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第三話 フカは疑う

                 あれからとこれから


 目が覚めると、見慣れない天井が見えた。周囲を見渡すと、まだ視界がぼやけているがここがバーだと分かった。カウンターではレイと真子さんが何やら真剣に話していた。


「あら、円海ちゃん起きたわよぉ?」

「やっと起きたか。急かすようで悪いが早速こっちに来てくれ。今ある情報とこれからの話をしたい。」


 そういうとレイはこちらに手招きをする。そこで自分がレイに運ばれている内に気絶してしまったことを思い出した。


「あらレイちゃん、もう少し寝かしておいていいんじゃないの? 大体レイちゃんが無茶な運び方するからこの子気絶しちゃったんじゃない。」


「…確かに無茶な運び方だったがしょうがないだろ。それにこいつには色々あったから疲れも溜まっていたんだろ。しかしあの黒い剣士とあったのが戦いの苦手なお前じゃなくてよかった。」


 レイの言葉で思い出す。最初は鱶崎さんが心配で気が気でなかったが、レイに抱えられて運ばれたときは、途中から視界が揺れに揺れまくり、いつ吐いてしまうかとヒヤヒヤしていた。


 あの光景はもう二度と思い出したくない…そこで一番大事なことを思い出す。


「そういえば鱶崎さんは?! 無事なんですか?!」


 鱶崎さんは私とレイを逃がすためにあの黒い剣士と戦った。私を守りながらとはいえ、ダイオウイカの海異を一瞬で倒せるレイがダメージを与えられなかった相手と戦って鱶崎さんが無事で済むとは思えなかった。


 焦るような大声で二人に聞く。


「呼んだか? ガキ。」

「うわあ! 脅かさないでくださいよ!」

「そっちが勝手に驚いたんだろうが。」


 びっくりして振り返るとそこには鱶崎さんがいた。


 特にケガをしている様子も無く、とりあえずは無事のようだ。だけど姿を見た瞬間、私は別の意味で驚いた。鱶崎さんは両手にはサバの塩焼き定食を持っていた。


 白米、みそ汁、漬物、サバの塩焼きの四点セット。本当においしそうだ。そして定食をもつ鱶崎さんが来ているエプロンはピンク色のフリフリのエプロンだった。


「黒い剣士はどうなったんですか?」とか「どうやって帰って来たんですか?」とか聞きたかったが私が最終的に問いかけたのは「なんですかその恰好?」だった。


 鱶崎さんは私の問いかけを無視して「これが真子の分。これがレイの分だ。ガキの分もすぐ持ってきてやる。」と真子さんとレイの分の置くと、奥の方へと行ってしまった。


 レイと真子さんは「いただきます」というとすぐさまに食べ始める。二人ともとてもおいしそうに食べている。唖然としていると


「あら? どうしたの? そんな顔して。もしかして。フカちゃんが料理を持ってきたの意外だったかしら? フカちゃんはあれでもお料理が上手いのよ?」

 そう教えてくれた。口の周りには米粒がついている。


「そうなんですね…お米ついてますよ?」

「あらほんと。」


 説明を聞いて料理については納得したが、結局あのフリフリのエプロンのことには何も言及されなかった。というかもっと重要なことを聞きそびれた。


 レイは方はというと「刃の料理は本当にうまいな」と言いながらみそ汁をすすっていた。


 なんだか図書館の前で起こったことが嘘みたいな緩い空気が流れているように感じる。そんなことを考えているとまた奥から鱶崎さんが出てきて「これがお前の分だ。」と二人と同じサバの塩焼き定食をわたしが座っている前に出してくれた。


 そして鱶崎さんは自分の分の定食をカウンターに置くと、椅子に座り「いただきます。」と言ってから食べ始める。この人もしかして意外といい人だったりする? 


 鱶崎さんにちょっとした親近感のようなものを覚えた。そんなことを考えながら私も食べ始める。鱶崎さんが作ったサバの塩焼き定食は本当においしかった。


 全員が食べ終えたタイミングでレイが話を始める。


「とりあえず全員集まっているな。ならこれからのことについて話したいと思う。いいか?」


真子さんと私はうなずき、鱶崎さんは「構わねえ」とぶっきらぼうに答える。


「真子とは少しだけ話したのだが私たちはこの水族館に存在する研究所を探してみるのがいいと思う。私と円海が図書館で見つけたこの本。


 文字は擦れ、中身も真っ黒で読めないがかろうじて読める一ページ目に書いてある言葉はおそらく「けんきゅうじょのきろく」だ。」


 レイはさらに続ける。


「私はこの町に研究所なんてないと思っていたが、円海の話によると表には水族館に付属する研究所があるらしい。そしてこの本が裏の町にあるということは裏の町にも研究所はあるということだ。

