   「ここから始まるのは999回分の世界を歩いたエイの記憶の一部です。」





                  1回目 終わり


 燃え盛る商店街。悲鳴の鳴り響く住宅街。町全体が阿鼻叫喚に包まれいつもの活気を失う。


「はあ! 死にさらせ!」


 私は怒りをぶつけるように海異や黒い剣士の分身を切り裂いていく。町は壊され住民はみな殺された。なにより、大切な仲間たちまでもが奴の凶刃に墜ちた。

 目の前で二人は消えていった。


一体、また一体と力任せに敵をたたき切る。すべての敵を切り伏せたところで空を見上げる。

夜の暗闇ではない、別の黒い何かが空を覆い、侵食していく。その様子はまるで液晶のディスプレイがウイルスに侵食されていくようなものだった。


「この町はなんなんだ…」


 明らかにこの町は普通ではない。空も、海異も、黒い剣士も。何もかもが私にとって理解しがたいものだった。こんな異常事態だってのに町の管理者を名乗るイサナは出てくる気配もないし、連絡にも応じない。

 

そんなことを考えていると後ろから気配を感じる。


「誰だ。私の後ろにいるのは。」


 私は怒りを隠さない声で言いながら後ろを向く。そこには一人の男がいた。だが、表情が動かないし関節が球体になっている。どうやらこいつはロボットなようだ。


「そう警戒なさらないでください。私はフジツボと申します。イサナ様からの命令によりイサナ様の代わりに参りました。」


 イサナの命令? 管理者を名乗っているくせにこんな時まで姿を見せずに身代わりを送ってくるのか。  そりゃ刃も疑うわけだ。


「なら何の用だ。町がこんなことになってるというのに今更何しに来た。」


 私は苛立ちを隠さずに問いかける。


「あなたは私を除いてこの町の最後の生き残りです。そしてあなたはこの世界において重要な役割を持っています。あなたがいま最も私に聞きたいこと、それはこの世界の正体でしょう。

 

  私はイサナ様の命令によりそれをあなたに伝えに参りました。しかしここでは場所が悪い。ですのでしかるべき場所へ案内させていただきます。」


 フジツボがそういうと空間がゆがみ始め、気が付くと映画館のような場所にいた。


「ここなら落ち着いて話すことができます。」


 フジツボは後ろからそういうとこちらを一瞥する。


「さっさと話せ。この町は何なんだ。イサナの命令とか言ったよな。ならイサナはなぜこの緊急事態に顔も見せなければ何の連絡もよこさない。」


「焦らないでください。世界そのものについて話すのですから長い話になります。」


 フジツボのやや挑発的な言葉に苛立ちを覚えながらもフジツボの話を黙って聞く。


「前提としてこの世界は目的をもって何者かに作られた世界です。そしてこの世界を作ったのは…」

「イサナだろう。」

「勘が鋭いですね。それともずっと疑っていたとか。」


 この鉄屑はわかっている癖にずいぶんと気に障る言い方をする。そんな私を気にせずフジツボは続ける。


「それはさておき、この世界は一見、普通の世界に見えます。ですがあなたは見たはずです。崩れ行くスクリーンのような空。粒子のように消える海異。そこから導き出される答えは一つしかないでしょう?」


 フジツボの顔は動かないはずなのに、にやついた顔をしているように見えた。


 崩れ行くスクリーンのような空。

 粒子のように消えていく海異。


 そして私は目の前で粒子となって消えていく二人を見た。

 その時点で私が抱いていた疑念はとっくに事実へと変わっていた。


「データの世界…」


「そのとおりですレイ様! ここはイサナ様が創造主となって作り上げた仮想世界! データの粒子で構成されたデータ空間なのです! …どうされましたか? レイ様。」


 フジツボは意気揚々とした態度で尋ねる。覚えた言葉をすぐ使いたがる子供のように。

だが、ここまでのフジツボのしゃべりでなんとなくこいつの正体をつかむことが出来た。。

 私はフジツボの喉元に刀を突き立て、その事実を口にする。


「おまえ、フジツボなんかじゃないだろ。」

「何のことでしょうか?」

「とぼけるな。お前と話していてとてもじゃないが一介の案内ロボットとは思えなかった。お前の話は命令されたロボットとは思えないくらい人間の言葉だ。それもまるで自分のことを話しているようだった。」


