陣営夜襲戦
雨の夜の雷鳴
平壌城外、戌時三刻より雨が降り始めた。
最初は細い雨糸が城壁の瓦を叩き、さらさらと音を立てていた。守城の朝鮮兵は胸壁の陰に身を縮め、薄い鎧と衣をきつく身にまとい、城外に広がる日本軍陣営の連なる灯火を眺めていた。雨に靄む灯火は淡い黄色の光輪となり、まるで獲物を狙う獣の危うき瞳のようである。
城内の奥、接収された大邸宅の中で、香菱は三回目の行軍防寒スープを煮上げた。大釜の下では火が激しく燃え、煮汁は煮立ち、生姜、ニンニク、唐辛子、そして璃月から持ち込んだ絶雲椒椒特有の刺激的な香りが混ざり合う。湯気が立ち昇り、台所全体を暖かい靄に包んだ。
「第四隊、スープを受け取りに来い!」香菱は木のレードルで釜の縁を叩き、澄んだ声で呼びかけた。
列を作る老若婦人たち——多くは守城兵の家族、あるいは南方から逃れてきた難民たち——静かに順番に前へ出る。誰もがボロボロの陶碗を手に持ち、飢えと深い恐怖に瞳を曇らせている。だが熱いスープが碗に注がれると、その暖かさが一時的に心の冷たさを払いのける。
一人の老婦人が碗を受け取り、震えながら一口啜ると、濁った瞳から涙が溢れ出した。「娘さん…あなたは神様が遣わした救い人ですか?」
香菱は首を振り、炉火に照らされ暖かい笑みを浮かべた。「私はただの料理人です。多くの人が力を合わせて、この熱いスープをあなた方に届けているのです」
彼女は窓の外を眺めた。雨が軒から伝い落ち、水のカーテンを作っている。雨脚は強まり、小雨から土砂降りへと変わった。
「こんな天気は…」香菱はつぶやいた。「特別なことをするには好都合だ」
城南、城壁の最も高い箇所。
申鶴が胸壁の上に佇む。白い衣が雨の夜にはためくが、一滴も濡れていない——仙家の避水の呪が彼女の周囲に見えざる障壁を張っている。彼女は目を閉じ、天地に満ちる水元素の流れを感じ取る。雨は本質が水である。水は柔にも剛にもなり、万物を養うこともできれば、氷となりすべてを凍らせることもできる。
その傍ら、刻晴は一段低い台地に立ち、匣里龍吟を腰に下げ、柄に刻まれる雷元素の紋章が闇の中で幽かに輝く。彼女も感知していた——水ではない、雲に秘められた雷である。急な雨により雲は厚く垂れ込み、雷元素が最も活発な時だ。
「申鶴先輩」刻晴は目を開け、紫色の瞳に電光が躍る。「始めましょう」
申鶴は頷き、両手に印を結ぶ。複雑な氷青色のルーンが掌に現れ、流光となって夜空へ飛んでいく。ルーンは雲層に没入し、雨粒は変質する——単なる雨ではなく、細かい氷結晶の混じった氷雨へと。
気温が急降下した。
城外の日本軍陣営では、巡回の兵士が身震いし、無意識に蓑をきつく身にまとった。
「急にどうしてこんなに寒くなる…」
「ひどい天気だ!」
彼らはこれが序章に過ぎないことを知らない。
申鶴が二つ目の呪法を完了させる。空気中の水蒸気は急速に凝結し、日本軍陣営を囲む見えない氷の結界が生まれた。結界内の雨は凍り、地面、テント、武器、鎧…あらゆるものに薄い霜が張り付く。
「まずい!」日本軍の小隊長が刀を抜こうとするが、鞘と刀身が凍りついて離れない。
竹の支柱が氷の重みで折れ、テントが崩れ落ち始める。かがり火はたちまち消え、陣営は闇と寒さに包まれた。
パニックが広がっていく。
今だ。
刻晴が剣を抜く。
天地を揺るがすような大音響はない。ただ剣先を空に向ける。その瞬間、雲に蓄えられた雷元素が出口を得る。
「ゴゴゴ――!!!」