 そこで私と円海はそこに何かしらの手がかりがあると考えた。円海が表の町に戻る方法やあの黒い剣士について何かわかるかもしれん。」


「私はその黒い剣士さんを見てないけどレイちゃんとフカちゃんが倒せないんじゃとっても危険よねえ。」


 そうだ。レイの言う通り私が戻る方法や私たちを襲った黒い剣士についての手がかりがあるかもしれない。私たちに明確に敵意があって殺そうとしてきたあいつをどうにかする方法だって見つかるかもしれない。そう思うと私はいてもたってもいられなくなる。


「だが表の町には私は詳しくない。だから円海。もう少し詳しい説明を頼む。」

「ええ?」


 いきなり話を振られて戸惑ってしまう。そんな詳しい説明ったって・・ていうかレイが話始めたのに私にほとんど丸投げじゃないか。


 そう思いレイの方を見ると真剣な眼差しでこちらを見てくる。こいつは本当に無自覚にこういうところがあるな。そう考えているとほかの二人もレイと同じく真剣な眼差しでこちらを見ていた。


 特に鱶崎さんは話が気になるのか二人よりも少し前のめりになっていた。私が説明をしないと話は進まなそうだ。観念して説明を始める。


「表の町の水族館に研究所があるのはレイがさっき話してくれました。その研究所は海異の研究をしている研究所です。」

「表にも海異がいやがるのか。」


 鱶崎さんが驚いたように口をはさむ。そういえば私が最初に説明した時には鱶崎さんは外に出ていたのか。


「はい。そこでは「鯨井」という方が中心となって海異の安全性や生態などの研究をしていました。なので表の海異はとても安全な小魚やクラゲ、ウミガメなどの生物しか見かけません。」

「表の海異が安全なのは知ってたけど、それが研究によるものだったのは初耳だったわねぇ。」

「そうだな。まさか海異の研究なんてものがされているとは私も思わなかった。」


 レイと真子さんが少し驚いたような顔する。レイは裏の町には研究所なんてないと言っていたから当然の反応だろう。


「元々、海異は表にいなかったんですけど、ホオジロザメの海異が突然現れて店を襲った事件があってから研究が進んで安全な海異しか見かけなくなった感じですね。」

「ということはそう言った海異が何かしら事件を起こしたみたいな話はそのホオジロザメの海異だけなのか?」


 レイが不思議そうに問いかける。


「そうだね。少なからず私はその事件以外知らない。結構ニュースでやってたから他の事件が起きた時も私がわかるくらいにはニュースとかでやるはず。それがないってことは他の事件は無いと思う。」


 話を聞かないだけでもしかしたらあるのかもしれないが、あったとしたらさっきも言った通りニュースになるだろうし、学校や町の中で噂になっていたりするだろう。


「てことはよぉ、研究所の連中が事件をもみ消したとかあってもおかしくねえなあ。」

「そうねえ。確かにそう考えると研究も怪しく見えてくるわねぇ。」

「特に「鯨井」ってやつが怪しいな。研究の中心の人間なんていかにも悪いことしてそうだ。なんならその周りのやつらもな。」


 鱶崎さんは吐き捨てるように言う。だけど私は小さいころから私にそれなりに良くしてくれた鯨井さんを疑いたくはなかった。


「おい刃。あまり頭ごなしに疑うのは良くない。」

「じゃあレイ。いまの話を聞いてお前は誰が一番怪しいと感じた?」

「それは確かに鯨井だが…」

「そういうことだ。俺はイサナと鯨井がつながっているかもしれねえなあ。表の研究の中心と裏の町の管理者。いかにもつながっていそうだ。」


「イサナ」という人物と鯨井さんがつながっているというのはいくら何でも突飛な話ではないかと思ったが、実際、鱶崎さんが疑う気持ちもわかる。


「とりあえず、私が説明できるのはここまでです。私はさっきレイが言ってくれた通り裏にも研究所があってそこに何か手がかりがあるはずです。ですからこの水族館の研究所をみんなで探したいんです。協力してくれますか?」


 レイと真子さんは二つ返事で了承してくれた。だけど鱶崎さんは

「協力はしてやる。だが俺が協力するのはガキを出してやるためじゃねえ。あくまで俺の目的のために利用させてもらう。」


 協力はしてくれるようだが、友好的とも行かない様子だった。なんだかちょっといい人だなあとか思っていたのに。そんなことを考えているとレイがいきなり立ち上がる。


「そういえば刃。お前、何か隠しているよな。あの黒い剣士についても何か知っているようだしな。」


 鱶崎さんの表情があからさまに曇る。そういえば鱶崎さんが私たちを助けてくれた時「やっぱり出やがったな!この真っ黒野郎!」と言っていた。


 まるで黒い剣士がくるのがわかっていたような口ぶりだ。しかも前から黒い剣士のことも知っていそうな感じもするが、レイや真子さんの反応を見るに二人は黒い剣士のことを知らなかったようだ。だとする         となぜ仲間にそんな危険人物のことを伝えていなかったのだろう。


