㉛ アレは何かな
「ところで由理子殿。」
「何かしら?アヌビス君。」
「道すがら、気になるものを見かけたのだが、質問してもよろしいかな?」
「どうぞ、どうぞ、何なりと。」
「イヌたちが首輪を付けられて、リードでニンゲンに引っ張られている。それは仕方が無い事だ。しかし……。」
「……しかし?」
「大切な尻尾が無い者が居るのは、如何な事かな?」
「ああ、コーギーや、ドーベルマンの事ね?」
「うむ。」
「彼等は、牧羊犬や猟犬として働くために、生後間もなく、尾を切られるの。でも、愛玩犬としてはその必要性は無いから……結局は、ニンゲンの都合よね?」
「実に非人道的……いや、非犬道的な行ないだ。」
「私も同感よ。」
「それに、アッチのネコたちは、どうしたのだ?皆、耳に切れ込みが入っている……。」
「ああ、アレもニンゲンによるモノよ。地域猫と言って、近所のヒトたちでエサを与えて、お世話をしています、っていう印なの。野良猫は保健所に連れて行かれて処理されたりするから……。」言いながら、由理子は気分が悪くなって来た。
(ああ、そうよ。アレもコレもニンゲンの都合だわ。ホントにイヤな気分ね。)
「何だか、ゴメンなさい。気分を害したのでは?」
「よい、よい。別の世界には、それ相応のルールが有るというものだからな。吾輩の世界とは違う。」
「アヌビス君が、物分かりの良いイヌで良かった。」
「由理子は、別格だからな。ちゃんと、ああいったモノゴトに対して、心を痛めてくれている……。」
「……えっと、ボクは?」
「キミは由理子が選んだオトコなのだろう?ならヒトとして、間違いあるまい。」
「それは……ありがとうございます。」
「ま、我が世界のハダカ猿族は、遥か昔に滅びてしまって、報復のしようも無いがな。」
犬王はそう言って笑った。
「言い伝えによると、ヤツらもかなり残忍かつ好戦的で、支配欲や征服欲が強かったらしいぞ。」
「はあ……そうなんですね?」
(だから滅亡しちゃたんだな。ボクらも気をつけなくっちゃ。)そう鷹志は思ったのだった。
「じゃあ、そろそろ戻りましょうか?」
由理子の一声で、ツアーはお開きとなった。
赤いビートルは、一路、テレビ塔下の駐車場へと戻って行った。
亜空間レストランに戻って来た二人と一匹は、改めてテーブルで向かい合った。
「由理子、突然だったのに、イロイロ案内ありがとう。大変興味深い体験だったぞ。」
「どういたしまして。でも、次はアポ取って来てね?出来るんでしょ?」
「う〜ん、まあ、一応な。」
「今度は、ボクも犬の国に行きたいな。」
「おお、良いとも。是非来なさい。待っておるぞ。」
「まあ、それまで人類が滅亡しないように、せいぜい気を配りますよ。」
鷹志は自嘲気味にそう言って笑った。
「じゃあ、吾輩はそろそろ帰るとするか……。」
「駐車場まで見送るわよ?」
「いや、ここで結構。」
そう言うと犬王アヌビスは、手を振りながら、その場で姿が段々薄くなり、やがて消えてしまった。
多分、自分を宇宙船内に転送したのだろう。
「まったく、大した技術力ですねえ。」
カウンターに居たサン・ジェルマンが呟いた。
「すぐ軍事転用されちゃうから、ニンゲンには教えないそうですよ。」と由理子が伝ええる。
「そりゃあ、間違い無い。良い判断ですな。」
サン・ジェルマンは、そう言って笑ったのだった。
以上で第19巻は完結です。
次回、記念すべき第20巻にご期待下さい(>ω<)




