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今川氏真追撃戦

沈玉谷の大勝利の硝煙がまだ晴れぬ間、戦場の端に広がる密林の中、約五百名の残兵が慌てて北へと逃げ惑っていた。彼らは旗を捨て、目立つ鎧を脱ぎ、顔に泥を塗りたくり、ただ山林に紛れて生き延びようと必死だ。隊列の中央には、顔色が蒼白く、容貌が今川義元に七分似た青年が唇を強く結び、短刀を固く握りしめている。それは父が遺した最後の形見であった。


  今川氏真——今川家最後の血筋である彼の胸には、恐怖と生きたいという渇望だけが渦巻いていた。父の討ち死に、岡部元信の散りゆく姿、二万五千の大軍が潰走する様をこの目で見届けた。明軍の鉄騎、璃月の民が操る術、霧の中を幽霊のように行き来する襲撃者たち……すべてが悪夢のようだ。


  「若殿、前方が三つの道に分かれる三岔路です。それぞれ軽策荘、石門、帰離原へ通じております。」残された老臣が低い声で告げる。「ここで軍を三つに分ければ、どれか一隊は……」


  「分軍だと?」今川氏真の声は震えた。「たった五百人しかいないのに、さらに分ければ……」


  「五百人だからこそ、分かれて追っ手を惑わすのです!」老臣は焦って言う。「ご安心ください。影武者を用意し、煙玉と呪符も準備しております。楓丹の領内まで逃れさえすれば、織田様が今川家の血筋をお守りくださる!」


  今川氏真は黙り込み、短刀を一層強く握った。庇護してもらえるだろうか?織田信長という男が、敗将の末裔を庇うはずもない。だが今の彼に、選択肢など存在しなかった。


  残兵たちは足を速め、三岔路へと駆けていった。




  ほぼ同時刻、沈玉谷連合軍の本陣。


  夜蘭が捕虜の名簿を点検し終えたところへ、斥候が急報を届けた。「夜蘭様!東側の密林から敵の残兵、約五百名が北へ逃走しております。隊の頭は今川義元の子、今川氏真と思われます!」


  「今川氏真か。」夜蘭の瞳に鋭い光が宿る。「根絶やしにせねばならない。申鶴、甘雨、刻晴、共に行け。」


  負傷兵の手当てを手伝っていた申鶴が顔を上げ、冷たい殺気を宿した。「逃亡兵か。」


  「今川家の残党です。」甘雨は医療道具を置く。「楓丹へ逃げ帰られれば、将来の禍根となります。」


  刻晴は剣を鞘に収めた。「ならば急ごう。」


  四人は直ちに出発し、精鋭二十名だけを連れた。五百の残兵を相手にするには四人だけで十分であり、兵たちは包囲と阻止のための補助に過ぎない。


  申鶴が先頭を進む。雪原を舞う鶴のように身のこなしは軽やかで速く、密林の中をほとんど音も立てずに進む。甘雨がすぐ後に続き、弓を手に遠距離から狙い撃つ構えを取る。刻晴と夜蘭は左右に分かれ、獲物を狙う豹の如く、音もなく包囲を進めた。


