㉓ 黒幕の正体
「もう直ぐ例の施設の建設が、始まります。」
そう言っているのはヒムラーだった。それはまるで上官に話すような口調だった。しかし隣の男は、そこそこ歴史に詳しい雪子にとっても、知らない顔だった。
「ヨーロッパの中心部とも言えるこの土地に、ポータルが見つかったのは、我々アラハバキにとっても好都合だったよ。」
そう言う男の顔は、薄い唇に切れ長な眼。鼻は高く肌の色は白い…まるでアジア人と白人のハイブリッドのような……というよりむしろ、何だか造り物のようだった。
「ポータルを囲うように、収容所を建設します。後は集めたニンゲンを、どうぞお好きなように……ただし、報酬の方はくれぐれもお忘れ無きよう。」
「おお、分かっておるぞ。金塊なら、幾らでもくれてやるわ。それに、キサマらにとっては、オーバーテクノロジーの技術も、少々なら伝授してやろう。」
「有難きお言葉。総統に成り代わって、私ヒムラーが、感謝の意を表します。」
「なあに、お互いギブ・アンド・テイクで、ウイン・ウインではないか。」
それはまるで、テレビ時代劇で良く見かける、悪代官とワルイ呉服問屋の会話のようだった。
その男は、ふと、何かに気づいたような素振りを見せて、ヒムラーに言った。
「ワタシはこの後、少々ヤボ用が有る故、キサマは先に帰って良いぞ。」
「はっ。しかし、このような田舎で……よろしいのですか?」
「良い、良い。気にするな。早く帰るが良いぞ。」
「はっ。では失礼いたします。」
ヒムラーは、黒いステーションワゴンの後部座席に乗り込むと、そのまま帰って行った。
「そこにコソコソ隠れていないで、出て来なさい。ワタシに用事が有るのだろう?」
雪子とサン・ジェルマンの事は、先刻ご承知という訳だった、
二人は仕方無く、その男の目の前に姿を現した。
「はじめまして、閣下。私はサン・ジェルマン伯爵。こちらは連れの、真田雪子嬢です。」
取り敢えず、慇懃無礼に挨拶する伯爵。
「わが名は、アラハバキ民族のゲートルである。」
「……私の記憶が正しければ、その民族は、過去に日本にも来ていた、爬虫類族の一派ですね?」
「ほう、良く知っておるな。まあ、あの時は、散々な目に遭ったがな。」
「ここで集めたニンゲンたちを、今後どんどんポータルから、アナタがたの世界に、労働力として送り込むつもりなのですね?」
「うむ。そうだが、コレはあくまでも、現地の者との取り引きに基づくモノだ。何かモンダイでも?」
「モンダイ有り有りよ!」
そこで初めて雪子が口を挟んだ。
「連れ去られる当人たちの、気持ちや都合は、一切無視って訳なのね?」
「……商品の気持ちなど、いちいち考える者がおるのかね?」
「もう、いい。良く分かったわ。ねえ、サン・ジェルマン。こいつ、ムカつくわ。ヤッちゃってもいいかしら?」
「……どうぞ、ご自由に。コヤツが今一人居なくなったところで、第二、第三のアラハバキの者がやって来て、計画は続行されますがね。」
「ありがとう。コレで遠慮無く殺れるわ。」
「そこのハダカ猿族の小娘は、さっきからナニをほざいておるのやら……一体、このワタシをどうすると?」




