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二度目の人生では妃候補になりません  作者: 秋月 もみじ


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23/30

第23話 書面が告げること


私を疑った書状よりも、私を守る書面の束の方がずっと厚くなっていた。


王妃府の法務官室では、長机の半分を証拠箱が占めていた。封糸を掛けた検体瓶、薬草院と中央記録庫の複写帳、検品免除申請書、施療所の立会い記録、商会の実納入控え、基金の支払帳簿、セシリアが提出した指示書。


以前なら、その量に圧倒されただろう。自分の人生が、これほど多くの紙を必要としなければ守れないことを悲しく思ったかもしれない。


今は、違う。


紙の束は、私が一人で弁解し続けなくてもよいという証だった。


アマーリエは書記へ、封糸の結び目を一点ずつ確認させた。証拠箱を開く前に、誰がどの箱をいつ受け取ったかを読み上げ、異常がないことを出席者が確かめる。本日の出席者は、私とノエル、セルヴァン院長、セシリア、監査評議会の委員二名で、侯爵夫人側からは弁明書のみが提出されていた。


「明日の暫定裁定に向け、今日確認するのは二点です。ラングフォード公爵令嬢への嫌疑を退けるに足るか。そして、審査が終わるまで止めるべき権限があるか」


アマーリエは、封印検体と昨日の鑑定記録を一方へ、検品免除申請書と基金支払帳簿をもう一方へ置いた。


「二地点から採取された粉末の異常は再現されました。令嬢が鑑定時に異物を加えたという申立ては維持できません。また、異常報告後の確認手順免除申請と、基金許可による直接搬入が確認されています。帳簿の差額と責任分担は、最終審査で扱います」


私の名前が、罪を問う対象ではなく、疑いを退けられる人として読み上げられる。


検品免除申請書の理事長印が、光を受けて鈍く見える。


証拠箱の中身は多くても、私が答えるべきことは難しくなかった。薬として届くはずのものが、同じ働きをしない粉へ置き換えられていたこと。そして、その違いを被害が出る前に止めたことだ。


ノエルが計算表へ確認印を入れ、私にも薬材量の対応欄を示した。自分の算出した数字が、法務官の言葉の土台として使われている。それを誇りに思うにはまだ胃が重いが、目を逸らすつもりはなかった。


「薬材の換算について、付け加えることはありますか」


アマーリエに問われ、私は計算表の端を押さえた。


「灰紫根は安価であるだけでなく、月白草と同じ効能を持ちません。差額を得るための置き換えは、単なる品質低下ではなく、薬としての用途を損なうものです。さらに混入量によっては危険になります」


「つまり、会計の不正と安全の危険は、同じ置き換えから生じたということですね」


「はい。ただし、患者に具体的な症状が出なかったのは、配布前に止められたためです」


書記が「症状の報告なし」と記す手を止め、アマーリエへ文言を確かめた。やがて報告書へ加えられたのは、配布前に停止されたため症状が生じなかったという説明だった。危険がなかったことと同じにされなかったのを見て、私はようやく肩の力を抜いた。


「第四に、エルンスト侯爵夫人は妃候補選定委員として、推薦予定者であるセシリア・エルンスト嬢へ、ラングフォード公爵令嬢を慈善妨害者として証言するよう求める文書を送りました」


セシリアが小さく息を吸い、背筋を正した。


「その文書は、私が受領し、保管していた原本です。叔母から届きました。私は求められた証言をしておりません」


声は震えていたが、最後まで明確だった。


アマーリエは頷く。


「これにより、施療基金に関する告発と妃候補選定の権限が交錯した疑いは強く、現年度の選定をこの委員体制のまま進めることは適切でありません」


一つの文書が、薬の事件だけでなく、候補令嬢が声を奪われる仕組みへ光を当てている。私が前の人生で報告を預けたことも、ただ私が愚かだったからではなかった。同じ人が慈善の配属と候補の評価を握っていたなら、異議を唱えること自体が将来を失う行為に見える。


