第3話 繋がりの音
三人の音が風に溶けていく。
その時だった。
丘の下から、ぽつり、ぽつりと音が聞こえた。
雨粒のような音。
けれど空は晴れている。
オカリナ吹きが耳を澄ます。
「なんやろ。」
バイオリン弾きが立ち上がる。
「ピアノだ。」
丘の下には古い駅舎があった。
今は誰も使わない建物。
その待合室の奥に、一台のアップライトピアノが置かれていた。
そこに一人の旅人が座っていた。
夕日の光の中で、静かに鍵盤を弾いている。
曲が終わる。
四人の目が合った。
「いい音だな。」
バイオリン弾きが言う。
ピアノ弾きは少し笑った。
「ありがとう。」
オカリナ吹きが聞く。
「君には世界ってどう見える?」
ピアノ弾きは少し首を傾げた。
「みんな、その話をしてたのか。」
そして鍵盤の上に手を置く。
「俺にはね。」
一音鳴らす。
低いド。
次に高いミ。
そしてソ。
三つの音が重なる。
「世界が関係に見える。」
三人は首を傾げた。
「関係?」
ピアノ弾きは頷く。
「木は木だけじゃない。」
「空があるから木に見える。」
「風が吹くから揺れる。」
「鳥が止まるから枝になる。」
「全部繋がってる。」
オカリナ吹きは黙って聞いている。
ピアノ弾きは続けた。
「一つの音だけじゃ曲にならない。」
「二つの音が出会う。」
「三つの音が支え合う。」
「そうすると景色が生まれる。」
彼は静かに笑った。
「だから俺は、人を見るのが好きなんだ。」
バイオリン弾きが聞く。
「表現するためか?」
「違う。」
フルート吹きが聞く。
「流れを見るため?」
「それとも少し違う。」
オカリナ吹きが聞く。
「味わうため?」
ピアノ弾きは首を振った。
「俺はね。」
窓の外を見る。
夕日。
草原。
風。
旅人たち。
「全部を一緒に見たいんだ。」
静寂が落ちる。
そして四人は気づく。
オカリナ吹きは世界そのものを見ていた。
バイオリン弾きは世界を作品へ変えていた。
フルート吹きは世界の流れに身を任せていた。
ピアノ弾きは、その全部がどう繋がっているかを見ていた。
やがてオカリナ吹きが笑う。
「なんか一番欲張りやな。」
ピアノ弾きも笑った。
「かもしれない。」
「風も欲しい。」
「人も欲しい。」
「景色も欲しい。」
「喜びも悲しみも欲しい。」
「全部並べて見てみたい。」
そう言って鍵盤を鳴らした。
するとバイオリンが入る。
フルートが重なる。
最後にオカリナが歌う。
四人の音は違う。
見ている世界も違う。
けれどその瞬間だけは、
誰かが景色を見て、
誰かが景色を描き、
誰かが景色と流れ、
誰かが景色を結び付けていた。
そしてその四人の中で、
一番最後まで音を鳴らしていたのはピアノだった。
まるで、
みんなの旅路を包む大地のように。




