隠霧の策
狐の謀、対馬
亀船旗艦「鎮海号」の船室内、ランプの炎が揺らめき、人々の影を木製の隔壁に投げかけている。捕虜となった日本軍士官——船奉行の島田という男——は甲板にひざまずき、額を板に押しつけ、秋風に揺れる落ち葉のように全身を震わせていた。
彼は先ほど「特別な」尋問を受けたばかりだ。
刑具も拷問もない。八重神子はただ向かいに座り、異色の瞳で穏やかに彼を見つめ、指先に淡い紫の靄をたなびかせていた。それから問いかけを始めた。声は柔らかいのだが、まるで脳の奥深くへ直接入り込むようだった。
島田は抵抗しようとし、舌を噛もうとし、「天皇陛下万歳」と叫ぼうとした。だがその念が浮かんだ瞬間、優しくしかし抗えない力によって消されてしまう。温水に浸かっているような感覚に包まれ、あらゆる警戒心、忠誠、恐怖がゆっくり溶けていき、すべてを打ち明けたい衝動だけが残った。
だから彼は語った。脇坂安治水軍の詳細な布陣、各港の駐屯状況、補給船団の航路と時刻……
そして、一つの重大な情報も口にした。
「対馬島……」島田の視線はうつろになり、声は機械的だ。「宗氏……太閤殿下に島を献上し……今そこは……前線物資集積地だ。糧食……火薬……鉄砲……堺市、博多から運ばれたものが……島の倉庫に納められ……福島正則大人の部将が守っている……」
船室内は静まり返った。
李舜臣は勢いよく立ち上がり、朝鮮半島と九州の間に浮かぶその島を海図の上で見つめた。対馬島は朝鮮海峡の咽喉を押さえ、地形は険要で守りやすく攻めにくい。もし倭軍がここを前線物資基地としているのなら……
「道理で倭軍の進軍は速く、補給が絶えなかったわけだ」彼は重い声で言った。「目の前に集積拠点があったとは」
夜蘭は急いで紙に記録する。「島の守備兵は何人か?」
「常駐……三千人」島田は無表情に答える。「倉庫地区には別に一千人……福島大人の親兵……それに……大筒が二十門……」
甘雨は計算する。「四千の守備兵、二十門の大砲、加えて有利な地形……強攻は絶対に不可能です」
「その上、戦端が開かれれば、九州、釜山からの援軍が半日で到着します」茜特菈莉が補足する。
胡桃は身を乗り出す。「なら……こっそり忍び込んで火をつけるのはどう?」
李舜臣は首を振る。「対馬島の沿岸は断崖絶壁が多く、わずかな港も昼夜を問わず哨戒船が巡回している。宗氏は数百年にわたり島を治め、土地の隅々まで熟知している。外部の人間が潜入するのは天に昇るより難しい」
一同は思いにふけった。敵の物資集積地を知っても、破壊する手段がなければ、その情報に価値はない。
その時、八重神子がそっと笑った。
その笑い声は風鈴のようで、重苦しい空気の中ではっきりと響いた。
「強攻しなければならない、なんて誰が言ったかしら?」彼女は立ち上がり、狐尾を優雅に後ろで揺らす。「『こっそり』入り込まなければならない、とも」
彼女は海図の前へ歩み寄り、指で対馬島の位置を軽く叩く。「我々は堂々と向かうのです」
空は一瞬戸惑う。「神子様、どういう意味でしょう……」
「脇坂安治の水軍は、我が軍主力を探して決戦を望んでいるのでしょう?」八重神子の瞳に狐のような狡い光が過ぎる。「ならば、彼に『決戦』を見せてあげましょう」
彼女は計画を述べ始める。緩急のない穏やかな口調で、あらゆる細部が推敲されている。
まず偽情報を流す——捕獲した日本船から「思いがけず」脱出した生き残りの口を借り、「李舜臣の亀船船団主力が珍島海域に集結し、巨済島への反撃を企んでいる」という情報を広める。
次に偽りの光景を作り出す——胡桃の紙札、神子の幻術、少数の亀船を使い、珍島海域に大規模船団が集結しているように見せ、脇坂安治を主力ごと「討伐」へ誘い込む。
そして虎を山から引き離す——日本水軍主力が珍島へ引き寄せられた隙に、真の亀船船団は遠回りして南下し、一気に対馬島を目指す。
「だが将軍」李舜臣は眉をひそめる。「脇坂安治がいなくなっても、対馬島には四千の守備兵が残っています。我が軍が全力で攻めても勝てるかもしれませんが、必ず痛みを伴う勝利となり、九州の援軍を呼び寄せてしまうでしょう」
八重神子は微笑む。「だから我々は『島を攻める』のではなく、『訪ねる』のです」
彼女は空の方を向く。「旅人、層岩巨渊にて夜蘭の『水月籠牢』を見たことがありますか?」
空は頷いた。夜蘭の糸で織り上げた幻の結界、姿を見せず敵を閉じ込める術だ。
「では、この結界を……港全体を覆うほど拡大できたら?」神子の指先の紫靄が、小さな港の模型へと凝縮する。「守備兵に、彼らが『見たいもの』——例えば九州から届いた補給を運ぶ『友軍船団』を幻視させるのです」
夜蘭の目が輝く。「私の糸で光学幻像を織れますが、範囲に限界があります。神子様の妖術と甘雨の氷霧で海霧を生み出せば……」