「…フカちゃん。レイちゃんの言う通りあなた前々から隠し事してるでしょ? 悪いことしようとしてるわけじゃないんでしょうけど…何か困ってるなら教えてほしいわ。」


 真子さんは心配そうに鱶崎さんに言う。


「…なんでお前らに教えねえといけねぇんだよ。」


 そういうと鱶崎さんはバーから出て行ってしまった。


「レイちゃん。フカちゃんを追ってくるね。」


 真子さんはそういうと鱶崎さんを追って出て行ってしまった。

 私とレイはバーに二人きりで取り残された。


「あの二人追わなくていいの?」


 私はそう問いかける。


「あそこは真子に任せよう。刃との付き合いが長いのは真子の方だしな。私たちはバーで待って居よう。だが安心してくれ。刃はあんな奴だがなんだかんだいって私たちのために動いてくれている。今回だって何か事情があるのだろう。」


 そういいながらバーの椅子に座る。私は鱶崎さんが何を隠しているのか見当もつかなかった。



                猜疑(さいぎ)の鱶


 とある日。レイは依頼でバーにはおらず、真子と俺だけがいた。


「レイちゃんも良く依頼が来るわねえ。やっぱり私たちが来る前からここにいたからイサナさんも頼りやすいのね。」


「ふん。まあレイは俺たちに比べてできることは多いしな。そりゃ仕事も増えるだろ。」


 レイは今頃、イサナの依頼で海異関連のトラブルの解決に行っている頃だろう。あいつは海異だけでなく町でのちょっとしたトラブルや仕事の手伝いみたいなものも依頼されるらしい。


 完全に戦闘要員の俺や、俺たちのまとめ役のような役割の真子とは違いオールラウンダーといったところだろう。


 そもそも俺と真子が来る前は一人で依頼をこなしていたのだからそりゃ俺たちよりも頼られるのは自然なことだ。俺と真子は後からこの水族館に来てイサナの依頼を受けるようになった。


 正確に言うならレイに拾われたというのが正しいだろう。俺と真子はここに来る前に二人でとある喫茶店を経営していたが、その喫茶店がとある事件によってなくなってしまったときにレイに拾われたのだ。


 そんなこともあってからレイのことは信用している。まあ俺がレイを信用しているのはそんな単純な理由だけじゃないが。


 そんなことを考えていると携帯が鳴った。携帯を見て俺はため息をつく。


「真子。依頼がきた。飯の用意は任せた。」

「うん。気を付けていってくるのよ。」


 真子に普段は俺がやっている飯の用意を任せてバーを出る。正直、俺はイサナとかいうやつを信用していない。顔も見せずに事務的に連絡をよこしてくるような奴が町の管理者を名乗っているなんて普通に考えて怪しい。


 だが町を守るためには依頼をこなさなければならないので従っている。実際、何か実害があるわけでもないのでレイも真子もイサナを疑うようなことはしていなかった。


 俺のもとに来た依頼はもちろん海異の討伐依頼。今回はカジキの海異の群れを討伐する依頼のようだ。海の方へ向かうとそこにはカジキの海異の群れが素早いスピードで泳いでいた。


「覚悟しろよ。カジキども。」


 そういうとカジキの群れに向かって腕のヒレで切りかかる。カジキ一匹一匹は弱く、少し切り裂けばすぐに倒れた。ヒレを大きく振ってまとめてカジキの群れをすべて切り裂く。


 依頼でわざわざ出向いたというのにあっけないもんだ。そんなことを考えていると携帯にイサナからの依頼完了の連絡が届いた。


「毎回毎回すぐ届くなんて。どっかで見てんのかよ。」


 そうつぶやき俺はその場から立ち去りバーがある水族館へと歩き出した。歩きながら俺はイサナについて考えていた。イサナは俺たちに依頼を出してくるが決して姿は見せない。


 そのくせ依頼が完了したらどこかで見ているかのようにすぐ依頼完了のメールを出してくる。本当に気持ちの悪い奴だ。


 そんなことを考えていると一つの可能性に気が付いた。イサナは本当にどこからか見ているのではないだろうか。むしろその可能性に今まで気が付かなかったのが不思議だ。


 戻ったらあいつらに伝えてみよう。あいつらもイサナについて疑いを持てば、三人でイサナに直談判できるかもしれない。そうなればイサナがどこにいるかを探すところから始まるだろう。そうかんがえていると、