  半時も経たぬうちに、逃亡する今川の残兵に追いついた。


  「止まれ。」申鶴が手を挙げ、全員が身を隠す。木々の隙間から先方二百メートルほどの場所を眺めると、残兵たちが三岔路に集まり、何か協議している様子だ。


  夜蘭は目を細める。「軍を分けようとしている。見ろ、中央の三人——服装も体格もそっくりだ。」


  果たして残兵は三隊に分かれ、一隊約百六十名となった。そして各隊の中央には、同じ華やかな衣装を着てフードをかぶった「今川氏真」が立ち、顔はうかがい知れない。


  「影武者の術だ。」甘雨が低く囁く。「稚拙だが、混乱状況では普通の追っ手を惑わすには十分だ。」


  刻晴は剣に手を添える。「我々も二手に分かれて追うか?」


  「いや。」夜蘭は首を振る。「まず本物を見極める。申鶴、彼らの気配を感じ取れるか?」


  申鶴は目を閉じて精神を集中し、しばらくして目を開けた。「三人の気配はいずれも弱いが、真ん中の者……新しい傷から立ち昇る血の匂いがする。」


  「真ん中か。」夜蘭は石門へ通じる中央の道を見やる。「負傷しているのか。先の戦いで受けた傷か?」


  その瞬間、三人の「今川氏真」が一斉に動き出し、懐から黒い玉を取り出して地面へ強く叩きつけた。


  「ドン!ドン!ドン!」


  三つの濃い黒煙が同時に噴き上がり、瞬く間に三岔路一帯を覆い尽くす。煙は鼻を刺す刺激臭を放ち、微弱な麻痺効果もあり、遠くにいる申鶴たちさえ目眩を覚えた。


  「煙玉だ!逃げる気だ!」


  煙の中から馬の嘶きと車輪の転がる音が響く。山風が煙を吹き払った時、三岔路には人影一つなく、乱れた足跡と車輪の跡だけが三本の道へ続いていた。


  「完全に分かれたな。」刻晴は眉をひそめる。「四人で三路を追うのは困難だ。」


  夜蘭は即座に状況を分析する。「申鶴、左の軽策荘方面を追え。甘雨、右の帰離原方面を追え。刻晴、お前は私と共に中央の石門方面へ向かえ。忘れるな、見逃すよりは討ち取れ。」


  「万が一本物が我々の追う道にいなかったら……」甘雨が案じる。


  夜蘭は冷ややかに笑う。「三本の道はいずれも絶望の道だ。軽策荘には千岩軍が駐留し、帰離原には仙人の結界が張られ、石門は璃月の門戸であり重兵が守っている。どの道を選ぼうとも、彼らに生き残る術はない。我々が確かめるのは、今川氏真という本人を必ず討ち取ることだけだ。」


  四人は直ちに二手に分かれて進んだ。




  申鶴は軽策荘へ続く道を追った。山道は狭く険しく、両側は切り立った崖となっており、守りやすく攻めにくい地形だ。だが待ち伏せに遭うことはなく、道端には捨てられた武器、食料、重傷を負って命を落とした屍体が転がっているだけだった。


  「逃げ足が速い……」申鶴は速度を上げ、白鶴が空を掠めるように崖を飛び移り、山梁を越えた。


  前方では馬車が山道を疾走し、十数名の残兵が徒歩で後を追い、息を切らしている。馬車の上の「今川氏真」は絶えず振り返り、狼狽した面持ちだ。


  申鶴は崖の上から飛び降り、馬車の十丈手前に着地し、長槍『息災』を構えた。


  「止まれ。」


  「今川氏真」は顔を青くし、御者に怒鳴った。「突っ切れ!この女を轢き殺せ!」


  御者は鞭を振り上げ、馬車は加速して襲い来る。申鶴は冷たい眼差しを向け、退くことなく槍を突き出した——狙いは人ではなく、馬だ。


  槍の穂先が馬の首に的確に突き刺さり、戦馬は悲鳴を上げて倒れ、馬車は横転した。車上の男は放り出され、地面に強く叩きつけられた。


  残兵たちは勇気を振り絞って襲いかかるが、申鶴が槍を一振りしただけで、凍てつく殺気に全員が身動きを封じられた。


  彼女は「今川氏真」の元へ歩み寄り、槍の穂先でその顎を突き上げた。若い顔立ちだが、今川義元に似ているのは三分に過ぎず、恐怖に歪んだ瞳には貴族の気品は微塵も感じられない。


