㉕ 決着はお預け
「先程も言ったように……。」
サン・ジェルマンが雪子に語りかける。
「…不老不死と言えども、不死身では無いということです。」
「頭を切り離して、然るべき処理をされれば、目出度くあの世行きって訳ね?……あの世が有れば、だけど。」
「……ですから、お互い、無茶をしないように、自重しましょうって事です。」
「分かった。肝に銘じておくわ。」
「今回の顛末から察するに……ニンゲン奴隷を欲しがったゲートルが、ヒムラーをそそのかし、ヒムラーがヒトラーに進言して、あの収容所が造られたって事でしょうね。そもそもヒトラーには、そこまでヤル気は無かった。」
「でも、何故ユダヤ人だったんだろう?」
「やはり、イエス・キリストの一件が、モデルケースにされたんじゃないですかね。まあ、ユダヤ人の多くは頭脳明晰で、アラハバキにとっても、上質な労働力になるでしょう。それにもし、捕まらなければ、ヒトラー程度の人物ならば、いつでも凌駕出来る賢さだから……ナチスにとっては、実際に脅威でしょうしね?でも彼等はきっと、そんなつまらない事には、興味を持たないでしょうけど……。」
サンジェルマンは、そう言って薄く笑った。今回の事で、彼自身のトラウマも、多少なりとも解消されたのだろう。
「……それにしても、アラハバキの一派は、何かと暗躍してるわねえ。」
「つい先日も、由理子さんたちが、縄文時代で遭遇したらしいですよ。私が昔、パリで出くわしたのも、恐らく彼等でしょうね。」
「まあ、いつの日にか、キッチリと決着をつけてやらなきゃね?」
「それじゃあ、帰りますか。」
「……ねえ、せっかく二人切りなんだから、少し寄り道して行かない?」
「そんなファム・ファタールみたいな顔で誘っても、ムダですよ?もう私も、あの頃のようには、純真では無いので……。」
「なんだあ、残念!」
そして二人は無事に帰路についた。
帰りのクルマはサン・ジェルマンが操縦した。
助手席で、雪子がしみじみと語る。
「今回の件では、イロイロと疲れたわ。いくら回復の早い不老不死でも、消耗すれば疲れるし、怪我をすれば、痛いのよね?」
「そういう事です……そして、不死身ではありませんからね。」
「……私、またしばらく、旅に出るわ。」
「うん、それもイイでしょう。」
「探さないでね……ああ、でもホントに緊急時には駆けつけるから、その時はまた、コレで呼んでね?」
彼女はそう言って、左腕のリング型デバイスを指差した。
「分かりました。必ずそうしますよ。」
「約束よ。サン・ジェルマン。アナタも無理をして、私より早く死んだりしないでね?」
「まあ、それは、多分……。」
「なによ、その返事は!」
彼女がそう言うと、二人して笑い合ったのだった。




