両陣営の捕虜に対する扱い方
両面鏡:慈しみと残虐
璃月 沈玉谷北郊、臨時捕虜収容所
秋に穀物を干すための広大な敷地は、今や複数の区画に分けられ、簡素な木柵と見張り塔が外周に建てられている。収容所内は秩序が保たれており、ぼろぼろの軍服を着た今川軍の捕虜たちが千岩軍兵士の監視のもと各種労働に従事している。兵舎の補修、包帯や衣類の洗濯、炊事場での食事の支度をする者もいる。
収容所中央には特殊な旗が翻っている。青地に白紋で、手首は縛られているが鉄鎖はかけられていない両手の図案が描かれており、これはテイワット国際戦争法で定められた捕虜収容所の標章である。
「手早く動け!日没までにこの包帯を全部洗い終わらせろ!」若く威厳のある声が響いた。
話し手は雲菫。普段は舞台で忠孝節義を演じる璃月の名役者だが、自ら志願して捕虜収容所の管理を担当している。簡潔な濃い青の闘装を身にまとい、長い髪をポニーテールに結び、名簿を手に捕虜の人数を一人ずつ点呼していた。
「雲菫殿」千岩軍の小隊長が近づき、声を潜めて話す。「今日も3名の捕虜が高熱を下がらず、軍医によると傷口感染の疑いがあります」
雲菫は眉を少しひそめる。「直ちに隔離し、重症度に応じて医療区を分けろ。白术殿には連絡したか?」
「使者を向かわせましたが、白术殿は前線の重傷者の治療に専念しており、到着が遅れる見込みです」
「ならば収容所の衛生兵に応急処置をさせ、薬は必要に応じて分配し、横領を一切許すな」雲菫は名簿を閉じる。「案内してくれ、患者を見に行く」
二人は医療区へ向かう。白い帆布で張られた大きなテントが数棟設置され、それぞれ「軽傷区」「重傷区」「隔離区」と標記されている。テント内は簡素ながら清潔に整えられ、負傷者はきれいな藁を敷いた敷物の上に横たわり、専任の衛生兵が看護にあたっている。
隔離区で雲菫は高熱を出した3人の捕虜を目にする。全員二十歳に満たない若者で、顔色は紅潮し意識を失い、傷口には化膿の兆しが見えていた。
「この子たちは……」雲菫は小さくため息をつき、衛生兵に命じる。「最善の薬を使い、全力で治療にあたれ。薬が不足したら総務司に申請せよ」
「しかし雲菫殿、彼らは敵兵です……」若い衛生兵がためらう。
「今は負傷者だ」雲菫が言葉を遮る。「璃月の掟では、武器を捨てた者は保護される捕虜となる。実行せよ」
衛生兵は敬礼して立ち去る。雲菫は他の区画も視察する。教育区では読み書きのできる捕虜が仲間にテイワット共通語や璃月の基礎法令を教え、労働区では技能ごとにグループ分けされ、大工、裁縫、清掃作業に従事している。有志の心理カウンセラーが捕虜の恐怖や後悔に耳を傾ける簡易な「傾聴コーナー」さえ設けられていた。
「雲菫お姉さん!」澄んだ声が響く。
振り返ると香菱が大鍋を抱えて歩いてき、数名の捕虜の調理補助が後ろに続いていた。万民堂の若き料理長も志願して支援に来ているのだ。
「今日は生姜や薬草を入れた魚がゆを炊きました。負傷者の回復に良いんです」香菱は額の汗を拭う。「病人向けに薄味に仕上げてあります」
雲菫は微笑む。「ご苦労さま。食事に関する不満は捕虜から出ているか?」
「最初は自分たちの軍の食事より質素だと不満を漏らしていました」香菱は唇を尖らせる。「非常時で前線の将兵も乾パンしか食べられない中、温かいおかゆを食べられるだけで恵まれていると話したら、不満は出なくなりました」
話している最中、収容所の門口にざわめきが起きる。目をやると、鍾離が数柱の仙人に伴われて収容所内に入ってきた。捕虜たちは手を止め、伝説の岩神に緊張した面持ちで見つめる。
鍾離はいつもの象徴的な長袍ではなく、質素な濃い灰色の普段着を身に着けていたが、その威厳は誰もが思わず直立させる力を持っていた。
「鍾離殿」雲菫は進み出て礼を述べる。
鍾離は軽く頷く。「雲菫、ご苦労だ。収容所の状況はどうか」
「現在捕虜1247名を収容し、うち負傷者389名、重傷者62名です。重篤な怪我のため治療の甲斐なく死亡した者は11名です」雲菫が報告する。「大半の捕虜は情緒が安定し管理に協力的です。一部の頑なな過激派は別棟に収監し、思想説得を進めています」