「タイショウ…シュウセイ…ケス」


 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。その瞬間目の前に謎の黒い剣士が切りかかってきた。俺はヒレで剣士の二振りの刀を受け止める。


「なんだこいつ?! お前は何もんだ!」


 黒い剣士は答えない。代わりに刀により力を込めてきた。


「そっちがその気ならこっちも容赦しねえぞ!」


 俺は力を込めて刀をはじき返すと、ヒレを構え、全力で黒い剣士に切りかかる。あちらも刀を構えこちらに切りかかってくる。


「グアアアア!」


「うぐっ!」


 黒い剣士に一撃入れることができたが、自分も脇腹に一撃もらってしまった。黒い剣士はこちらを一瞥するとその場から姿を消した。




「おかえりフカちゃん…ってその傷どうしたの?! ひどいケガじゃない!」


 脇腹の傷を抑えながらバーへ帰ると真子が飯を用意していた。傷を負って帰ってきた俺を見るや否や手当をしようとする。


「少し海異にやられただけだ…俺のことは気にすんな。」

「でもすごいケガよ! 早くで当てしなきゃ――」

「大丈夫だって言ってんだろ!」


 真子を振り払うと奥の部屋へと歩いて行く。真子には本当のことを話さなかった。あの黒い剣士は生半可な海異とは違う。イサナを本格的に疑い始めたのを見計らったかのように出て来た。


 あの黒い剣士は確実に敵だ。


 もしこのことを真子やレイに話せばきっとあの二人も黒い剣士に狙われるだろう。この話をしていなくてもあいつが来るかもしれないが、今まで出てきてないことを考えるとあいつらの前に出てくる可能性はまだ低いだろう。


 そうなってくるとよりイサナが怪しく見えてくる。依頼でいつもあちこちを回っているレイがあいつに狙われるのはレイにとって依頼の邪魔になって面倒だろうし、真子に関してはそもそも戦うのが得意じゃない。


 もし真子が外で一人の時にあの黒い剣士に襲われたりしたらきっとその時は…。


 そう考えるととても二人に本当のことを話す気にはなれなかった。今度は守らなければ。俺と真子の居場所を。信頼できる仲間たちがいる場所を。俺はあの日を思い出しながら。そう決意した。



                  あの時


「合計で8341円ね。毎度あり。」


 会計を終わらせ店を出る。真子から頼まれた買い出しを済ませて帰路につく。


「真子のやついっつも俺をパシリやがって…」


 俺と真子は二人で喫茶店を営んでいる。商店街のはずれにありお世辞にも客足が多いとは言えないがそれなりに客は来るような小さな喫茶店だ。


 今の時間は営業が終わっていて時間に余裕があるため俺は買い出しに出ていた。本当は真子が行く予定だったが「宅配便がくるから買い出しお願いしていいかしら?」と俺に頼んできやがった。確かに手が離せない用事かもしれないがどうも釈然としない。


 だが真子が真正面からお願いしてきたので断れなかった。


「帰ったら文句言ってやる…」


 そんなことをつぶやきながら歩いていると、


「きゃあああ!」


 たくさんの人の叫び声が聞こえてくる。声は喫茶店の方から聞こえてきた。まさかうちの喫茶店から? 嫌な予感がした俺は急いで喫茶店へと向かった。


 そこで見た光景は俺を絶望させた。喫茶店は壊され、壊された喫茶店の前で真子が倒れていたのだ。


「真子!」


 俺は倒れ居ている真子に向かって叫ぶ。倒れている真子に前には真子にむけて刀を向けている奴がいる。間違いなくそいつが犯人だろう。犯人は真子にとどめを刺そうとする。


「やめろ!」


 俺はそう叫びながらヒレで犯人に切りかかる。だが犯人は俺を軽く受け止めると手にもっている刀で俺を切り付ける。


「がはあ!」

 思い切り切られてしまった俺はその場に倒れる。いやだ。こんなところで真子を…喫茶店を…大事な物を失うのは。そう思っても犯人に切られた体は思うように動かない。犯人は真子に近づいていく。


「待て…! 真子だけは…!」


 動かない体に残った力を振り絞り叫ぶ。だがその叫びは犯人にとっては雑音に過ぎなかった。真子がやられるのを黙ってみているしかない、そう思った瞬間だった。


「はあっ!」


 そう聞こえたかと思えば犯人に向かって何者かが切りかかる。見たところ女のようだ。黒髪のロングを後ろで結んでいて和服にコートを羽織っている。犯人に切りかかった刀はよく見てみると針のような形をしていた。


