膠澳大爆撃
膠澳に染まる血
万暦二十一年、正月十八日。
北京城の正月の雰囲気はまだ消えず、紫禁城の赤い提灯が夜風にそっと揺れていた。太和殿前の雪は掃き払われ、滑らかな白玉の床が姿を現す——かつてトワリンが身を横たえた場所は、今はただ空き地となっている。
エーテルは殿前の広場に立ち、北の鉛色の空を眺めていた。パイモンがそばを飛び回るが、珍しく静かだ。
「エーテル、何を考えてるの?」
「豊臣秀吉のことだ」
パイモンは首を傾げる。「あの猿? もう追い返したんじゃないの? 平壌包囲は解け、対馬島は焼き払われ、六天の虎も二人捕らえたし……」
「だからこそ、彼は危険だ」エーテルの声はか細い。「窮鼠は猫を噛む、しかも狂った獣だ」
背後から足音が響く。八重神子がゆっくり歩いてき、狐の尾が冷たい風にわずかに震える。
「坊や、勘が鋭いわね」彼女はいつもの軽薄な笑みを消し、珍しく厳しい表情になる。「届いたばかりの報だ——豊臣秀吉が……動いた」
エーテルは振り向く。「どんな報せ?」
八重神子は急報を手渡す。紙には遼東の冷たさが残っている。エーテルが広げ、文字を追うと、瞳が大きく収縮した。
「正月十六日、未明。倭寇の水軍が山東青島、当時の膠澳を奇襲。砲撃は一時間続き、数百発の砲弾が撃ち込まれた。民家は無数に焼失し、民衆の死傷者は……九千余人に上る」
九千。
この二文字が巨石のように、全員の胸にのしかかる。
「九千人……」パイモンの声が震える。「それって……つまり……」
「虐殺だ」八重神子が代わりに語る。「純粋な、むき出しの虐殺。青島は軍事要塞ではなく、駐留軍も防御施設もない。武器を持たぬ民衆だけが暮らしていた」
急報を握るエーテルの手が震える。層岩巨淵の惨状、帰離原に敷き詰められた死体、平壌城下でやせ細った難民を、彼は目の当たりにしてきた。
だが、それは戦場だった。
これは虐殺だ。
「明軍はどうした?」彼はしわがれた声で問う。
「沿岸砲台が慌てて反撃し、倭船三隻を撃沈したが、残りは撤退した」八重神子が語る。「だが手遅れだった。一時間あれば、数百発の砲弾を撃ち込むには十分だ」
刻晴が大股に歩み寄り、顔は青ざめている。背後には申鶴、甘雨、夜蘭、シトラリ、胡桃、香菱が続く。全員が報せを聞き、誰の顔にも同じ怒りと悲しみが浮かんでいる。
「私は青島へ行く」刻晴の声は氷のようだ。「今すぐ」
「私も行く」甘雨は長弓を強く握りしめる。
夜蘭は口を開かないが、手首の糸がかすかに輝き始める——彼女が怒りを抱えた時の兆しだ。
申鶴の周囲には寒気が立ち、足元の雪が凍り始める。
胡桃は往生箱を抱え、今回ばかりはパッケージの売り込みをせず、静かに呟く。「九千人……堂主として、どれほどの往生符を用意すれば……」
香菱は目を赤くし、唇を強く噛みしめる。
シトラリは黙って弩矢を点検し、一本一本丁寧に拭き上げる。
エーテルは仲間たちを見渡し、手の中の急報に目を落とす。九千。それは単なる数字ではない。九千の生きた人々、九千の家族、正月を祝っていた普通の民衆だ。
彼らは戦争が何かも知らぬまま、戦争によって命を落とした。
「行こう」彼は一言だけ告げる。
山東、青島(膠澳)、正月十九日。
エーテルたちがトワリンに乗って到着した時、眼前の光景に誰もが黙り込んだ。
かつて穏やかだった海辺の町は、一面の廃墟と化していた。
砲弾の跡が無数に大地に刻まれ、焼けた家は崩れた壁だけを残し、残り火から薄い煙が立ち昇る。道には瓦礫が散らばり、焼けた年画の破片が枯れ枝に引っかかり、欠けた「福」の文字が風に揺れる。
最も目を覆いたくなるのは——
死体だ。
一列一列、白い布で簡単に覆われ、仮設の小屋の下に横たえられている。人々が死体の間を行き交い、肉親の顔を探す。泣き叫び、嘆きの声が、胸を裂く哀歌となって響く。
一人の老婦人が小さな遺体の前にひざまずき、静かに震えていた。五、六歳ほどの子供で、手には点火されなかった爆竹を強く握ったままだ。
中年の男は妻と娘の遺体を抱きしめる。三人は最後の抱擁のように寄り添っていた。砲弾が家を直撃し、一家全員が命を落とした。
若い兵士は地面にひざまずき、五体の遺体の前で頭を下げ続ける。額は割れ、血が顔を伝うが、痛みを感じていない。両親と三人の弟たちだ。軍に従って難を逃れた彼は、帰ってきた時には遺体だけを見つけた。
胡桃はついに耐えられなくなり、地面に座り込んで声を上げて泣いた。
香菱は彼女を抱きしめ、自身も涙を流す。
刻晴は歯を食いしばり、爪を掌に食い込ませて血を滲ませる。