 フジツボはフッと笑うとさらに訪ねてくる。


「なぜそう思われたのですか? 私の体は純度百パーセントの機械ですよ?」


 こいつはわかっている。わかったうえで私を挑発するように言っているんだ。そんな余裕ぶったフジツボに最後の宣告をする。


「おまえ…「イサナ」だろ? 大方遠隔でこのロボットを操作して『フジツボ』という名前を名乗っているんだろう。いかにも私たちの前に顔も出さない臆病なイサナらしい。それにお前の言葉の節々からは機械とは思えないような感情を感じた。答えろ。お前はなぜこんな世界を作った。」


「フフフ…フハハハハ!」


 イサナは突然狂ったように笑うと、ぐるん!と首を回しこちらに目を向ける。


「やっぱりバレるよねぇ。君は出会ったときからずっと賢いからねえ。まあ隠す気なんてなかったけどね。僕は。」


 急に人が変わったように話し始めるイサナ。

 とうとう本性をあらわしたか。イサナはさらに続ける。


「君の言う通りさ。この体は僕が遠隔で操っている傀儡にすぎない。結構演技には自信があったんだけどねえ。よくもまあ少ない情報でその結論に至ったねえ。」


 おどけるような声でわざとらしく感心する。そんなイサナの姿を見た私は自分の中で何かがふつふつと沸き立つのを感じていた。


「いやあまさか一回目からここまでたどり着くなんてやっぱり僕が作ったプログラムは優秀だねえ。」

「プログラムだと?」


 ここだけ聞いても何のことか分からなかったが、ここがデータの世界ということを踏まえると嫌な可能性を考えてしまう。


 そして、その可能性はすぐに真実だと思い知らされる。


「あぁそうだとも! BLADEやTENTACLE…君の視点なら…

 鱶崎 刃と瑞多 真子だったっけな? いやぁ良いセンスだよねぇこの名前? 僕がわざわざ付けてあげたんだよ? 愛着はないけどね。」


「…くそっ」


 そんな気はしていた。見ないふりをしていた。だが、こうして見ないようにしていた可能性を事実という形で突きつけられるとどうしようもなかった。

 私は自分の中で怒りが燃え始めたのを感じた。


「君だけはプログラムじゃないんだけどね。」


 イサナは心情など意にも介さず衝撃的なことを吐く。


 私だけはプログラムじゃない? だとしたら私は何者なんだ?


エイのような鋭い尻尾は生えているし自分で言うのもあれだが身体能力なんて人間とは思えないくらい高い。それがプログラムによるものでないのだとしたら私は一体…。


 だが、イサナの次の言葉で私のそんな疑問は一瞬で怒りに塗り替えられてしまった。


「あの二人は君をもとにして作ったから結構やると思ったんだけどね。僕の仕込んだ防衛プログラム兼記憶媒体が強すぎてねえ…。案外あっけないものだったよ。」


 イサナはあからさまに残念そうな仕草をしてため息をつく。


 私たちに指令を出していたこいつは自らの手であの二人を殺したと自白した。

 その瞬間、私の中で燃え始めていた怒りの炎は完全に私の思考を飲み込んだ。


「貴様!」


 私は感情のままに叫び、刀を構えた。だがイサナはそんな私をあざ笑うように言葉を続ける。


「今はそんなに感情を荒げている場合かな?まずは僕に聞きたいことが山のようにあるんじゃないのかな?」


 イサナはそういうと刀を構えた私のほうに手を向ける。その瞬間、イサナからただならぬ圧を感じたかと思えば体が動かなくなっていた。


「イサナ! 私に何をした!」


「そのままにしてたら今頃私の首を跳ねていただろう? それじゃいけないからいったん動きを止めさせてもらったのさ。」


 イサナは腕を降ろすとさらに言葉を続ける。

「こんなところまで来たリワードだ。特別に僕から教えてあげよう。」



 私は頭が混乱していた。今見せられたのは多分、レイの記憶だ。だがその中にはいくつもの不可解な点がある。


 一回目とは何のことだろうか?

 なぜレイの記憶のどこにも私の気配がないのだろうか?


 そもそもフジツボは999回分のエイの記憶がどうのこうの言っていたはずなのに今見たのはレイの記憶だった。


 レイも同じ記憶を見せられているようだった。


 っていうかフジツボってイサナだったの?! だとしたらめちゃくちゃ危険な状況なのでは?


