第2話 流れゆく世界
その時、丘の向こうからもう一つ音が聞こえた。
細く。
透明で。
風そのものが歌っているような音だった。
オカリナ吹きとバイオリン弾きが振り返る。
草原の向こうから、一人の旅人が歩いてくる。
銀色の横笛を持っていた。
「楽しそうな話をしてるね。」
フルート吹きだった。
バイオリン弾きが笑う。
「ちょうど世界の見え方の話をしてたんだ。」
「へえ。」
フルート吹きは腰を下ろした。
「君はどう見えるんだ?」
オカリナ吹きが尋ねる。
フルート吹きは少し考えた。
そして夕暮れの空を見上げる。
「私にはね。」
「世界が流れに見える。」
「流れ?」
「うん。」
彼女は風に揺れる草を指差した。
「風も。」
「雲も。」
「季節も。」
「人の心も。」
「全部流れていく。」
静かに続ける。
「だから私は、それを追いかける。」
オカリナ吹きは首をかしげた。
「味わうんじゃなく?」
「うん。」
「表現するんでもなく?」
バイオリン弾きが聞く。
「そう。」
フルート吹きは微笑んだ。
「今この瞬間しか吹けない音がある。」
「風が変われば音も変わる。」
「私が変われば音も変わる。」
「だから私は、その流れに乗る。」
しばらく沈黙が流れる。
オカリナ吹きが言う。
「俺は景色を見てる。」
バイオリン弾きが言う。
「俺は景色を作品に変える。」
フルート吹きは頷く。
「私は景色と一緒に流れる。」
三人は黙った。
目の前の夕日を見つめる。
同じ景色なのに。
見ているものは少しずつ違う。
オカリナ吹きは思う。
綺麗だな。
バイオリン弾きは思う。
どう弾けばこの色を表現できるだろう。
フルート吹きは思う。
もうすぐこの色は消える。
やがて日が沈む。
最後の光が消える瞬間。
フルート吹きがぽつりと言った。
「面白いね。」
「何が?」
オカリナ吹きが聞く。
「同じ音楽をやっているのに。」
「君は世界を集めてる。」
彼女はオカリナ吹きを見た。
「君は世界を形にしてる。」
今度はバイオリン弾きを見る。
「私は世界に運ばれてる。」
風が吹いた。
その風に乗って、フルートの音が流れる。
バイオリンが寄り添う。
そして最後にオカリナが鳴る。
三つの音は全然違う。
けれど不思議と喧嘩しない。
まるで、
「見る人」
「創る人」
「流れる人」
が同じ旅路の途中で、たまたま出会ったようだった。




