㉗ テレビ塔への来訪
そんな訳で犬王は、無事に名護屋のテレビ塔下の地下駐車場に、彼のUFOを停泊させる事に成功したのだった。
そして彼は、勝手知ったる顔でエレベーターに乗ると、そこに紛れ込ませてあった、亜空間レストランの場所を即座に特定し、エレベーターの出口を、そこに出られるように調整した。
ここまで、かなり厄介な手順を踏んで来たにも関わらず、アヌビスは、さも何でも無かったかのように、涼しい顔をして、サン・ジェルマンの亜空間レストランに、現れたのだった。
それは、現地の昭和の延長上の時間軸で、西暦1991年5月5日、日曜日、午前8時をまわった頃の出来事だった。
「やあ、どうもはじめまして。吾輩は犬王のアヌビスと申します。コチラに真田由理子殿はおいでかな?」
開口一番、彼はとても礼儀正しく挨拶をした。
彼は当然、現場の空気はウェルカムなモノだと期待していたのだが……。
「ねえ、ちょっと、伯爵、また変なのが来ちゃったわよ?今度は宇宙服みたいなツナギを着た、二足歩行の犬。自分の事をアヌビスとか言ってるわよ?」
そう言ったのは、真田由理子の姉、香子だった。
サン・ジェルマンは、丁度バーカウンターで、由理子の赤いウィッグに付いていたという、謎の発信機を調べている所だった。
「……ああ、どうやら、その方が、コレの受信機を持ってらっしゃるようですな。」彼は何でも無い事のように、そう言って笑った。
「もう、ここのセキュリティは、一体どうなっているのよ?ガバガバじゃない。次から次に、異世界からイレギュラーなお客が来過ぎでしょ?」
「まあ、元々不安定な亜空間を、私が無理やり固定して使っているので…その分、不具合が多々あるのは、否めませんなあ。」ノンビリした口調で伯爵が返す。
と、そこまで言って、我に帰った香子は、慌てて犬王に挨拶をした。
「あら、放置してごめんなさい。私は真田由理子の姉の香子と申します。そしてアチラで、アナタが妹に付けた発信機を分析しているのが、ここの所長……城主かしら?のサン・ジェルマン伯爵ですよ。」
「はじめまして。私がサン・ジェルマンです。……ところで、日本語が御上手ですな?」
「実は、今までにも個人的な興味で、ハダカ猿族……つまりニンゲンの世界線の、ジパングには、何度か訪れた経験があるので……一番最初の友人の名は、確かモモタロウとか言ったかな?」
「……ひょっとして、仲間に鳥族と猿族も居たりして。それで、みんな揃って鬼ヶ島へ……?」
香子が呟いた。
「おお、確かに、居た居た。良くご存じですな?」
「だって、それは日本では有名な昔話……で言うか、史実だったのね?あれっ、ちょっと待って。確かモモタロウって、あのカグヤ・イシュタルが……。」
「香子さん、そこまでにしておきましょう。」
サン・ジェルマンが、彼女の話にストップをかけた。それ以上喋ると、後々ややこしい事になりそうだったからだ。