  「影武者だ。」申鶴は冷たく言い放つ。「本物はどこだ?」


  「わ、分からない……老臣からこの服を着て馬車に乗れと言われただけです……」


  申鶴は問答を打ち切り、槍でその男の心臓を貫いた。そして残兵たちに向き直る。「武器を捨てれば、命は助ける。」


  残兵たちは顔を見合わせ、やがて次々と武器を落とし、地にひれ伏して降参した。




  甘雨は帰離原へ続く道を追った。この道は比較的平坦だが、両側は開けた荒野で隠れる場所がない。彼女は高台に立ち、弓を構え、鷹のような鋭い視線で荒野を見渡す。


  すぐに標的を捉えた。馬車が荒野を疾走し、十数名の騎兵が周囲を護衛している。車上の「今川氏真」はせかし続け、御者が鞭を打ちすぎた馬は泡を吹いていた。


  甘雨は距離、風速、馬の速度を計算し、弦を離した。


  矢は流星の如く空を裂いて飛んだ。


  狙いは人ではなく、馬車の車輪だ。特殊な貫通矢が車軸を正確に砕き、馬車は大きく傾き、片方の車輪が脱落。車体は地面を数丈引きずられて停まった。


  騎兵たちは狼狽して周囲を窺うが、甘雨の二本目、三本目の矢が相次いで放たれ、すべて馬の脚に命中する。騎兵たちは次々と馬から落ちた。


  彼女は高台から下り、弓を手に一歩ずつ近づいた。


  馬車から這い出した「今川氏真」は甘雨を見ると恐怖のあまり失禁し、地にひれ伏して命乞いをした。「殺さないでください!ただの農民です!無理やり連れてこられただけです!」


  甘雨は眉をひそめた。この影武者はあまりにも不自然で、最低限の尊厳さえ失っている。尋問するまでもなく、矢を放ち、その男の喉を貫いた。


  それから落馬した騎兵たちに問う。「本物はどの道を進んだ?」


  騎兵たちは震えながら中央の石門方面を指し示した。


  甘雨は肯き、その場を離れた。騎兵たちを討たなかったのは慈悲ではなく、必要がないからだ。この荒野で馬も補給も失った彼らは、三日も生きられない。




  一方、刻晴と夜蘭は石門へ続く道を進んでいた。


  この道は最も広く、璃月から北方へ通じる交通の要衝だ。だが今は異様な静けさに包まれ、鳥のさえずりさえ聞こえない。


  「静かすぎる。」刻晴は剣に手を添え、周囲を警戒する。


  夜蘭はしゃがみ込み、地面の車輪跡を調べる。「馬車は一台だが、護衛の足跡は乱れている。意図的に痕跡を消そうとしているようだ。」


  立ち上がり、道端の林を指す。「林の中へ入った。複雑な地形を利用して追跡を振り切ろうとしている。」


  二人は林の中へ踏み込んだ。木漏れ日の薄い林内には蔦が生い茂り、隠れるには絶好の場所だ。だが夜蘭は璃月随一の情報官で追跡を得意とし、刻晴も層岩巨渊などで数多く任務をこなし、複雑な地形での戦闘に長けている。


  「あちらだ。」夜蘭が立ち止まり、左前方の藪を指す。


  刻晴は意を察し、音もなく藪の裏へ回り込む。果たして三名の残兵が隠れ、進路を警戒していた。


  刻晴は幽霊のように現れ、剣光が一瞬閃く。三人は声を上げる間もなく絶命した。


  「進もう。」夜蘭が合図を送る。


  二人は林の中を速やかに進み、道々でさらに七、八か所の見張りを討ち取った。残兵たちは戦歴こそ積んでいたが、圧倒的な実力差の前に為す術もなかった。


  ついに林の奥の空き地で、標的を見つけた。


  馬車が停められ、馬は解かれて脇に繋がれている。十数名の残兵が輪を作り、厳しく警戒している。輪の中央では青年が杭に腰を下ろし、老臣が左腕の傷を包帯で巻いていた。傷は新しく、まだ血が滲んでいる。


  「見つけた。」夜蘭が低く囁く。


  刻晴は剣を抜いた。「護衛を片付ける。お前は今川氏真を捕らえよ。」


  「いや。」夜蘭が彼女を止める。「共に攻め、速やかに決着をつけよう。近くに待ち伏せがある気がする。」


  言葉の直後、空き地の四方から数十名の弓兵が立ち上がった。先ほどの見張りは囮に過ぎず、本隊の伏兵はここに潜んでいたのだ。


  「放て!」老臣が大声で命じる。


  四方から矢の雨が降り注ぐ。刻晴は身のこなしを駆使し、電光のように舞う剣で自らに襲い来る矢をすべて払い落とす。夜蘭は素早く移動し、木を盾にしつつ呪符を放ち、氷の壁を出現させて大半の矢を防いだ。


