Episode 4
どうして、こんなにも彼が気になるのか⋯
理由はわからないまま、これが恋なんだと自覚した。
まだ自分を普通だと思っていた頃なら、話し掛けに行けたのかもしれない。
でも、今は話し掛けに行く勇気が持てない。
普通じゃない自分が、普通の彼に話し掛けていいのかわからない。
彼を目で追っては、視線を逸らす。
そんな事を繰り返していた。
「東雲さん、休憩入っていいわよ」
「あっ⋯はい⋯!」
ロビーに出て、コーヒーを買う。
隅の席に腰を落ち着け、思わずため息が漏れた。
彼の事を知りたいのに、名前すら聞けない自分がもどかしい。
ため息と共にコーヒーを飲み込む。
「気分転換に、本でも借りて帰ろうかな⋯」
深呼吸をし、カウンターへと戻る。
「あの⋯今日、本を借りて帰りたいんですが⋯」
「今日は人も少ないし、早めに終わって大丈夫よ」
「ありがとうございます」
名札を外し、小説の棚を眺める。
「⋯今日は、どれにしようかな⋯」
普段はあまり読まない恋愛小説を手に取ってみる。
「⋯やっぱり違うかも⋯」
軽くページをめくり、そっと棚へ戻した。
結局、いつものようにミステリー小説へと手を伸ばす。
「あっ⋯すみません⋯」
「っ⋯!いえ、こちらこそ⋯」
指先が当たり、慌てて手を引っ込める。
顔を見なくても、声だけでわかってしまった。
まだ数回しか話した事のない、いつも遠くから見つめている彼だと⋯
そっと目を合わせる。
「っ⋯どうぞ⋯」
「いえ、僕は一度読んでいるので⋯」
「あっ⋯私も読んでいるので⋯」
お互いに顔を見合わせ、どちらからともなく笑い出す。
「これ、面白いですよね⋯」
「はい⋯展開を知ってても、読みたくなりますよね⋯」
「司書さんは、よくミステリー小説読まれるんですか?」
「あっ⋯はい⋯!」
「もし良かったら、オススメとか教えて貰えますか?」
「⋯この小説がお好きなら⋯」
少し離れたところにある小説を差し出す。
「この方の小説はオススメです⋯」
「読んだことなかったです⋯ありがとうございます」
「っ⋯いえ⋯!」
「⋯これは読んだことあります?」
「えっ⋯?⋯ない、です⋯」
「じゃあ、良かったら読んでみてください⋯僕のオススメです」
差し出された小説を受け取る。
「っ⋯ありがとう、ございます⋯」
「是非、感想聞かせてください⋯僕も、感想言えるように⋯借りて帰ろうかな」
「っ⋯でしたら、あちらで貸し出しカードを⋯」
カウンターへ案内し、貸し出しカードを作成する。
「佐藤、慧さん⋯」
立ち去った後ろ姿を見つめ、思わず名前を呟く。
さっきまでの何気ない会話を思い出し、笑みと共に借りた小説を抱き締めた。