だからといって、過去の全てがこの場で裁かれるわけではない。私自身、一度死んだという記憶を資料へ持ち込まなかった。アマーリエが扱うのは、今の春から夏に正式な記録として残ったことだけだ。


「明日求める暫定措置は、令嬢への嫌疑の撤回、関連職務と商会契約の停止、選定手続きの凍結です。安全確認済みの代替供給は止めません」


敵を落とすためだけの紙ではない。安全な薬を届ける道も同じ書面に載っていることに、私はようやく息をつけた。


監査委員の一人が、侯爵夫人の弁明書を読んだ。


彼女は慈善の継続のために緊急判断をしただけであり、商会が中身を偽ったことは知らなかった。選定委員としてセシリアへ送った手紙も、若い令嬢の品位を守る助言であって、虚偽証言の命令ではないという。


セシリアは唇を結び、私にではなくアマーリエに向かって言った。


「私は、品位を守る助言とは受け取りませんでした。書かれた通りに話さなければ、推薦にふさわしくないと判断されると思いました」


「その受け取り方を裏付ける理由はありますか」


「叔母は、私の奉仕配属と評価書を自分が整えると、以前から言っておりました。推薦に必要な面談の前にも、家の名を守る返答をするよう指示されております。日記ではなく、叔母から届いた予定確認の手紙を提出できます」


追加の手紙は、命令書ほど直接的なものではないだろう。それでも、セシリアがなぜ圧力として受け止めたかを示す。


「提出の意思がある場合は、明日以降の最終審査資料として受けます。暫定裁定には、既に提出された指示書の範囲を用います」


法務官は急がなかった。今日の結論に必要なものだけで、今日止めるべき権限を止める。


休憩へ移る際、セシリアが私へ近づきかけ、途中で足を止めた。正式な場で親しく話すことが、彼女の証言へ余計な疑念を生まないか心配したのだろう。


私は先に小さく礼をした。


「本日は、ありがとうございます」


「私は、自分が持っていたものを提出しただけです」


「それを選ぶことが、簡単ではなかったと分かっています」


彼女は返事の代わりに、手袋の皺を伸ばした。その不器用な沈黙で十分だった。私たちは互いを救ったと美しく言えるほど近くない。ただ、同じ権限の下で黙らされずに済むよう、それぞれの紙を差し出した。



会議が一区切りついた頃、外はすっかり夕方だった。ノエルとともに法務官室を出ると、回廊の窓から王宮庭園の木々が見える。前世で候補として歩いた庭だが、今日は誰かの隣席を争うために来たのではない。


「明日、嫌疑撤回が読み上げられれば、あなたは王宮薬務の補佐として招かれる可能性があります」


ノエルが言った。祝う声音ではなく、選択肢を先に知らせる声音だった。


「私の名誉を戻すために、王宮へ戻る必要があるのでしょうか」


「ありません。名誉は働く場所と引き換えに戻されるものではないはずです」


彼の答えに、胸のどこかで固まっていたものがほどけた。王宮に必要とされれば、受け入れてこそ潔白が証明されるのだと、私は考えかけていたのかもしれない。


「まだ、どこで働きたいかを考える余裕がありません」


「では、裁定の後に考えてください。誰かの望む返答ではなく」


回廊の端で、配布再開に関する報告を持った薬草院の使者が待っていた。鑑定印の揃った代替薬は、本日から通常の半数まで施療所へ届き始めたという。


私はその報告を読み、裁定書より先に笑みがこぼれた。


明日、私は罪を問われる者ではなく、名誉を戻される者としてこの回廊へ来る。


そして、薬はもう、安全を確かめられた道を通って届き始めている。


証拠箱の蓋が閉じられる音は重かったが、私はその音を恐れなかった。中には私を閉じる理由ではなく、明日ひらかれる扉の理由が入っている。

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