「そんなに慌てなくても僕は何もしないよ。」


 後ろからそう聞こえてくる。バッと後ろを振り向くとフジツボと名乗ったロボットの姿がいる。レイの記憶ではこのロボットはイサナであると本人が言っていた。


「うわあああ!」

 私は後ろに立っていた黒幕の存在に思わず声を上げて驚いてしまう。

「驚きすぎじゃないか? ずっと一緒にいたってのに。」


 私はイサナと思しきロボットのほうを向きにらみつける。当のイサナは私のそんな様子を意に介さずにくすくす笑うとしゃべり始める。


「記憶で見たんだろう? 僕の正体がイサナだって。まあこの体はあくまでも遠隔操作しているロボットだから本体ではないけどね。」


 挑発したように笑いながらイサナは笑う。


「…何がしたいんですか。」

 私は精一杯声を振り絞ってイサナに問う。イサナは調子を変えずに問いに答える。


「何がしたい? この世界を作った理由でも聞いてるのかい? それならさっきの記憶の続きを見せてあげよう。まぁ最初から見せるつもりだったけどね。」


 イサナはそういうと指を鳴らし空間がゆがみ、イサナとレイが話している場面になった。




「レイ君。君は最初にこの町はなんなんだと言ったよね? なら教えてあげよう。」


 イサナはそういうとフッと笑い語り始める。


「この町…さらにはこの世界は現実を創りかえるために作ったんだよ!」

「は?」


 私はこいつが何を言っているのか理解できなかった。現実を創りかえるために作った? 現実が表の汐光町ということはわかるがそんなことが出来るとは思えない。だが仮にそんなことが出来たとしてどうするんだ?


「そんなこと出来ないとでも言いたげな顔だね? まぁできるんだよ。理由は教えてあげないけど。」

 肝心な部分は話さないところが食えないやつだ。本当に腹が立つ。

「何のために世界を創りかえるつもりなんだ。」


 イサナからはそれまであざ笑うような声で語っていた雰囲気がなくなる。

 イサナは黙り込む。

 あたりが冷たい雰囲気に包まれたように感じた。

 イサナは打って変わってどす黒い声で語り始める。


「…失望したのさ。この世界に。だからすべて一度壊して創りかえるのさ。僕が二度と失望しないような世界に!」


 イサナが今までにないくらい力強い声で空気を震わす。

 イサナの声には悲しみと怒りが混ざり合った悲痛な声に聞こえた。

 私はイサナの急な変わりように驚いて声も出ない。


「…壊すってなんだ。どうやってやる? 壊したとしてそこにいる人々はどうなる?!」

 私は叫ぶようにしてイサナに問う。


 そうだ。イサナはこの世界を「壊す」と言っていた。もし私の予想通りなら裏の町だけでは済まないだろう。


イサナは私の叫びをあざ笑う。


「僕はね…手に入れた…いや、授かったのだよ。僕自身の願いをかなえるための力を! 僕はこの力で町を…ゆくゆくは世界を壊し創りかえる。まあその中で犠牲は生まれるかもしれないけどね。表も裏も。」


 やはりか。この男は両方の世界の人々を犠牲にして世界を作り替えるつもりだ。そしてその犠牲に対してイサナは何も感じていない様だ。


 私は目の前のイサナの傀儡の体を切り伏せたい衝動に駆られる。だが、依然として私の体はイサナの謎の力によって動きを封じられていた。


「くそっ! 動け!」

「無駄だよ。レイ君。君の体は僕が封じているんだから。それにまだ君には言いたいことがあったんだが…まあまだ一回目だ。デザートは最後まで取っておこう。」


 一回目? さっきからこいつは何を言っているんだ?私が訝しげな表情をするとそれを見たイサナは心を読んだかのように私に問いかける。


「そういえばその説明もしてなかったねえ。実験の回数のことだよ。流石に何の実験もなしに世界を壊して創りなおすとかできないからね。」


 実験の回数? どういうことだろうか?イサナはさらに言葉を続ける。


「作り替えた後の世界のシミュレーションとそのための学習さ。住人の営みや君たちの戦いなんかを覚えさせるのさ。」


 何に覚えさせるつもりなのか。そんな疑問も思い浮かんだが、私の怒りは別の疑問をイサナに投げつける。


「貴様! まさか同じことをあと何回も繰り返すつもりか!」

もしそうなら真子や刃、町の住民がこの先何回も同じ目に合わなければならないということになる。この男の身勝手な思惑のせいで。


「そうなるね。僕の力の使い方や今後の世界のことのシミュレーションをしておきたくてね。まあ安心したまえ。記憶を消してこの裏の世界を最初まで巻き戻すだけだから。」

「ふざけるな! 真子も刃もあの黒い剣士に殺されたんだぞ! あんなのを何回も繰り返せというのか!」


 私はイサナに向かって怒りをぶつけるように叫びながら体に力を込める。


 こんな奴の好きにさせてたまるか!