「町の住民に手出しはさせん!」


 そういうと女は犯人に向かってさらに切りかかる。そしてその刀は犯人の脇腹に傷をつけた。犯人はたまらずに逃げ出した。


「まて!」


 女がそう言ったのも束の間、犯人は姿を忽然と消した。


「逃がしたか…」


 女はそうつぶやいたかと思えばこちらに顔を向ける。


「お前、あいつ相手に戦っていたな。海異相手に戦ったりしていたのか?」

「…たまにでてくる化け物のことか? そいつらなら俺が退治してやってる。」


 たまに喫茶店の近くに海の生物の化け物がわいてくることがあったがそいつらは海異なんていうのか。俺が倒れたまま体を起こし答える。


「んん…」

 真子が目を覚ます。そして周りを見渡す。


「私たちの喫茶店が…! そんな…ていうかそこの人は?!」


 真子は目の前の惨状をみて絶望する。そして目の前の女に疑いの眼差しを向ける。そりゃ倒れている俺の前に武器持ってる奴がいれば犯人にも見える。


「戻ったら店が壊されてお前が倒れてた。犯人と戦ったが俺もやられちまった。そこに現れたのがこの女だ。犯人は逃げちまったけどな。」


 真子に端的に説明する。真子は理解したようだが、理解したせいでこの惨状をより現実的に受け止めてしまった。


「…わたしたち、これからどうするのよ?」


 真子が不安そうに聞いてくる。


「どうするも何も目の前で壊されちまったしなあ。」

 俺と真子の間で絶望的な空気が流れ始める。それをぶった切るように女が話始める。


「二人とも行く場所がないのか?」

「行く場所も何もさっきこわされたばっかだよ。」


 俺は質問に対して苛立ちを隠さずに答える。だが女から帰ってきた回答は予想外だった。


「なら私のもとへ来るか?」

「は?」

「え?」


 これが俺と真子がレイと出会い、レイと一緒に依頼を受けるようになるきっかけだった。


 

                猜疑の鱶2

 

「水凪 円海です」


 レイが連れて来たガキがそう名乗る。そのガキは俺が殺そうとしたガキだった。


 レイはこいつを敵ではないと判断して連れてきたらしい。確かに力のないガキのようだったがいきなり俺たちの拠点の水族館に現れたような奴を俺は信用できなかった。


 どんな危険を孕んでいるかもわからないというのに甘い奴だ。真子は真子で危機感のない様子でそのガキを触手で撫で始める。そのガキが襲ってきたらどうするつもりなんだろうか。


 まあこいつに力があるとは思えないし考えても無駄かもしれないが。


「…外に出てくる。付いてくるなよ。」


 俺は仲間たちのそう言って釘を刺すととある場所に向かうためにBARを後にした。


 俺はこれから図書館に向かおうとしていた。あの黒い剣士に襲われて以来、俺はイサナや黒い剣士、果てにはこの裏の世界について調べるために手がかりを手あたり次第探していた。


 だが黒い剣士やイサナについて知っている者はいなかったし、どの場所を探しても手がかりなりそうなものはなかった。

 

 強いて言えばあの黒い剣士に度々襲われたくらいだろうか。毎回毎回傷を負いながら退けてきたが、やはり倒すには至らなかった。


 そこで今まで手がかりを探した場所をもう一度回ってみようと考え、前に手がかりを探しに来た図書館をもう一回見てみることにした。

 

 図書館に入るとそこには見慣れた内装が広がっていた。俺が手がかりを探しに来てから何も変わっていないようだった。図書館を回ってもやはり見知った本しか並んでおらず落胆した。


「やっぱなんもねえか…」


 そうつぶやき図書館を出ようとしていたその時一つの本が目に入った。「汐光町の観光名所十選!」という本だった。めくってみるとこの町の有名な観光名所が書かれていた。黎明アクアパレスや汐光の砂浜などが載っていた。


「砂浜か…真子と出会った頃を思い出しちまうな…」

 少し感傷に浸っていると一つの観光名所「汐光神社」に目が行った。


「汐光神社? そんな神社あったか?」


 俺は手がかりを探し始めてからこの町をあちこち手あたり次第探した。だが汐光神社なんてそんな神社があった記憶がない。あれだけ探していたというのに見落としていたのか? 


 だが探したことのない場所がまだ残っているのであれば行かない手はないだろう。俺は本を本棚にしまうとすぐさま図書館を後にした。


 本によると神社は山のふもとにあるという。本に書いてあったとはいえ俺は半信半疑で山のふもとに向かうとそこには本当に神社があった。


 確かにこじんまりとしていて人目につくとは思えないような場所にあったが、だからと言って見逃すことがあるだろうか? そんなことを考えながら神社の鳥居をくぐる。すると、


