第4話 明礬紙の色
乾いた葉は沈黙していたが、湯に浸せば隠していた色を見せる。
試験室の窓は少しだけ開けられ、外から土の匂いが入っていた。卓の上には番号札を添えた薬草の包みが五つ、乳鉢、湯差し、陶器皿、それに細長く切った明礬紙が並べられている。陶器皿には前に使った湯の輪が薄く残り、ここが飾りだけの試験室ではないことを教えていた。
セルヴァン院長は採点表を手にし、ノエル監督官は薬材の管理簿を開いて立っていた。扉の近くには若い見習い薬師が一人、使用した器具を片付けるため待機している。
「まず、外観と香りで分類できるものを選んでください。判断が難しい場合は、必要な確認手段を申し出てください」
院長の声を受け、私は薄い手袋をはめた。
最初の包みは乾燥した薄荷葉。指先で軽く崩せば涼しい香りが立つ。次は黄蓮の刻み根で、苦味の強い色が特徴だった。三つ目は葉の裏の銀毛から月影草だと分かる。
四つ目を開いた時、喉が狭くなった。
白みのある細かな粉。香りは弱く、月白草と呼ばれても違和感はない。けれど、鼻の奥にかすかな甘さが残った。白塔で飲まされた薬ほど強くはない。それは当然で、この粉が何であるかも、まだ決まってはいない。
前の人生の恐怖だけで異物だと言えば、私はもう薬を扱えない。
母はいつも、匂いは手がかりであって答えではないと言っていた。幼い私は甘い香りのする花をすべて薬草だと思い込み、庭の飾り花まで煎じようとして叱られたことがある。帳面の片隅には、私の幼い字で「きめつけない」と書かされていた。
その頁を思い出せる自分なら、まだ手順へ戻れる。
「四番は、乾燥粉末の状態では断定できません。温浸液を作り、明礬紙で確認してもよろしいでしょうか」
ノエルのペン先が一度止まり、すぐに記録用紙へ動いた。
「理由を説明できますか」
「月白草へ灰紫根の粉が少量混じった場合、見た目と乾いた香りでは判別しづらいことがあります。母からは、温めた湯で浸出させてから明礬紙へ落とし、縁の色を見るよう教わりました。灰紫根が含まれていれば、淡い紫が出ます」
院長は頷き、湯差しを示した。
「行ってください」
陶器皿へ規定量の粉を取り、湯を注ぐ。液を濁らせないよう、薬匙の背でゆっくり混ぜた。湯気とともに甘さが立ち上がった瞬間、白塔の小部屋が視界の端へ重なる。
手が止まりかける。
今は一人ではない。机の向こうには院長がおり、監督官は採点ではなく私の手順を見ている。扉は閉ざされておらず、帳面は私の鞄に入ったままだ。
私は明礬紙を一片取り、薬匙の先から浸出液を一滴落とした。
湿った部分の縁が、ゆっくりと紫へ変わった。
「灰紫根が含まれています」
見習い薬師が小さく息を呑む。私は続けて、隣の五番の粉も同じ手順で調べた。こちらは淡い黄色のまま変化しない。
「五番が月白草です。四番を薬として使用する場合は、混入経路が明らかになり、再鑑定で安全が確認されるまで止めるべきです」
ノエルが問い返した。
「課題用の見本で、患者へ渡すものではないと説明されたとしてもですか」
試すための問いだと分かった。けれど、私が答えるまでには、前の人生で飲まされた一杯分の時間が必要だった。
「見本であると分かっているのは、この場にいる私たちだけです。保管や廃棄の際に取り違えれば危険は残ります。教材として記録し、使い終えた量まで確認して処分すべきです」
室内がしばらく静かになった。外で庭師が土を返す音が聞こえ、窓枠へ小さな虫が当たって飛び去る。
院長が採点表を机へ置いた。
「よろしいでしょう、監督官」
「はい。判別だけでなく、使用可否の判断と処分記録について合格相当と評価します」
ノエルの言葉に、胸の奥でほどけるものがあった。私が灰紫根を見つけたことではなく、分からない危険を使わせない判断を評価してくれた。