第一の雷が落ち、日本軍陣営中央の指揮幕を的確に貫いた。幕の中で議事を行っていた将軍たちは叫び声も上げられぬまま、雷光の中で炭と化した。
だがこれは序曲に過ぎない。
刻晴は剣先で複雑な軌跡を描き、雷の進路を誘導する。一道、二道、十道…雷銀の蛇が踊り、夜空に破滅の電網を編み上げる。すべての雷は平壌の城壁を巧みに避け、敵陣のみに落ちる。
一方、申鶴の氷結界が真の殺機を現す。
凍りついた地面で日本兵は混乱の中で転び、押し合う。さらに恐ろしいのは、氷は電気をよく通すことだ。雷が凍土に叩きつけられると、電流が氷を伝って広がり、見えない死の波が陣営全体を襲う。
「ああ――!!!」
悲鳴があちこちから上がる。直撃を受けた者は即死。電流に襲われた者は全身に痙攣し、泡を吹く。電気を逃れた者も、混乱の中で踏みつけられ、崩れたテントの下に埋もれる…
連鎖反応が起きる。
雷に打たれたテントが発火する——雨の中では本来燃えないはずだが、内部の火薬樽が誘爆した。
「ドカン!」
爆発は周囲五つのテントを吹き飛ばし、木片と金属の破片が雨あられのように飛び散った。
爆発はさらなる混乱を呼ぶ。馬が驚いて手綱を振り切り、陣営の中を暴走する。兵士たちは武器棚に駆け寄るが、鉄の兵器はすべて氷に固着している…
雷は降り続ける。
氷は広がり続ける。
死は疫病のように広がっていく。
城壁の上の朝鮮守兵は、呆然とこの光景を見つめていた。雷が敵陣だけを蹂躙するさま、まるで見えぬ手が天罰を下しているかのよう。霜が侵略者のすべてを覆い、彼らを寒さに震え上がらせ戦闘不能にしていく。
「奇跡だ…」一人の老兵がひざまずき、刻晴と申鶴の方へ拝礼する。「神々だ!神が平壌を守ってくださっている!」
知らせは野火のように城内に広がった。香菱が熱いスープを持って城壁に上がった時、守兵たちの瞳に新たな炎が宿っていた——絶望的な死への覚悟ではなく、真の希望の炎である。
「お二人…」守城の朴老将軍は震える声で問う。「あなた方は一体…」
「助けに来た者たちです」刻晴は剣を収め、大規模な雷を操った消耗で顔色が蒼白くなっている。「しかしこれは始まりに過ぎません。日本軍は諦めません」
申鶴も城壁から降り、白い衣は雪のように汚れない。「敵陣には約三千の日本兵がいました。この戦で五百以上が討ち取られ、残りは総崩れとなった。だが…」
彼女は遥か南を眺める。そこにはさらに大きな日本軍本隊の陣営がある。「より大きな脅威が迫っています」
雨は寅時初めにやんだ。
夜明け前の最も暗い時刻、平壌城南の日本軍陣営は見るも無残な廃墟と化していた。焦げたテントの残骸、凍りついた死体、散らばった兵器、戦慄く負傷兵…生き残った日本兵は統制も失い、ばらばらに北へ敗走し始めた。
平壌城壁の上では守兵がたいまつを次々と灯す。スープの香りが漂い、負傷兵は簡単な手当てを受け、誰もが生き残った安堵を顔に浮かべている。
だが刻晴と申鶴は知っていた。これは嵐の前の束の間の静けさに過ぎない。
辰時、最初の陽光が雲を突き破る時、一騎の早馬が南から疾駆してくる。騎兵は血まみれで城門の前で力尽きて落馬し、血のついた書状を固く握り締めていた。
「急報…急報…」彼はしゃがれた声で叫ぶ。「日本軍…六路の大軍が集結し…平壌へ進軍している…」
朴将軍は慌てて書状を受け取り、広げて読む。読み進めるごとに顔色が青ざめていく。
香菱は伝令に熱いスープを渡し、刻晴と申鶴に向き直る。「書状には何と書いてあるの?」
刻晴は紙を受け取る——漢字で記されており、読むことができる。読むほど眉は強く寄る。