「参拝客の人だあ…! 初めて見たあ…!」


 と前から弾むような声が聞こえて来た。どうやら若い女のようだ。ワンピースに身を包んでいる。ここで巫女でもやってるんだろうか。だとしたら相当暇な巫女だろう。


「俺は参拝客じゃねえ。それより何か文献とか伝承とかの類のものはねえか?」


 正直、まだ調べていない場所とはいえここは神社。なにかしら情報があるとすれば昔の文献とか伝承とかその類のものしか見つからないだろう。


「伝承ですか? そんなもの聞いたことないですけど…」


 女はよくわからないといった表情で答える。まあそうだよな。普通に考えて一神社にそんな大それた手がかりを求めることが間違っている。そう思っても心ではどこかがっかりしたような感覚があった。


「そうか…変なこと聞いて悪かったな。」

「待ってください! これをどうぞ!」


 俺が帰ろうとすると女は俺を呼び止めると俺に何かを差し出してきた。


「これは…お守りか?」

 どうやら差し出してきたのはお守りらしい。


「参拝客じゃないとしても今後も来ていただきたいので!もしご友人がいるのであれば連れてきてほしいです!」


 なるほど。要するに宣伝がしたいのか。だが確かに真子はこういう場所に連れてきてやれば喜びそうだ。


「…ありがとよ。もらっとくぜ。」

「ありがとうございます!」


 そんな話をしていると、


「ズドン!」

「きゃあああ!」


 轟音とともに叫び声が聞こえて来た。どうやら音は図書館の方から聞こえてきたようだ。イサナからの依頼が来る様子も無い。まさか黒い剣士が? 嫌な予感がした俺は急いで神社から図書館へ向かった。


 急いで向かうとそこには黒い剣士とレイが相対していた。遠目でしか見えていないが間違いなくあの黒い剣士とレイだ。しかもレイに至ってはあの円海とかいうガキを連れている。


 すると黒い剣士が急に苦しみだしたかと思えばゆっくりと二人の方へと歩き出す。あたりに人はおらず、後ろはがら空き。奇襲をかけるなら今しかない。


 俺は一瞬で黒い剣士の後ろへと忍び寄ると力を込めて腕を突き上げ奴の背中へと攻撃する。


「バリン!」


鋼鉄の装備を付けている割にはあっさりと貫くことができた。だが黒い剣士はまだぴんぴんしている様子だ。


「はん! 結構渾身の一撃を叩き込んだつもりだったんだがな、やっぱりお前はタダモンじゃねえよ!」


 俺はこいつの強さを再確認するようにそう叫んだ。隙をついて力いっぱいの攻撃を食らわせたところで倒すところまではかなわないようだ。だが違和感があった。


 後ろから手で貫いた時、その感触は明らかに生身の人間のものではなかった。まるでガラスを割ったかのような感覚だ。だが今はそんなことを考えている暇はない。


「レイ! そのガキ連れて逃げろ! どうして俺がここにいるかなんて今はどうでもいい!」

 俺は黒い剣士に切りかかる。黒い剣士はそれを軽々しく受け止める。


「だが刃! お前はどうするんだ!」

 レイは心配そうな顔でこちらを見ながら問いかける。そんな顔をするから黒い剣士の存在を隠していたってのに。


「こんなやつ適当にいなしてさっさと帰る! お前はそのガキを連れて帰ることを優先しろ!」

「…わかった。刃。死ぬなよ。」

 レイは俺にそんなことを言う。誰に向かって「死ぬなよ」なんて言ってんだか。


「こんなとこじゃ死にたくても死ねねえよ!」


 俺がそう叫ぶとレイはガキを連れて水族館の方へと向かった。レイとガキが居なくなり黒い剣士と二人きりなる。しかしこいつがレイたちを襲ったとなるとレイたちもこの町に疑いを持ち始めたということだろう。もう隠しきれないかもしれない。ならここでこいつを倒せばいいだけのことだ。


「ふん! とうとうあいつらを襲い始めたかこの野郎! 今日こそお前をぶちのめしてやる!」


 そういいながら腕により力を込めて黒い剣士を押し切る。後ろに飛ばされた黒い剣士は体制を整えたかと思えば、


「オマエモ…アイツラモ…ゼッタイ…ケス…」


 そういうと一瞬にしてどこかに姿を消してしまった。




                   本心


 俺は商店街のはずれにある空き地に来ていた。ここは俺と真子が経営していた喫茶店があった場所だ。


 あの事件があってからこの場所はきれいに整備され今では空き地となっていて喫茶店の影もなくなっていた。俺と真子の居場所だったこの場所はもう何でもないただの空間になってしまった。


