Episode 9
あれから、休日に二人で映画を観に行く事も増えた。
一緒に居る時間が増える度、幸せな気持ちに混じって不安も大きくなっていく。
「⋯お母さん、相談があるんだけど⋯」
「どうしたの?」
「⋯実は、私⋯好きな人が居るの⋯」
「どんな人?」
「優しくて⋯趣味も合うから、一緒に居て楽しい⋯」
「素敵な人ね」
「うん⋯でも⋯」
「⋯?何かあるの?」
「⋯私⋯普通じゃないから⋯」
「っ⋯それは⋯」
私の言葉に、お母さんが俯く。
やがて、何かを決心したように顔を上げた。
「⋯今まで黙ってたけど⋯私たち、吸血鬼なの⋯」
「えっ⋯?⋯吸血鬼⋯?⋯お母さん、何言って⋯」
「⋯信じられないかもしれないけど⋯」
「そんなの、信じられるわけないよ⋯だって⋯吸血鬼って、人の生き血を啜るんでしょ?」
「それは昔の話よ⋯今は、人間と同じように生活出来るわ⋯」
「⋯だったら⋯吸血鬼じゃないんじゃ⋯」
「⋯そうね⋯だから、あなたを人間として育てた⋯でも⋯」
「吸血鬼⋯」
お母さんの言葉を遮るように、ポツリと呟く。
信じられない気持ちはあったけど、何故か腑に落ちてしまう。
「⋯だから⋯血の匂いに敏感だったの?」
「そうよ⋯」
「っ⋯!もしかして⋯レアなお肉が好きなのも?」
「ええ、吸血鬼だから⋯人の生き血を啜る代わりに、レアなお肉を食べるのよ」
「⋯人の生き血は⋯啜らないの?」
「なくても生きていけるわ⋯だけど、好きな人の血は欲しくなる⋯」
「っ⋯!⋯それって⋯」
「お母さんとお父さんは、吸血鬼同士だから⋯」
私の知らないところで、お互いに血を啜っていた。
それを察してしまい、思わず俯く。
「⋯美夜、あなたは吸血鬼だけど⋯今までみたいに人間として、幸せになっていいのよ⋯」
「っ⋯!どうやって⋯?血の匂いに敏感で、好きな人の血を欲するようになって⋯」
涙が溢れ、言葉に詰まる。
「⋯ごめんなさい⋯難しいわよね⋯でも、あなたに幸せになって欲しい」
「っ⋯!幸せになんて⋯」
「なれるわ!⋯人間と共存してる吸血鬼はたくさん居るの⋯もちろん、自分の正体を明かさず⋯」
「っ⋯私⋯そんなに器用じゃない⋯」
「だったら、正体を明かせば良いじゃない⋯」
「っ⋯何言って⋯」
「自分の正体を明かして、人間と共存してる吸血鬼もいるのよ⋯もちろん、受け止めてくれる人間ばかりじゃないけど⋯でも、受け止めてくれる人間も居るわ」
「っ⋯言えない⋯言えるわけない⋯」
「もちろん、いきなり明かす必要はないわ⋯」
頭がおかしくなりそうで、泣きながら首を振る。
優しく抱き締めてくれるお母さんの温もりに、そっと目を閉じた。
「⋯今は⋯どうすればいいのか⋯わからない⋯」
「そうよね⋯」
「⋯でも⋯ずっと、普通じゃない理由が知りたかったから⋯話してくれて、ありがとう⋯」
「今まで、黙っててごめんなさい⋯人間としてって、やっぱり無理だったわね⋯」
「⋯私の幸せを考えてくれてたのは、わかるから⋯」
目を閉じて、深呼吸をする。
「また⋯何かあったら、相談させてね」
震える声を抑えて、精一杯の笑顔を作った。