 そう思い、精いっぱい力を込める。

 怒りに任せ、体のいたるところに血を巡らせる。

 そして私はガラスが割れるような音とともに体の自由を取り戻した。

 私は刀をイサナに向ける。

 イサナは一切動じない。


「いやぁ やっぱり君はすごいよ! 海の神が君を生み出しただけのことはあるね。」

イサナは感心したように言う。


 海の神?またなにか分からないことが出てきたが目の前の鉄屑に聞けばいいだけのことだ。


「答えろ。」

 イサナはわざとらしく両手を上げる。


「まだ何か聞きたいことでもあるのかい?」


「私は一体何者だ。プログラムじゃないだとか海の神が生み出したとか。なぜこんなところにいる。」

 イサナは少し笑うとこちらを向く。


「そのへんはさっきも言った「防衛プログラム兼記憶媒体」から直接見たらいいよ。ちょうど今来るしね。」

「何?」


私が返事をした途端、辺りの景色が映画館からステージへと変わる。そして、後ろから何かが迫ってくる気配を感じた。私はそれを避けるとイサナの傀儡のロボの首が刀に着られ飛んでいく。


 私に襲い掛かってきたそれはあの黒い剣士だった。


 まさかイサナの言っていた「防衛プログラム兼記憶媒体」の正体はこいつ?!

 私が固まっていると後ろからイサナの声が聞こえる。どうやらはねられた首から聞こえてくるようだ。


「僕の出番はこれで終わりだ。すべて終わった後、二回目の最後にでもまた会おう。」


跳ねられた傀儡の首からそう聞こえると傀儡の目からは光が消えた。

 黒い剣士はそんなことを気にも留めずに私に容赦なく切りかかってくる。


「ハア! ガァ! グオオオ!」


 そんなうなり声をあげながら両手に握られた二振りの刀で切りかかってくる。

 たまらず私は自分の刀で黒い剣士の刀を受け止める。


 その瞬間だった。


「うっ! なんだ!」


 頭の中に何かが流れてくる。

 これは記憶?それも私の?

 無数の記憶が次々と頭に流れてきた。




 記憶はここで途切れた。


「どうだったかな?この世界のことや僕の成し遂げたいことはわかってくれたかな?」


イサナの最初の言葉の意味が分かったような気がする。この世界はイサナの手によってループしている。


 そして今私がいるこの世界こそ丁度1000回目のループなのだろう。

だから今までのループの分で999回分というわけだ。


 さらにそのループはイサナが世界を壊して創りかえるためのシミュレーション。すなわち実験ということになる。


 つまりレイたちはイサナの身勝手な行動でさんざん人生を振り回されていたのだ。

 ふつうはここで怒りに燃えるのだろう。実際、私の胸の中では怒りがふつふつと沸き立つのを感じていた。


 だが、その一方で私の頭には別の疑問が浮かんでいた。それはレイ自身のことと、海の神のこと。特にレイのことに関しては気になることがあった。


 初めてレイと会った時から抱いていた違和感。といっても嫌な感じのものではない。どちらかといえば懐かしさや心地よさのような、そんな感覚。初めて会った時からこの感覚を抱いていたからこそ違和感があったのだ。