  だが矢の雨は序の口だ。輪を作っていた残兵たちが一斉に散り、奥から三基の弩車が姿を現す。これは普通の弩車ではなく、弩矢には特殊な爆発物が仕掛けられていた。


  「退け!」夜蘭が厳しく喝する。


  二人は急いで後退し、弩矢は先ほど立っていた場所に着弾。爆発で土と木片が飛び散った。


  「思いもよらなかっただろう?」老臣はにやりと笑う。追っ手が来ることは予測していた。この『璃玉爆弩』は織田様から賜った武器で、術を使う貴様たちを討ち取るためのものだ!」


  傷の手当てを終えた今川氏真が立ち上がり、狂気に満ちた憎悪を瞳に宿す。「奴らを殺せ!父の仇を討て!」


  弩車に再び矢が装填され、弓兵も弦を構え直す。だが刻晴と夜蘭は相手の陣形を見破っていた。


  「左翼は私が受け持つ。」刻晴の声と同時に、紫の電光となって左翼の弓兵へ突進した。


  夜蘭は弩車の方へ走り、次々と呪符を投げ出す。「坎の字・水牢!」「離の字・火流星!」


  水牢が右翼の弓兵を閉じ込め、火流星は一基の弩車に直撃し、連鎖爆発を引き起こす。弩車周辺の残兵は炎に包まれ、絶叫を上げて倒れた。


  老臣は状況を見て、今川氏真の腕を引っ張る。「若殿、逃げてください。老臣が殿を務めます!」


  刀を抜き、最後の十数名の親衛を率いて夜蘭に襲いかかる。彼らは今川家最後の死士であり、武芸に長け、死をも恐れぬ猛者たちだ。


  夜蘭は一時的に足止めされた。一方刻晴は左翼の弓兵を一掃したが、中央の弩車には矢が装填され、死士と交戦する夜蘭を狙い定めていた。


  「気をつけろ!」刻晴は助けに入ろうとするが、距離が遠く間に合わない。


  弩矢が放たれようとした瞬間、氷の青い影が空から舞い降りた——甘雨だ。帰離原の影武者を討ち取った後、急いで援護に駆けつけたのだ。


  矢が連なって放たれ、三本の矢が弩車の操作者と装填手の喉を次々と貫く。制御を失った弩矢は空へ斜めに飛び、遠くで爆発した。


  「甘雨!」刻晴は歓喜する。


  「申鶴も到着しています。」甘雨は脇を指す。


  果たして申鶴が白鶴のように舞い降り、長槍を一薙ぎして夜蘭を襲う最後の死士たちをなぎ倒した。老臣は最後まで抵抗しようとするが、申鶴の槍に心臓を貫かれ、地面に突き刺さった。


  この場に残されたのは、今川氏真ただ一人となった。


  彼は大木に背をもたれ、手に持つ短刀を震わせ、絶望に囚われていた。四方を四人の女が囲み、その誰もが息を呑むほどの殺気を放っている。


  「貴様たち……私を殺すわけにはいかない……」彼はしゃがれた声で叫ぶ。「私は今川家の当主だ!織田様が……織田様が貴様たちを許さない!」


  夜蘭が歩み寄り、冷めた目で彼を見下ろす。「織田信長自身も危うい身の上だ。そして貴様は……今川家が犯した罪の報いを受ける時だ。」


  「待て!」今川氏真は突然地にひれ伏す。「織田軍の布陣を教えよう!彼らの計画も知っている!命だけは助けてくれ!」


  刻晴は嫌悪感を抱き眉をひそめる。「命乞いをするような者は、武士として失格だ。」


  甘雨は首を振る。「我々に情報は必要ない。今川家がもたらした災厄は、今川の血筋によって終わらせなければならない。」


  申鶴は一言も発さず、長槍を掲げた。


  今川氏真は四人を見渡し、生き延びる望みが絶たれたと悟り、突然狂ったように笑い出す。「よし、殺せ!だが覚えておけ!織田様が必ず仇を討ってくれる!貴様たちの世界を地獄に変えてみせる!」