「ただし、ラングフォード嬢」
彼がこちらを見た。
「先ほど、湯気が立った時に手が止まりました。刺激の強い薬材に体調上の懸念があるなら、業務配置に関わります。答えたくない事情まで伺うつもりはありませんが、安全のために伝えられることはありますか」
心臓が一つ大きく打った。優しさで踏み込むのではなく、仕事の安全として問われている。
「強い甘みのある粉薬の香りが、少し苦手です。ですが、手順を確認して立会人がいれば作業できます。必要なら、初めのうちは単独で扱わない配置を希望いたします」
自分で口にしてみると、恐怖を隠すよりも呼吸がしやすかった。
院長は評価票へ短く書き込み、顔を上げた。
「適切な申し出です。では、採用についてお伝えします。あなたを一か月の仮採用助手として迎えます。はじめは受領補助と鑑定準備を中心に勤務していただきます。正式任用は勤務状況を見て私が判断します」
「ありがとうございます。務めます」
立礼をした時、私の膝はかすかに震えていた。けれど、死を思い出したから崩れたのではない。自分の技量で、今後立つ場所を一つ得たからだ。
試験後、見習い薬師が器具を片付けながら、四番の皿へ赤い廃棄札を結び付けた。
院長は使用量を計り直し、見習い薬師に廃棄簿へ記入させた。四番の包みは試験のために意図して作られたものだと明記され、私も確認者として署名を求められる。事件の証拠ではない薬材まで、曖昧にしてはならない。正しい記録とは、都合のよい事実だけを選ぶものではないのだ。
「この札、最初から要ると思ってはいたんですが、試験でそこまで答えた方は初めてです」
「私も、教わったことを答えただけです」
「教わっても、使わない人の方が多いですから」
その言い方は少しぶっきらぼうだったが、馬鹿にする響きではなかった。薬草院では、必要な手間を惜しまないことが礼儀なのかもしれない。
廊下へ出ると、ノエルが任用に必要な書類を一枚持って待っていた。
「勤務開始は来週からです。助手の初期配置は入庫室と鑑定室の補助になります。取り扱う荷には施療用の粉末も含まれますが、当面は必ず担当薬師と組んでください」
「承知いたしました」
書類を受け取る私の手を、彼の視線がほんの一瞬追った。試験中の震えを気にしているのだろう。そこに哀れみを見つけようとしてしまうのは、私の悪い癖なのかもしれない。
「アシュフォード監督官」
「はい」
「本日、私の手元の帳面を預からないとおっしゃったことも、ありがとうございました」
彼は少しだけ考えるように間を置いた。
「個人の資料を、理由なく預かる権限はありません。もし業務記録となるものを扱う時は、預けるのではなく、誰が保管し、誰が写しを持つかを記します」
「写しを持つのですか」
「一冊だけの記録は、事故でも悪意でも失われます。私が以前、証明できなかった失敗がありますから」
彼はそこで言葉を切り、説明を続けなかった。私も尋ねなかった。ただ、彼の整った記録の仕方には理由があり、その理由は白塔で私が失ったものとどこかでつながっている気がした。
当たり前の手順を話しているだけなのだろう。けれど私には、それが温かな言葉より信じやすかった。
任用通知の紙を鞄へ入れると、母の帳面の表紙に触れた。乾いた花弁のある頁を、今夜は開いてみようと思う。
入口の踏み石で、ミナが待っていた。私の顔を見るなり何かを尋ねかけ、鞄から覗く任用通知に気づいて笑みをこぼす。私はまだ、大きく喜ぶ方法を忘れていたが、通知を抱え直した手は朝より軽かった。
院を出る前、受付係が勤務予定表を渡してくれた。
来週の最初の項目には、施療薬材・受領補助と書かれている。
私の手は、今度こそ危険な薬が届く前に触れる場所へ置かれるのだった。