鍾離は収容所を見渡し、労働、休息、治療を受ける捕虜たちに視線を向ける。多くの者は視線を合わせることができず俯く。
「医療区を案内してくれ」鍾離は言う。
医療区で鍾離は負傷者の怪我の状態や投薬状況を詳しく確認する。高熱を出した3人の若い捕虜を見ると掌をかざし、穏やかな岩金色の光を浮かべて三人を包み込む。光に包まれた捕虜たちの呼吸は明らかに安定し、顔色も回復し始めた。
「怪我は安定したが、感染症の治療には薬と時間が必要だ」鍾離は手を引き、衛生兵に指示する。「経過観察を続け、二刻ごとに体温を報告せよ」
「は、はい!」衛生兵は興奮して返事をする。
医療区を後にした鍾離は労働区、教育区も見学する。教育区の黒板にはテイワット共通語の基礎単語が書かれていた:平和、尊重、権利、義務……
「彼らは学んでいるのか?」鍾離が問う。
雲菫は頷く。「はい。捕虜にテイワットの法令や価値観を知ってもらうことで戦争を再考させ、将来の送還や定住の準備に備える狙いです」
鍾離はしばらく沈黙した後、集まった捕虜たちに語りかける。
「諸君、多くの者が自ら望んで戦場に立ったのではないことは承知している。徴兵された者、欺かれた者、命令に従っただけの者もいるだろう。戦争は多くの命を奪った、諸君の同胞も我々の璃月の民も犠牲になった」
穏やかな声だが収容所の隅々まではっきりと響き渡る。
「だがここ、璃月の地では、規則を守り逃走や反乱を企てない限り、基本的な敬意と人道的な扱いを受けられる。負傷者は治療を受け、飢えた者には食料が与えられ、困惑した者には助言が届く。これは施しではない。璃月が千年守り続ける『契約』の精神だ。敵味方の間にも守らねばならない一線が存在する」
一息置いて続ける。
「戦争はいずれ終結する。その時、大半の諸君は故郷に帰り、家族と再会する機会を得るだろう。故郷に持ち帰るのは命だけでなく、平和への理解、尊重の心、異なる文明への認識であってほしい」
捕虜たちは静かに聴き入り、多くの者が目に涙を浮かべる。大半は今川家に強制徴兵された農民や手工業者で、異世界で戦うこと、敗北後にこのように扱われることを想像もしていなかった。
年配の捕虜が突然ひざまずき、拙いテイワット共通語で話す。「ありがとう……殿、ありがとう……」
続いて多くの捕虜がひざまずく。恐怖からではなく、感謝の気持ちからだ。
鍾離はそっと手を挙げる。「礼をする必要はない。立ち上がれ。今日の言葉と、璃月で見聞したすべてを心に留めよ。これこそ、この戦争に残る唯一の価値あるものかもしれない」
捕虜収容所を離れる際、閑雲が鍾離に小声で話す。「帝君は慈しみ深いです。しかし彼らが故郷に戻り織田信長の配下に戻ったら……」
「それは我々の制御できる事柄ではない」鍾離は遠方を眺める。「我々にできるのは戦争の中で人間性の一線を守ることだ。これは単なる慈しみではなく力でもある。敵に、我々が野蛮人ではなく原則と尊厳を持つ文明であることを知らしめるのだ」
言葉を区切り、付け加える。「加えて捕虜を慈しむ知らせが広まれば、次の戦闘で敵の投降意欲が高まり、無駄な犠牲を減らせる。これもまた戦術の一つだ」
閑雲は考え込むように頷く。
収容所の一角では、熱が下がったばかりの3人の若い捕虜が小声で会話していた。
「あの金色の光……奇跡だったのか?」
「岩神だと彼らは言っていた……」
「我々の土地の神は捕虜にこんなことをしてくれたことはない……」
「故郷に帰りたい……」
「俺もだ。だが少なくとも……生きていられた」
同じ時刻、フォンテーヌ廷、旧知恵宮地下三階
かつて学者たちが危険な古代遺物を研究する隔離実験室だったこの場所は、今や織田軍の「懲罰収容所」に改装されている。璃月の捕虜収容所とは対照的に、太陽光も清潔な寝具も温かい食事も存在せず、永遠の暗闇、鼻につくカビ臭と血のにおいだけが充満している。