 俺はレイに黒い剣士のことを聞かれてとっさに逃げてここにきてしまった。いまさら言い逃れをしようたって意味がないことくらいは分かっていた。


 それでもあいつらを、仲間たちをこれ以上の危険に巻き込みたくないと思うと何も話そうとは思えなかった。


 少なくとも、俺が何も話さなければあいつらに危害が及ぶことはないだろうし、何よりもう失うこともない。


 真子が壊れた店の前で倒れていたのを見た時、俺は味わったことのない感覚に襲われていた。


 全身から血の気が引く。

 その場に立っている自覚がなくなる。

 目の前の光景を頭が拒む。


 目の前で一番大切なものを失うかもしれないと頭が感じた瞬間、得体のしれない何かが体中を駆け巡ったのだ。


 俺はその感覚から逃げたいがために隠していた。それだけだった。


「いたいた! やっぱりここにいたわね!」


 声が聞こえて来たかと思えばそこには真子がいた。見たところ息を切らしている。わざわざ走って来たのか。


 自分が原因で真子を走らせたことに罪悪感を抱く。

 自分がバカなことをやっていることくらい自覚はある。それでも譲れないものを譲らないためにわざわざ逃げてきた。だが、真子はそんなろくでもない俺を逃がしてはくれないようだ。


「…何しに来たんだよ。レイにでも言われてきたか?」


 そんな真子を突き放すように俺はぶっきらぼうに答える。


 危険にさらさないためになんて大層なことを言っているが、今の俺は結局、本心も吐露できずにくすぶっている自分のみじめな姿を一番大切な人に見られたくないだけなのだろう。


 そんな俺に対して真子はいつもよりも声色を優しくして話しかける。


「ちがうわよ。あなたが心配だったの。急にどっか行っちゃって。」

「どうしてここがわかった?」

「なんとなくよ。あなたが行きそうなところなんてここくらいしかないでしょ?今回なんて特に。何か抱えてるって顔してたんだからね?あなた。」


そんなことまでお見通しか。


「だから何だ? 洗いざらい話せってか。」


 少なくとも俺にはそういっているようにしか聞こえない。今更話したところで何もできない。俺は真子とレイに黒い剣士のことやイサナに対する疑念を隠してから後戻りはできなくなったしする気もなかった。


「そういうわけじゃないわよ。話したくなかったら話さなくてもいいわよ。」

「じゃあなんで追って来たんだよ!」


俺は声を荒げてしまう。話を聞くつもりがないならなぜ追ってきたのか。それがわからないせいで自分でも声を抑えられなかった。


惨めな俺をあざ笑いに来たのか。真子がそんな人間ではないのはわかっている。だが、どうしても悪い方向に考えてしまう。


「…悲しかったのよ。あなたが一人になろうとするのが。」

「悲しい?」

「そうよ。あなたは私たちよりずっと前から戦い続けて来た。実際に見てきたわけじゃないけどあなたのことだからそうなんでしょうね。」


 真子は俺の目を真剣な眼差しで見つめながらそう言う。


 その眼差しは俺に対する怒りと悲しみ、その両方の感情を孕ませて俺を突き刺してきた。


「私はあなたの仲間なのにその仲間に頼ってくれなかったら悲しいじゃない。レイだってそうよ。あなたに黒い剣士のことを聞いた時、確かに厳しい口調だったかもしれないけど悲しそうな顔をしていたのよ。」


 俺はあの時のレイの顔を見ていない。だが真子がここまで真剣な顔と声色で言うのだから誰から見てもわかるくらい悲しそうな顔をしていたのだろう。


 だが、そんなことを気にしていられる様な相手ではないのだ。


「全部話してとは言わないわ。でも私たちはあなたの仲間。何かあった時くらい頼ってくれてもいいじゃない。」


「それでお前たちが危険な目にあったら意味が無えんだよ! 喫茶店が襲われたときみたいにお前がやられたり、レイが外で依頼を頑張ってるときに襲われたり! そういうことがあってからじゃダメなんだよ! 俺はもう…あんな思いしたくない…」


 そうだ。俺はもうごめんだ。いきなり大切なものを失うのは。あの時は店だけだったが今度は真子も失うかもしれない。そう思うと俺は本心を抑えられなかった。俺はその場に崩れ落ちた。


「ごめんなさいフカちゃん…!」



真子はそういうと俺を両手で抱きしめた。

「あなたがずっと抱えて来たものに私は何も気づけなかった!ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…」

