Episode 12
「お疲れ様でした⋯!」
先輩に声を掛け、急いでロビーへ向かう。
隅の席に座って本を読む彼を見付け、一瞬足が止まった。
「⋯お疲れ様、美夜ちゃん」
「っ⋯慧さんも、お仕事お疲れ様です⋯」
駅までの道を並んで歩く。
「⋯すみません⋯お仕事終わりに、わざわざ迎えに来てもらって⋯」
「気にしないで⋯僕が会いたかっただけだから」
自然と繋がれた手がくすぐったい。
初めて慧さんの家で映画を見た日、私たちは両想いだと知った。
お互いに好きだと伝えたわけじゃないけれど⋯
どちらからともなく重ねた唇を思い出す。
「っ⋯」
「美夜ちゃん?どうしたの?」
「えっ⋯?」
「顔、真っ赤だけど⋯熱でもある?」
覗き込むように見つめられ、強い渇きを感じる。
「っ⋯何でもないです⋯!」
慌てて視線を逸らし、自らの衝動から目を背けた。
慧さんと一緒に過ごす時間は、とても楽しくて穏やかで⋯
幸せを感じる一方で、渇きのような衝動は強くなっている。
⋯わかっている。
私は、慧さんの血を欲しているのだと⋯
自分が吸血鬼だと、慧さんに打ち明けたい。
だけど⋯
受け止めてもらえなかったらと思うと、言葉が出て来ない。
「⋯今日は、美夜ちゃんの家まで送るよ」
「っ⋯でも、慧さんも疲れて⋯」
「僕は大丈夫⋯美夜ちゃんの方が心配だよ⋯」
どこまでも優しい慧さんに、涙が溢れそうになる。
「ありがとう⋯」
こんなにも穏やかで幸せな日々を、失いたくない。
心の底から、そう願った。