「…まだ気になることがあるという顔だね? 大方レイ君のことと海の神のことだろう?」

 図星を突かれた私は一瞬驚いた顔をするがすぐに表情をもどす。だがイサナは私の一瞬の表情の機微を見逃さなかった。


「おや? 本当に気になっていたのかい? まあそう仕向けるように記憶を見せていたから当然だよね。」

 イサナの鼻につく言葉遣いは、レイの記憶の中でみたイサナと同一人物であると再確認することが出来た。


「なら簡単だね。君には今からレイ君のもとに行ってもらう。あとは「あれ」に任せるとしよう。」

 イサナがそういうと、あの時と同じように空間がゆがむ。そして気が付くと別の場所にいた。


 目の前には扉がある。

 両開きの大きい扉だ。

 扉からは今まで感じたことのないような雰囲気を感じる。

 何か鬼気迫るような雰囲気。

 それはこの先に重要なものがあるということを証明していた。


「扉の向こうにはレイ君がいる。レイ君も君と同じ記憶を見ていたはずだよ。」


 私は一歩、また一歩と扉に近づく。


 この扉を超えたら私はきっと重要なことを知ることになる。


 それはたぶん、自分にとっても無関係ではないだろう。


 最初からあった違和感。


 その正体を知ることになるだろう。


 扉に手を当て思い切り扉を押す。


 そこには観客席が階段状に並んでいて中央には弧を描いた水槽に囲まれたステージがある。どうやらここはイルカショーなどの会場に使われる場所のようだ。


 ステージの方から刀のぶつかり合う音が聞こえる。


 レイだ。


 遠くてよく見えないがレイと黒い剣士が刀をぶつけあっている。


「レイ!」


 私はそう叫びながら観客席の横にある階段を駆け下りる。

 ステージの周りは水が貼ってあるが、ステージの横にある階段から直接ステージに上がることが出来た。


 レイはこちらに向かって何かを叫んでいるようだったが、よく聞こえない。


「レイ! レイ!」


 叫びながらレイのもとへ向かう。


「レイ! だいじょ…え?」


 息を切らしながらステージへ上がりレイの方を見る。

 だが、その行為は私にとって見たくないものまで見えてしまった。


 苦しそうな表情で刀を振るうレイ。


 声をあげながら刀を力強く振る黒い剣士。


 そして、その傍らで倒れている鱶崎さんと真子さんを。



               記憶を辿って sideレイ


 「ここは…どこだ…?」


 さっきまで円海といたはずだが、いつの間にか別の場所にいた。おそらくあのフジツボと名乗るロボによってとあらかたワープでもさせられたのだろう。というか、そうとしか考えられない。


 辺りを見渡すと観客席のようなものがずらっと並んでいるのが見える。どうやらここはイルカショーなどをやるステージのようだ。


 「円海! どこだ! 円海!」


 必死に円海の名前を呼ぶ。だが私の声はこの広いステージの中を虚しく響かせるだけだった。


 「くそっ! フジツボのやつ…」


 そんなことをつぶやきながら少し後ろに足を動かす。すると足が何かに「トンッ」と当たる感覚があった。


「なんだ?」


 私は後ろを向き何が当たったのかを確認する。

 

   そこには刃と真子の姿があった。倒れて動かなくなっている二人がいた。


 「おい! 真子! 刃! しっかりしろ!」


 名前を呼びながら二人の手に触れる。


 冷たい。

 完全に冷え切っている。


 その手はもう生きている人間の温もりを感じることができなくなっていた。


 よく見ると、二人の腹の辺りが赤黒く染まっているのが見える。空がウイルスに侵食されたディスプレイのようになっているのと同じような傷に見えた。


 「そんな…まさか…」


 二人の変わり果てた姿の前で絶望する。だが、後ろから迫ってくる気配はそれを許してはくれない。二人をこんなにしたのもこいつの仕業だろう。


 私は刀を構え、振りながら叫んだ。


 「やっぱりお前か! どうして二人を!」


 黒い剣士だった。両手に握られた二振りの刀を思い切り私にぶつけてくる。私はそれを受け止める。


 「お前は何者だ! どうして私たちの邪魔をする!」


 黒い剣士は何も言わずに刀を振るう。

 負けじとこちらも刀に力を籠める。

 怒りに任せ刀を振るう。


 そうして私と黒い剣士は戦った。

 こちらが刀を振るうたびに黒い剣士も刀を振るう。

 力以外何も感じない奴の刀に私は怒りを、悲しみをひたすらぶつけていた。

 