真子は涙ながらにそう言う。


「早く気づいて私たちから手を差し伸べてあげるべきだった…」


そこで俺はようやく気が付いた。レイがあの時厳しい口調で俺に聞いてきたこと、真子が俺を追ってきたことの意味を。


「俺こそすまなかった…」


 俺はそういいながら真子を抱き返すことしかできなかった。


               崩壊


「二人とも大丈夫かな…?」


「大丈夫だ。あの二人はお互いをわかってるからなんだかんだ収まる。」

「まあ確かにレイが行ってもどうにもできなそうだしね…」

「は?」


 私とレイはそんなことを言い合いながら真子さんと鱶崎さんの帰りを待っていた。するとバー入り口のドアが開いたかと思えば真子さんと鱶崎さんが戻ってきた。


「二人とも大丈夫そうか?」

 レイは二人に尋ねる。めちゃくちゃいい表情だ。


「もう大丈夫よ。フカちゃんも大丈夫よね?」

「俺はもう大丈夫だ。心配かけて悪かった。」


 鱶崎さんはレイに向かって真摯に謝罪をする。


「まったくだ、心配かけて。…まあ大丈夫そうならよかった。」


 どうやら三人は仲直りをしたようだ。しかしこの空気じゃ話を切り出しづらいなあ。そう考えていると鱶崎さんが口を開いた。


「これから研究所に行くんだろ。だったら心当たりがある。」


 なんと私が切り出そうとしていた話とその答えまで出してきた。


「研究所があるとしたらあるのはあのでかい水槽のあたりだろう。確証はないがあの辺りからは異様な気配がする。」


 でかい水槽というのは私がこの水族館に迷い込んだ時にいたあの水槽のことだろう。あの辺りに扉などの入り口は無かったはずだが確かにあの辺りの雰囲気は異様だった。そう考えると本当にあるかもしれない。


「なら早速行ってみましょう!」

 私の声にみんながうなずく。やっとみんなが団結した。そう思った矢先だった。


「ズガン!」


 外から大きい音が聞こえ、地面が揺れる。かと思えば外から人々の阿鼻叫喚の声が聞こえた。


「なんだ?外で何が起こってる?」

「ただ事じゃねえな。」

「みんなでいったん確認しに行きましょ。」

「わかりました。」


 意見が一致し急いで外に行く。そこには想像を絶するような光景が広がっていた。

 町や建物は燃え盛り、無数の黒い剣士が町や人々を襲っていた。


「あんな強い奴がこんなに…?」

「いや、気配的に分身だろう。だが本体ほどじゃないだろうがが強いだろう。」

 レイが驚きながらも冷静に分析する。だが真子さんの一言で私たちはさらに戦慄することとなる。


「…ねえ、あれ見て頂戴…」


 真子さんは指を震わせながら空へと指さす。


「空が…」


 私は空を見て絶句する。空は侵食されたかのように赤黒い何かが広がっていっていた。いつものような夜の空はそこには無く、まるで画面がウイルスに侵食されていくように赤黒く染まっていく。


 町は燃え、黒い剣士に襲撃され、空は赤黒くなっていく。その光景はこの不思議な町に来てから不思議なことが起こっても驚かなくなっていた私を驚かせるのに十分だった。私が唖然としている。


「何ぐずぐずしてんだ! レイ、それにガキ! さっさと研究所に行け! 町は俺が何とかする!」

「なら私も一緒に行くわ。フカちゃん。」

 二人は自信満々にいう。


「本気で言ってるのか! お前たち二人でどうにかなるか!」

「レイの言う通りですよ! 二人とも…危険すぎます!」

 実際二人で何とかなるレベルを超えている。あまりにも危険だ。


「どのみちこの状況を何とかできるものがあるとすれば研究所しか無え! 俺はこの町をくまなく探しても手がかりなんてもんは無かった! あるとすればもう研究所だけだ!」

「お前は大丈夫かもしれないが真子は…」

「あら? 確かに戦うのは苦手だけれど人助けならできるわよ? それに苦手なだけで戦えるわ。そうよね? フカちゃん?」

「正直気は進まねえがそういうことだ。ここは俺と真子に任せて行け!」


 二人はそういうが私は心配だった。一方のレイは何か決心したかのような顔をする


「…行くぞ。円海。」 

 といい私の手を引く。

「はあ? 危険な状態で二人を置いてくの?!」

「今は二人を信じるしかない!」


 私とレイは急いで研究所があるかもしれない大きい水槽へ向かった。これが私とレイが真子さんと鱶崎さんと交わす最後の会話だった。


三話目「フカは疑う」


もう3回目ですね。こんにちは。深水 優です。


誰が主役で何を思うのか。

分かりやすく書いたつもりですが、なんだかカッコつけたタイトルですね。

 私のお気に入りのキャラ「鱶崎 刃」が主役の今回。前回までとは違った色を感じることが出来るように書いてみました。かわいいキャラですよね。本当に。


 このキャラはギャップと内心の感情に工夫や力を入れました。三話目を読んでいただけたらきっとこのキャラが少しだけ好きになっているはずです。

今回も呼んでいただきありがとうございました。


「刃好きや…」「続きどうなっちゃうの?!」と少しでも感じたらブックマーク登録や、評価のボタンを押していただけるととっても嬉しいです!


四話目は8月5日(水)19:30 に投稿予定です。ぜひ楽しみに待っていてください!


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