廊下の両側に鉄格子の檻が並ぶ。一つの檻は約3メートル四方だが、10名から15名の捕虜が押し込められ、横になることもできず座ったり立ったりを交代するしかない。床には排泄物や嘔吐物のシミが残り、腐敗臭が漂っている。
医療も教育も組織的な労働もない。尋問、処刑、あるいは何らかの「実験」の素材になるのを待つだけの果てしない時間が流れている。
「今日はどの区画だ?」冷たい声が響く。
話し手は明智光秀。織田信長の配下で冷酷かつ能率的な将として知られる。廊下の真ん中に立ち名簿を手に、武装した兵士たちを従えていた。
「B区です、殿」副官が答える。「計画通り、本日は50名を抽出して『適応性試験』を実施します」
明智光秀は頷き、B区の檻へ向かう。檻の中の捕虜は彼らが近づくと怯えた獣のように後退するが、檻が狭く逃げ場はない。
「お前、お前、そいつ……」明智光秀が無作為に指をさすと、兵士たちが檻の扉を開け、指定された捕虜を乱暴に引きずり出す。
「やめて!助けてくれ!」若い捕虜が鉄格子にしがみついて泣き叫ぶが、銃床で殴り倒され連行される。
「殿、この男は昨日高熱を出したばかりで、試験には不適切かもしれません」副官が小声で注意する。
明智光秀は少年を一瞥する。18歳に満たないように見え、顔色は蒼白で唇は乾き、恐怖に満ちた目をしていた。
「高熱を出していたのか?」明智光秀は思案する。「ちょうど良い。衰弱状態での『血桜の力』への反応を試せる」
手を振る。「連れて行け」
50名の捕虜は鎖で一団につながれ、実験室エリアへ連行される。他の檻の前を通る際、中の捕虜は無関心に見つめるか恐怖で目を閉じる。
実験室では浅井長政が「試験」を監督していた。数名の捕虜が装置につながれ、暗赤色のエネルギーが管を通じて体内に注入される。大半の捕虜はエネルギー注入と同時に絶叫して激しく痙攣し、皮膚の下に不気味な赤い紋様が浮かぶ。数名は第一波に耐えるが、魂の抜けたように虚ろな目になる。
「17号被験体、耐性が予測を上回る」研究員が記録する。「第二段階試験を実施せよ」
浅井長政は頷く。「続行せよ」
17号と呼ばれる捕虜は中年の男で、歯を食いしばって苦痛に耐え、瞳にはまだ理性の光が残っていた。
「名は何という?」浅井長政が唐突に問う。
男は苦しそうに口を開く。「松……松本……」
「松本、第三段階まで耐え抜けば選択肢を与える。俺の配下になるか、檻に戻って死を待つかだ」
松本の瞳に希望がよぎるが、すぐに苦痛に飲み込まれる。
その時、織田信長が実験室に入ってくる。全員が直ちに直立し礼を述べる。
「進捗はどうだ?」織田信長は無表情に室内の光景を眺める。
浅井長政が報告する。「血桜の力適応試験を実施中です。現在120名に試験を行い、完全適応者3名、部分適応者17名、残りは死亡または価値なしとなりました」
織田信長は松本の前まで進み、肌に浮かぶ赤い紋様を観察する。「これが適応者か?」
「はい。理性を失わずに血桜の力を吸収でき、身体能力も強化されています」
織田信長は松本の肩に手を置き、先ほどより数倍強い暗赤色のエネルギーを送り込む。松本は抑えきれない雄叫びを上げ、全身に青筋が浮き出るが耐え抜いた。
「見込みがある」織田信長は手を引く。「この男と他の適応者を育成し、新たな鬼兵隊の中核とせよ」
試験に失敗し死亡または瀕死の捕虜に視線を向ける。「失敗者はどう処分している?」
「慣例通り、残存生命力を抽出して血桜玉に補充し、遺体は焼却しています」
「無駄だ」織田信長は首を振る。「息のある者は前線に送り突撃隊として使え。死んだ者は……食料不足が叫ばれているだろう?炊事班に処理させろ」
冷酷な明智光秀でさえ顔色を青くする。「殿……それはつまり……」
「俺の言葉が分からないのか?」織田信長が冷ややかに睨む。「征服の道において、あらゆる資源は最大限活用せねばならない。人間も資源の一種だ」
織田信長は実験室を後にし、室内に死のような静寂が訪れる。
浅井長政は息を吸い、研究員に命じる。「殿の命令通り実行せよ。動ける者は突撃隊へ、残りは炊事班に渡せ」