「豊臣秀吉が『六天大虎の将』を派遣しました」彼女は重い口調で語る。「六人、それぞれ五千の精鋭を率い、六方向から平壌へ迫っています。三日以内に到着する見込みです」
申鶴は書状に記された名と武器を読む。
小田成叡 ――槍
高永康弘 ――武士の太刀
雑賀炳潤 ――ボルトアクションライフル(狙撃名手、雑賀孫一の兄)
直曲川葛 ――鉄拳グローブ(拳王)
斎藤岳然 ――大太刀
長方天吉 ――鉄狼牙棒
「私たちを狙って送り込まれたのです」申鶴は事実を述べる。
香菱はスープレードルを強く握る。「では私たちは…」
「守り抜く」刻晴は断固として言う。「だが昨夜のような大規模元素力はもう使えない。豊臣秀吉が私たちの存在を知った以上、対策を講じているはずです」
彼女は南を睨み、瞳に幽かな雷光が宿る。「それにこの六人…普通の武将ではない可能性が高い」
申鶴は頷く。「秀吉がわざわざ派遣するからには、並外れた力を持っている。情報が必要です」
同じ頃、京都、聚楽第。
豊臣秀吉は最上階の露台に立ち、東の空に広がりゆく夜明けを眺めていた。朝鮮から急ぎ届いた戦報を手に握り、力の込められた指関節は白くなっている。
「雷…氷…」彼は嗄れた声でつぶやく。「またテイワットの人間か」
石田三成が後ろにひざまずき、低く報告する。「殿下、平壌城外の陣営が襲撃を受け、五百余が戦死、残りは潰走しました。守城軍の士気は大いに上がり、小西将軍は増援を求めております…」
「増援?」秀吉は振り返り、狂気の炎を瞳に燃やす。「いや、増援ではない。殲滅だ」
彼は大股に室内へ戻り、朝鮮の大きな砂盤模型の前へ進み、六枚の赤い虎頭の令牌を掴む。
「命令を伝えよ:『六天大虎』に即時出陣を命じる。本隊の集結を待たず、それぞれ配下五千の精鋭を率い、全速で平壌へ進め」令牌を砂盤上の平壌周囲六箇所に次々と立てる。「彼らに伝えよ——テイワットの『妖術師』は平壌城内にいる。その首を取り、平壌城の門上に吊るせ」
三成はためらう。「殿下、六人の将はそれぞれ優れておりますが…兵力を分散しすぎはないでしょうか。明の本軍が南下してきた場合…」
「李如松の本軍が平壌に到着するには少なくとも五日はかかる」秀吉は冷笑する。「五日あれば、『六天大虎』が平壌を踏み潰し、余計なことをするテイワットの者たちを皆殺しにするには十分だ」
彼は窓際へ歩き、庭に咲く菊を眺める——彼の最も愛する花で、高貴と長寿を象徴する。だが今、黄金の花びらは彼の目には血に染まって見える。
「織田信長はテイワットで敗れ…武田勝頼はテイワットで死んだ…」秀吉は花に語るように、あるいは自分自身に語るように低く呟く。「だが俺は違う。俺は豊臣秀吉、天下人だ。テイワットであろうと明であろうと…俺の覇業を阻む者は、すべて死ぬ」
彼は振り返り、三成に最後の命令を下す。「小西行長に命じ、平壌包囲を強化せよ。鳥一羽として城外に逃がしてはならない」
「御意!」
三成が退いた後、秀吉は一人砂盤の前に佇み、指で平壌の模型をなぞる。窓の外、秋風が菊を揺らす。
彼は知らない。平壌城内では、異世界から来た三人の女たちが、彼の「六天大虎」を迎え撃つ準備を整えていることを。
さらに知らない。遠い南海では、一本マストの帆船が全羅道の海岸に迫っている。船上の別の小隊が、朝鮮水軍最後の希望である李舜臣と合流しようとしていることを。
戦争の盤上に、新たな駒が置かれた。
この一局は、まだ始まったばかりである。