 どれだけ時間が経っただろうか。

 仲間を殺されて怒りに燃え、その怒りを糧に刀を振るう。

 それでも黒い剣士を押し切ることはできない。


「くそっ! くたばれ!」


 口からは怨嗟に燃えた汚い言葉があふれる。

 そんな時だった。


「レイ!」


 私を呼ぶ声が聞こえてくる。


 円海の声だ。


 観客席の階段を駆け下りこちらに来るのが見える。

 倒れている二人を円海には見せたくない。


「こっちに来るな!」


 そう叫ぶが円海には聞こえていない。


「まどっ…くそ!」


 もう一度叫ぼうとするが黒い剣士の刀はそれを許さない。


「レイ! だいじょ…え?」


 鍔迫り合いを続けているといつの間にか円海がステージに上がってきていた。そして、倒れている二人を見てしまう。


「円海! なんで来た!」


 黒い剣士を精いっぱい弾き飛ばして円海に叫ぶ。

 黒い剣士は壁にぶつかりうなだれる。


「フジツボ…イサナに案内されて…扉開けたらレイと黒い剣士が戦っていて…それより二人はどうしちゃったの?」


 円海はおびえた様子でたどたどしく答える。その表情からは動揺と恐怖が痛いほどに伝わってくる。

 そんな様子を見た私にはフジツボやイサナのことを気にする余裕なんてなかった。


「ねぇレイ? 真子さんと鱶崎さん…生きてるよね?」


 恐る恐る円海は聞いてくる。その言葉からは、ただの事実確認ではないような意味がこもっているように感じた。


 私は答えられずに目をそらす。円海は私の様子を見てすべてを察したのか、悲しみに顔を歪ませて両手で口元を抑え、その場にへたり込む。


 だが、その様子を黒い剣士は見逃さなかった。

 起き上がってきたかと思えば円海の方を向く。

 来る。

 円海はまだ動けない。


「させるか!」


 私は刀を構え黒い剣士の一撃に備える。

 私と黒い剣士は同時に前へ踏み込むとお互いに刀をぶつけあう。


「レイ!」


 それと同時に円海も反応する。


「その顔を見せろ! この人殺し!」


 そう叫びながら刀を黒い剣士の鋼鉄のヘルメットに力いっぱい振り下ろす。

 ヘルメットを切り裂くことこそ叶わなかったが、顔の部分を壊し、素顔をさらすことが出来た。

 だが、黒い剣士が顔を上げた瞬間、私と円海は唖然とした。


「は?」

「うそ…でしょ…?」


その顔は私の顔と瓜二つだった。


 黒い剣士は壊れたヘルメットを脱ぎ捨てると一瞬で私の近くに来ると思い切り私を突き飛ばす。


「レイ!  大丈夫?!」

 円海が駆け寄ってくる。


「来るな!」


 黒い剣士は私に向かってゆっくり歩いてくる。

 私の目の前まで来ると、黒い剣士は私の手に握られた刀の刃の部分を握り、おもむろにその切っ先を自分の喉元に突き立てる。


「…今が思い出すとき…あの男の罪と…お前の背負った運命を!」


 そういうと突き立てていた切っ先で自らの喉元を貫く。

 その瞬間、辺りにガラスの破片のようなものが飛び散り、空中で止まる。よく見るとガラスの破片には何かが写っている。


「あれって…レイ? それと町の景色も映ってる?」


 円海にもこの様子が見えているようだ。

 私は何が起こったかわからないでいると突然あたりが光に包まれる。


「うっ!  なんだこれは!」

 私と円海は光に飲み込まれ目をつむる。やがて光が消えるとそこは真っ青な景色が広がっていた。

 

     私は思い出すこととなる。自分が何者なのかを。



五話目「深層を知る」


かき氷が恋しくなる時期ですね。こんにちは、深水 優です。


冒頭から「小説とは・・・?」となった方もいるかもしれません。


深い場所の「深層」と「真相」この二つの言葉をかけた素敵なタイトルですね。


今回の話は前回から一転、かなりのシリアス路線になってます。


円海の迷い込んだ裏の町とは何か。その大体8割くらいのことがわかったんじゃないでしょうか。


イサナのあのザ・マッドサイエンティストみたいなキャラは結構お気に入りです。読んでてイライラするようなしゃべり方のキャラを書くのはもう楽しかったよね!


次の話はレイの過去編ということで、まあここまで読んでくださった方ならレイの正体は大体わかるでしょうが、それ以上の何かを感じれるように書いています。


今回も読んでいただき、ありがとうございました!

「レイって何者なの?」「イサナむかつく!」と少しでも思っていただけたらブックマークの登録、評価のボタンを押していただけるとめちゃめちゃ嬉しいです!


六話目は8月19日(水)18:00の予定です。ぜひ楽しみにしていてください!

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