甘雨は顔を背け、これ以上見られず、肩が細かく震える。
申鶴は目を閉じる。仙人の心はいかなる流血にも耐えられるが、今だけは目を開けたくなかった。
夜蘭の糸は静かに垂れ、動かない。彼女は遺体、泣き崩れる人々、血に染まった大地を見つめ続ける。
シトラリは弩を置き、彫像のようにじっと立っている。
エーテルはゆっくり遺体の間を歩く。一人、また一人。数えきれない。
九千。
この数字が、ようやく具体的な姿を持った。
崩れた家の前に立ち止まる。壁には残り半分の春聯が貼られていた。
「……歳々平安」
平安。エーテルはこの二文字を眺め、笑おうとしたが、笑えなかった。
「豊臣秀吉」彼はその名を囁く。怒りでも憎しみでもなく、冷たく、機械的な平静な口調だ。
「代償を払わせる」
青島仮設役所、その夜。
土地の役人は地面にひざまずき、全身を震わせていた。恐怖ではなく、憤りと自責が入り混じる。何度も頭を下げる。「下官の無能です……倭寇が来た時、民を連れて逃げるしかなかった……だが民は、逃げる場所さえなかった……」
李如松は彼を立ち上がらせ、しわがれた声で語る。「貴方のせいではない。罪は倭寇にある」
彼は遼東から駆けつけたばかりで、鎧を脱がず、埃まみれだ。窓の外で燃え続ける廃墟を眺め、刀を握る手の血管が浮き上がる。
「沿岸砲台は強化済みです」副将が報告する。「登州から運んだ紅夷大砲二十門を配備中です。また、沿岸の衛所はすべて戦闘態勢に入りました」
李如松は頷くが、喜びの色はない。これらの備えは次の襲撃を防げても、九千人の命は戻らない。
エーテルが部屋に入り、初潮小隊の全員が後に続く。
「李将軍」彼の声は恐ろしいほど穏やかだ。「豊臣秀吉はどこにいる?」
李如松はこの若者を見つめ、瞳に宿る冷たい光を見た——本気で討つ決意を抱いた者だけが持つ眼差しを、彼は戦場で何度も見てきた。
「釜山だ」彼は答える。「彼の司令部は釜山にある。だが二十万の兵が守り、水軍が海峡を封鎖し……」
「構わない」エーテルが遮る。「行き方を教えてくれ」
「暗殺するつもりか?」李如松は首を振る。「無理だ。たとえ忍び込んで秀吉を討てても、脱出はできない。それに秀吉が死ねば、日本軍はさらに狂乱する」
八重神子が口を開く。「李将軍のおっしゃる通り。暗殺は解決策にはならない」
エーテルは彼女を見る。
神子の瞳にも怒りが燃えているが、冷静で、方向が定まっている。彼女はゆっくり語る。「だが私たちは、豊臣秀吉に暗殺よりも辛い代償を払わせられる」
「どんな代償だ?」
神子は輿図の前へ進み、朝鮮半島南部の一点を指す。
「巨済島だ」彼女は言う。「倭水軍の主力集結地。脇坂安治の艦隊の大半がここに駐留している。もし私たちが……」
「破壊する」夜蘭が続ける。「対馬島のように」
神子は頷く。「対馬島では兵糧を焼いた。巨済島では艦隊を焼く。水軍を失えば、朝鮮海峡は私たちのものとなる。豊臣秀吉の二十万の軍勢は、壺の中の鼈となる」
李如松の瞳に希望が灯るが、すぐに消える。「巨済島には二万の守備兵、三百隻余りの戦船があり、守りは対馬島の十倍堅固だ。対馬島の教訓から、警戒は強化されているに違いない」
「だからこそ、より綿密な計画が必要だ」神子はエーテルを見る。「そして……さらなる仲間も」
エーテルはしばらく沈黙し、ゆっくり口を開く。
「ウェンディ、トワリンと連絡は取れるか?」
ウェンディが影から姿を現し、珍しく笑みを消す。「取れるよ」
「彼に伝えてくれ。助けが必要だ。撤退のためではない、攻撃のために」
ウェンディは頷き、風となって消える。
エーテルは李如松に向き直る。「李将軍、明軍からどんな支援が可能ですか?」
李如松は思い巡らす。「紅夷大砲二十門、最寄りの海岸に配備し、巨済島の外洋を砲撃できる。それから水軍だ——脇坂安治の艦隊には敵わないが、牽制のための牽制攻撃は可能だ」
「十分だ」エーテルは言う。「勝つ必要はない。ただ、代償を払わせればいい」
彼は振り返り、初潮小隊の一人一人と向き合う。
刻晴、申鶴、甘雨、夜蘭、シトラリ、胡桃、香菱、八重神子。
そして自分自身。
「今回は、勝利のためではない」彼は語る。「九千人の犠牲者のためだ」
誰も声を上げない。だが全員の瞳に、同じ炎が燃え上がる。
窓の外では、青島の廃墟が燃え続ける。残り火が夜空を照らし、無数の怨霊の瞳のように、血に染まった大地を見守っている。
遠く、海面は墨のように真っ暗だ。だが闇の中に、かすかな火の点が見える——巨済島の方角、日本艦隊の方角、豊臣秀吉の方角だ。
血の借りは、血で返す。