「胡桃堂主の『花火札』で迫真の砲声、旗、角笛の音を再現し……」甘雨が続ける。
「私の鍋も!」香菱はいつの間にか船室に入り込んでいた。本来は厨房で食料を用意していたのだ。「大量の蒸気を炊き出し、海霧と合わせて幻像をよりリアルにできます!」
茜特菈莉は弩矢を点検する。「鏡と反射材を矢尻に取り付けた特製の矢を作り、光と影の効果を強められます」
李舜臣は、ますます「突飛」に思える計画を聞き、口を開いたが、結局深いため息に変わった。「李某は半生を海戦に費やしてきた。戦争がこんなやり方で行えるなど、思いもよらなかった……」
八重神子はくすりと笑う。「戦争の本質は欺瞞です、将軍。我々はただ……欺瞞をより精巧に磨き上げるだけです」
計画は急速に整えられた。李舜臣は船団に針路を変え、珍島海域の予定戦場へ向かう命令を下す。道中、彼らは「わざと」捕獲した小さな日本船を「逃がす」。船上の「生き残り」は、入念に作り上げられた情報を携え、倭軍支配下の港へ逃げていく。
同時に、準備作業は慌ただしく進められた。
胡桃は手持ちの在庫をすべて引っ張り出す。往生堂特製の「幻光札」(蛍光粉と燐粉を塗った紙札)、「鳴雷札」(火薬と鉄片を仕込み、爆発時に大きな音を立てる)、「旌旗札」(燃えると色付きの煙を上げ、旗のように見せる)。
香菱は「行軍百味鍋」で最大限の蒸気を生み出す方法を研究する。鍋に海水を張り、璃月特産の「沸血草」を投入する。この薬草は水に触れると大量の気泡と蒸気を生み出す。
甘雨は(遠隔通信札を通じて)申鶴と氷霧の濃さと範囲の調整法を話し合う。夜蘭は特製の「幻像糸」を織り始める——非常に細くほぼ透明だが、元素力を流し込むと光を屈折させ、視覚の誤差を生み出す糸だ。
八重神子が全体を統括する。詳細なタイムテーブルと行動手順を描き、一つ一つの工程を刻(一刻は約十五分)単位で定めた。
「一番肝心なのはタイミングです」彼女は海図に印をつける。「脇坂安治が釜山から珍島へ向かうには、追い風で六つの時辰を要します。彼の主力が出航したことを確認した瞬間、我々は直ちに対馬島へ向けて出発し、航行に四時辰かかります。島で活動できる時間は……最大二時辰です」
彼女は一同を見渡す。「二時辰のうちに、幻像による掩護、上陸、倉庫の発見、火薬の設置、撤退を完了させねばなりません。どこか一工程でもミスすれば、見破られ、包囲される危険があります」
空は頷く。「間に合います。私と夜蘭、甘雨が島へ上陸し、倉庫を探します。茜特菈莉は船上から遠隔支援を担当。胡桃と香菱は幻像の維持を補助。神子様が全体統括です」
「では李某は?」李舜臣が問う。
「将軍の任務が最も重要です」八重神子は表情を引き締める。「亀船の主力を率い、珍島海域で脇坂安治と『牽制し合う』のです。本格的に交戦する必要はなく、彼にここが我が軍主力だと信じ込ませ、足止めするだけでよい。極めて高い指揮手腕と勇気が求められます——数十隻の日本戦船に包囲され、寡兵で大勢と相手する可能性もあります」
李舜臣は髭を撫でて大きく笑う。「ははは!李某は数か月、倭賊と牽制し合い、この日を待っていた!諸氏安心せよ。脇坂安治が全軍を出してきても、李某は必ず彼を一歩も進ませぬ!」
計画は確定した。その後二日間、船団は人目につかない島々の間で演習を行う。幻像の組み合わせは繰り返し調整され、通信の合図は取り決められ、撤退ルートは計画され……
三日目の夜明け、偵察船が報告を届ける:日本水軍主力が集結を始め、珍島へ針路を取った。
「魚が餌に食いついたわ」八重神子は船首に立ち、東から昇る朝日を眺める。「さあ……芝居の開幕です」
李舜臣の旗艦に指揮旗が揚がる。十五隻の亀船、三十隻の快速船は二つの隊に分かれる。一隊は李舜臣自ら率い、珍島へ「敵を迎え」に向かう。もう一隊、八隻の亀船は初潮小隊と選りすぐりの水兵五百名から成り、ひっそりと南下、目標——対馬島。
別れの際、李舜臣は空に厳かに抱拳の礼を捧げる。「この旅は危険に満ちている。万事気をつけよ。もし成し遂げられぬときは速やかに撤退し、身を守れ」
空は礼を返す。「将軍、ご自愛ください。我々が対馬島の倉庫を焼き払ったのち、将軍と合流し、祝勝の酒を酌み交わしましょう!」
二つの船団は道を分けた。一隊は北へ、朝日を浴び、必然的に苛酷な牽制戦へ向かう。一隊は南へ、朝靄に潜り込み、綿密に練られた奇襲へと進む。
鎮海号の船室内、八重神子は最後に計画図を確認する。彼女のパイプから紫の煙が立ち昇り、図面の上に一行の文字を凝らす。
「幻月海を欺き、狐火天を焼く」
窓の外、海と空は一色に溶け合う。地平線には、対馬島の輪郭がかすかに浮かび始めていた。
夜が迫ろうとしている。そして丹念に織り上げられた幻の夢が、月光のもとで展開されるのだ。




