Golden Dawn
説明の途中で、また振り下ろしが来る。今度は角度が浅い。弾ける。合わせる。金属音。配信者の左肩がほんの僅かに落ちる。続けて三発目。軌道は同じだが、速度だけが増している。合わせる。接触。今度は配信者が小さく息を呑んだ。その反応で十分だった。積み重なっている。見えないまま、中でだけ崩れ始めている。
「頭は視覚的に分かりやすい。揺れれば動作が鈍る。蓄積で落ちる。だが、それだけだとトップ層には警戒される。次は関節だ」
踏み込みが変わる。今度の攻撃は頭を取らない。肩口、肘、手首、脛。動きの途中で使う場所ばかりを通ってくる。こちらも合わせる位置を変える。正面から強く弾くのではなく、刃の角度を少しずつずらし、相手の接触を関節寄りへ流す。高い音は続くが、手応えが変わる。胴を叩いた時より、相手の動きに残る遅れが長い。配信者の踏み替えが一拍ずつ重くなる。左足で踏んだ石から、靴底が剥がれるまでの時間がわずかに増えた。
「そのまま続けろ。意識を散らすな」
今度は配信者があえて振る数を増やしてくる。こちらが狙いを維持できるかの確認だ。四つ、五つ、六つ。全部を綺麗に弾き切る必要はない。頭へ行ける一撃、肘へ流せる一撃、手首を鈍らせられる一撃。その選別の方が先になる。剣と剣が当たるたび、白と橙の光が薄く散る。EverDawnの残光がほんの一瞬だけ視界の端に尾を引き、次の刃の位置を錯覚させる。最新版のスキン特有の、光が綺麗すぎる邪魔さだ。見惚れた方から遅れる。だから光を追わず、足と肩だけを見る。相手の重心だけ拾う。
七手目で、配信者の手元が明確に遅れた。こちらの刃を外へ払おうとしたのに、手首の返りが一拍足りない。剣筋が甘くなり、胸元が空く。反射で踏み込みかけた足を、今度は止めない。重いエクセキューショナーズソードを真正面から振るには遅い。代わりに柄尻に近い位置で握り直し、最短の距離で相手の肩を殴るように打ち込む。斬るのではなく、重さを乗せて叩く形になる。鈍い音。配信者の上体がずれ、膝が折れかける。そこまで行ってから、配信者がわざとらしく後ろへ飛んで切った。
「今の入りだ」
軽い剣を下ろし、右肩を回す。
「反撃に見えるだろうが、本質は違う。内部で積んだ数値が閾値を超えたところへ、重さを乗せて物理的に崩した。理にかなってる」
こちらの呼吸は少し上がっているのに、不思議と腕は重くない。大きく逃げ続けていた時のような空振りの疲れがないせいだ。必要な分だけ動いて、必要な場所だけ触る。その繰り返しで、相手の速度だけが先に落ちる。
配信者は軽い剣を納めた。次に抜いた方は、音からして違う。鞘走りが鈍い。幅のある刃が光を鈍く返し、剣というより鉄板に近い圧を見せる。切っ先の先に余計な飾りはないが、その分だけ重量が前へ寄っている。あれを正面から弾けば、こちらの細かな調整が先に潰れる。
「そっちは弾けるのか?」
「いや、弾けない。正確には、弾いても有利が取れない。重さと持続時間の暴力だ。さっきの感覚で止めに行けば、手首ごと持っていかれるぞ」
言い終わる前に来る。大上段からの一撃ではない。横。しかも広い。刃そのものより、振り切った後の攻撃判定が長く残る形だ。パリィできる剣なら接触を取りに行ったはずの角度で、体が先に動く。避ける。だが、まだ癖が抜けきっていない。足が後ろへ流れる。広い薙ぎが、こちらの退いた軌道を最後まで追ってくる。腰の前で当たる。体勢は崩れないが、接触時間が長い。押された分だけ足が石を滑った。
「だから後ろに逃げるな。判定の外ではなく、内に入れ」
追撃は縦。重さで叩き潰すような振り下ろしが来る。今度は引かずに、剣筋の内へ潜る。刃の根元に近い側へ、右肩から滑り込むように入る。届く寸前まで待ってから半歩だけずらしたせいで、広いはずの攻撃が背中の横を通り抜ける。重い剣が地面を打ち、石片が跳ねる。配信者の腕にだけ、ほんの僅かな遅れが残る。その遅れは、さっきパリィで作った硬直ほど大きくない。だが、斬り返すには十分だ。白と橙の刃を短く振り、今度は膝横を打つ。浅い。深いダメージは入らない。それでも配信者の次の踏み込みが硬くなる。
「見えない数値が動いてるだろ。そういうのを確実に拾え」