  彼は短刀を掲げ、敵に襲いかかるのではなく、自らの腹へ突き立てようとした。父や家臣のように切腹しようとしたのだ。


  だが刃が腹に届く寸前、四つの攻撃が同時に彼に襲いかかった。


  夜蘭の氷の槍が心臓を貫き、刻晴の雷が頭部を穿ち、甘雨の矢が喉に突き刺さり、申鶴の長槍は背中から胸へと貫き通った。


  今川氏真は目を見開き、何かを言おうとしたが、命は急速に消え去った。彼はゆっくりと倒れ、手から短刀が「カラン」と音を立てて落ちた。


  『宗三左文字』の模造品は、ついに主を最後まで伴うことはできなかった。


  夜蘭は遺体を確認し、他の三人に問う。「三本の道の影武者はすべて始末したか?」


  「済ませました。」甘雨が肯く。


  「こちらもだ。」申鶴が淡々と答える。


  刻晴は剣を鞘に収める。「今川家は、完全に滅んだ。」


  四人は今川氏真の遺体の前でしばらく黙った。これは勝利を祝う瞬間ではなく、一つの罪悪に終止符を打つ瞬間だ。


  今川家が引き起こした戦火、虐げられた民、壊された家々……最後の血筋が絶えた今、すべてが終わった。


  だが戦争はまだ終わっていない。


  夜蘭は西、楓丹の方角を眺める。「今川家が全滅した知らせは、間もなく織田信長の元に届く。次の攻撃は遠くない。」


  甘雨が柔らかな声で言う。「我々が守り抜きます。」


  申鶴は長槍を強く握りしめる。「来る者は、一人残らず討ち取る。」


  刻晴の瞳に揺るぎない決意が宿る。「璃月は、決して陥落しない。」


  四人は林を後にし、今川氏真の遺体をそこに残した。埋葬も目印もなく、彼の父が殺めた無数の犠牲者たちと同じく、荒野に遺棄された。


  これが戦争の残酷さであり、侵略者が辿る末路である。


  一方楓丹では、今川家全滅の急報が届いた時、織田信長は浅井長政と碁を打っていた。


  「今川親子が共に討ち死にしたか。」織田信長は碁石を置き、淡々と告げる。


  「はい。今川義元は沈玉谷で戦死し、今川氏真は逃亡中に討ち取られました。今川家は完全に血筋が絶えました。」浅井長政が答える。


  織田信長は肯き、意外な様子もない。「能無しは能無しなりに、死んでしまった方が良い。無駄な食糧を消費せずに済む。」


  盤面に目を落とすと、自らの白石が必殺の形を作っていた。「では、次の手を打とう。長政、璃月の後始末を任せるなら、誰が適任だと思う?」


  浅井長政は思案する。「武田と上杉の主力はまだ楓丹の防衛態勢を整えており、毛利と九鬼は海域の制圧に従事しています。徳川家康に稲妻から一部兵力を派遣させるのはいかがでしょう?」


  「徳川か。」織田信長は笑う。「あの古狐は、ただ自らの兵力を温存しようとしているだけだ。今回は……私が自ら向かう。」


  浅井長政は驚く。「殿が親征なさるのですか?」


  「テイワットは想像以上に面白い土地だ。」織田信長は立ち上がり、窓辺へ歩く。「朝倉、今川を次々と打ち破り、明まで出兵させた……鍾離という男、直に会ってみる価値がある。」


  振り返り、征服者の光を宿した瞳で言う。


  「全軍に伝えよ。十日後、璃月へ進軍する。テイワット全域に、真の天下人とは何かを知らしめてやる!」


  碁石が盤に落ち、澄んだ音が響いた。


  戦争という碁盤から、また一つの駒が取り除かれた。だが棋局は続き、最も激しい中盤戦へと突入しようとしている。


  テイワットの命運は、これから繰り広げられる対決によって、真の転機を迎えることだろう。

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