㉚ 車窓から見学
「トラブル防止のために、車窓からの見学でよろしいですか、王様?小洒落たツナギを着た二足歩行の、日本語を流暢に話すイヌが現れると、ニンゲン界は大騒ぎになるので……。」
「うむ、よきに計らえ。由理子、もっとフランクな言葉遣いで良いぞ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて…行くわよ、アヌビス君!」
由理子はそう言うと、地下から出した赤いビートルに光学迷彩をかけて、直ちに垂直上昇させた。
まずは、目立つ建築物からご案内だ。
「今出て来た、地下駐車場の上に建って居るのが、名護屋のテレビ塔でございます。」
由理子は、ハトバスのガイドよろしく、紹介を始めた。
「確か、パリのエッフェル塔をモデルに、独自設計された、日本で初めての電波塔よね?」
彼女はそう言いながら、チラリと後部座席の鷹志を見る。彼はうん、うん、と首を縦に振る。
ビートルを少し北上させると、城が見えて来た。
「あちらに見えるのが、名護屋城でございます。初代城主は徳川家康の九男、義直です。石垣は、あの有名な、加藤清正の手によるモノです……よね?」
また、チラリと鷹志を見る由理子。
再び、うん、うん、の鷹志。
どうやら、歴史の勉強の成果を見せられたようだ。
由理子は、少し楽しくなって来た。
更にビートルを東に飛ばすと、小高い丘の上に、鉛筆のような形の、ガラス張りの塔が見えて来た。
「ご覧下さい。あちらに見えて来たのが、名護屋市制100年を記念して建築された、東山スカイタワーでございます。展望ロビーには、"恋の羅針盤"がございます。」
今度はクルマを南に向ける。
「さて、あちらの埠頭に係留されていますのが、"南極観測船ふじ"でございます。コチラは、海上自衛隊所属で、全長100m。本格的な砕氷船としては、日本初のモノです。」
「おお、南極と言えば……。」アヌビスが話しだす。
「何ですか?」興味を持った鷹志。
「先日、我が世界線の南極に、時空の綻び……つまりポータルが開いてしまって、そこからナチス何某とかいう、とても好戦的なハダカ猿族がやって来たぞ。」
「……で、どうされたんですか?」
「突然破壊行為を始めたので、当然我々ば彼等に対抗し、総攻撃……いや、丁重にお帰り頂いた。もちろんその後、ポータル周辺は、念入りに爆破しておいたぞ。」
「……とても的確な対応ですね。流石です。」
鷹志は犬王を見直し、本気で褒め称えた。
なんだ、ちゃんとしてるじゃん。
てっきり、ただの、ふざけたイヌかと思ってた。
そんな風に思った事が、まさかテレパシーで犬王に筒抜けとは、知る由もない鷹志だった。