重い剣を引き抜きながら、配信者が笑う。実戦的な攻略を共有している時の、不敵な笑みだ。
二撃目は持ち上げるような下からの薙ぎ。大きく避ければ届かない。だが、大きく避けた先に三撃目が重なる構成だと分かる。だから動きを小さくする。刃の立ち上がりを見て、腰だけを後ろへずらし、次に来る横の払いに合わせて踏み込む。重い剣の外を回るのではなく、軸の内側へ入る。肩と肘が近い。そこを狙って柄頭で打つ。金属で殴られた相手の腕が少しだけ緩み、三撃目の横払いが目算より浅くなる。その浅さで十分だった。刃先の下を抜ける。
「そうだ。いい反応だ」
配信者の声が近い。重い剣は一発ごとの圧が強い代わりに、振り切った後の空白が長い。そこへ真正面から斬り込むのは、こちらの武器では間に合わない。だから部位だけ取る。手首、膝、肩。切断も大出血も起きない。派手なエフェクトも出ない。その代わり、少しずつ相手の動作だけが濁っていく。
重い剣の三連撃を二度目まで凌いだ頃には、こちらの中で区別がついていた。弾くべき剣は、接触で崩せる。弾くべきでない剣は、動き終わりと関節にだけ触る。どちらも真正面から削り切る戦いじゃない。相手に気付かれないまま、先に土台を壊す戦いだ。
配信者が今度は混ぜる。重い方を一度納め、軽い方を抜く。その切り替えをこちらに見せた直後、わざと一拍置かないまま踏み込んでくる。弾ける。合わせる。高い音。次の瞬間にはもう重い方へ持ち替えている。完全な実戦ならあり得ないほど露骨な見せ方だが、こちらに判断を覚えさせるには十分だった。軽い剣には前に出る。重い剣には内へ潜る。弾くか、避けるか。どちらも遅れれば当たる。それを繰り返すうちに、頭で選ぶ感覚が消え、足と肩が先に動くようになる。
軽い剣を弾いた直後、配信者の頭がほんの僅かに揺れた。そこへ次の軽い突きが遅れて重なる。こちらはもう待たない。二度目の接触で積み上がったのを見て、踏み込み、剣ではなく肩をぶつける。相手の上体が浮く。すぐ後ろへ逃がさないように、左手で袖口に近い装備を引っ掛ける。重いエクセキューショナーズソードを振り上げるにはまだ遅い。だから振り下ろさない。短く持ち替え、峰寄りで顎下を打ち上げる。首が跳ねる。視線が一瞬だけ空を向く。その空白に、剣全体の重さを乗せた横殴りを胸へ入れる。軽い方の剣が手から離れ、石畳の上を滑った。
配信者はそこで止めた。完全に倒れる前に片足を引き、申請画面に指を走らせて強制停止をかける。広場を囲っていた薄い境界光が一度だけ明滅し、決闘状態の硬い空気が解ける。こちらの剣先はまだ相手の喉元に向いたままだったが、そこでようやく下げる。
数秒遅れて、周囲のざわめきが戻ってくる。見ていた連中は、何が起きたのかを上手く言葉にできていない顔だった。大きな必殺も、派手な削り合いもない。なのに、途中から配信者の動きだけが目に見えて鈍り、最後は重い剣で打ち砕かれた。それだけが残っている。
配信者は喉を押さえるでもなく、顎を軽く撫でるだけで立ち上がった。笑ってはいないが、失敗した顔でもない。むしろ、使い道がはっきりした時の目をしている。
「いい。十分だ。お前、派手に暴れて勝つタイプじゃないな」
こちらが黙っていると、配信者は自分で続きを言う。
「見えない部分から土台を壊して、相手の動作が濁った瞬間だけ前に出る。EverDawnの光も、その重さも、そういう勝ち方に寄せた方が生きるはずだ」
白と橙の刃にまだ残っている微かな光を見下ろす。さっきまでの接触で、光の尾は少しだけ短くなっていた。だが消えてはいない。視界を邪魔するほど美しく、見失えば負けるほど邪魔なまま、刃の縁を流れている。
配信者は重い方の剣を納め、代わりにこちらを真っすぐ見た。
「見せ方は決まったな。次からは真正面から力で勝とうとするな。相手が気付いた時にはもうすべてが手遅れになっている、あの絶望感を売りにしろ」
その言い方が、さっきの決闘よりよほど商売人じみていた。だが間違っていない。削って勝つんじゃない。壊してから処刑する。その形なら、この剣はただの重い限定品じゃなくなる。広場の端で誰かが小さく息を呑む音がした。こちらの名前ではない。EverDawnでもない。今の勝ち方に対する音だった。