松本はこの会話を聞き、希望が完全に打ち砕かれ絶望に包まれる。実験室内の仲間の遺体、処分される失敗者たちを見て、切り裂くような笑い声を上げる。
「悪魔め……お前たちは皆悪魔だ……ハハハ……」
浅井長政は無表情に眺める。「この世界に悪魔も天使も存在しない。強者と弱者だけだ。松本、強者を選ぶのなら無意味な同情心を捨てろ」
兵士に命令する。「彼を特別訓練所へ連れて行け。三日以内に合格した『鬼』に仕立て上げろ」
松本が連行される際、地獄のような実験室を最後に見渡す。農民、職人、学者だった捕虜たちは思考のない道具、食料、実験素材に成り果てていた。
別の檻では、捕らえられたばかりのフォンテーヌ抵抗軍の戦士たちが扉の隙間からこの惨状を目撃していた。
「彼らは……同士の遺体さえも……」若い戦士が声を震わせる。
「彼らにとって同胞ではない、資源だ」年長の隊長が苦しそうに語る。「織田信長の目には誰もが道具に過ぎない。役立つ者は残し、不要な者は捨て、捨てる際にも最後の価値を搾り取る」
「我々はどうなるのですか?」
「我々も資源だ」隊長は目を閉じる。「できることなら無駄な死を避け、彼らのためではなく、我々の世界のために価値のある最期を遂げたい」
窓の外の夜空、一際輝く星を眺める。
「少なくとも璃月が捕虜を扱う別の道が存在することを知った。この真実が伝われば……多くの人が知れば……」
「知ったところで何も変わらない、我々は脱出できない」
「誰かは必ず逃げ出す」隊長の瞳に決意が宿る。「この地の真実を外界に伝える者が現れるはずだ」
遠く離れた璃月の捕虜収容所では夕食の時間が訪れていた。捕虜たちは列を作り香菱の魚がゆを受け取る。質素な食事だが湯気が立ち、体と心を温めてくれる。
高台に立ってこの光景を眺めた雲菫は、隣の鍾離に話しかける。
「帝君、もし戦争が終わり、これらの捕虜が故郷に帰り璃月での出来事を同胞に話したら……何かが変わるのでしょうか?」
鍾離は西に沈みゆく空を眺める。
「種は蒔かれた。芽吹き開花するかどうか、いつ咲くかは我々の支配外だ。だが暗闇にいた人々に光の姿を見せたことだけは確かだ」
低く揺るぎない声で続ける。
「一度光を見た者は、完全に暗闇に戻ることはできない。これこそ我々が一線を守る意味なのだ」
夜が訪れる。二つの収容所、二つの運命。一枚の鏡の裏表のように戦争の本質的な対比を映し出す。絶望の中で人間性を守る側と、勝利の中で人間性を捨てる側。
この対比の結末が定めるのは戦争の勝敗だけではなく、歴史の長きにおける二つの文明、二つの価値観の立ち位置である。
テイワットの星空の下、選択は既になされた。その選択がもたらす代償と報酬は、未来の血と炎の中で一つずつ明らかになるだろう。
この章には史実に基づいたモデルが存在する。1937年から1945年にかけての抗日戦争において、中国共産党が率いる八路軍は捕虜優遇政策を実施し、この方針は毛沢東主席によって提唱された。
この政策には六つの原則が定められている。
一、捕虜を殴ってはならない
二、捕虜を罵ってはならない
三、捕虜に無断で身体検査・所持品検査を行ってはならない
四、負傷した捕虜に治療を施す
五、残留を希望する捕虜は反戦同盟に加入できる
六、帰郷を望む捕虜には旅費を支給する
当時捕虜となった日本兵たちはこの規定を聞き、驚き、呆然とし、感動のあまり涙を流す者も少なくなかった。日本の兵士は入隊した瞬間から上官から暴力や暴言を受けるのが常だった。
八路軍の捕虜収容所に収容された後、日本兵にはトウモロコシ団子、饅頭、アワがゆが支給され、一日三回の米飯、月に1斤の肉が配られ、負傷者には追加で卵も支給された。当時これらは八路軍にとって最高クラスの食糧であり、兵士も捕虜も同じ基準で扱われた。
八路軍は野球や囲碁などの娯楽を通じて、日本兵の中国人に対する敵意を和らげた。これにより「中国軍は悪魔である」という日本軍のデマは打ち破られ、多くの日本捕虜が反戦歌やニュースリーフレットを作成し、反戦同盟に参加するようになった。




