シーン6 魔導院詠唱開始
闘技場・魔導院席。
高位魔導士たちが並ぶ。
本来なら、
個々に判断し、
個々に詠唱を開始するはずの位置。
だが――
誰も動いていない。
いや。
“待たされている”。
その瞬間。
空のルーンが、
魔導院席の上でわずかに変化する。
流れが分岐する。
騎士団とは別の経路。
レティシアの視界。
新しい処理が、
魔導院へと割り当てられる。
表示が浮かぶ。
SYSTEM SUPPORT
MAGIC BOOST
次の瞬間。
“揃った”。
魔導士たちの口が、
同時に開く。
詠唱。
一音目。
完全一致。
二音目。
誤差ゼロ。
三音目。
完全同期。
あり得ない。
個々の詠唱は、
必ずズレる。
呼吸。
思考。
癖。
それらすべてが、
差を生む。
だが今、
それは存在しない。
全員が、
同じ速度で。
同じ高さで。
同じ順序で。
一つの詠唱を、
構築している。
観客席の一部が、
かすかに動く。
「……何だ、あれ」
だが、
理解はできない。
魔導士たちの周囲に、
巨大な魔法陣が浮かぶ。
単体ではない。
複数。
それらが、
完全に重なっている。
干渉しない。
ズレない。
一つの構造として、
統合されている。
それはもはや、
個人の魔法ではなかった。
レティシアがそれを見る。
(……同じ)
彼女が使っていた、
最短式。
同時処理。
それと似ている。
だが違う。
(自分でやってない)
選択も、
最適化も、
存在しない。
ただ。
“与えられている”。
魔導士たちの目は、
どこも見ていない。
意識が薄い。
それでも詠唱は続く。
完璧な順序で。
完璧な速度で。
副官が低く呟く。
「……補助されているのか」
その言葉は、
半分しか正しくない。
補助ではない。
“使用されている”。
詠唱が加速する。
魔法陣が拡張する。
闘技場全体へと広がる。
表示が静かに明滅する。
SYSTEM SUPPORT
MAGIC BOOST
それは強化ではない。
役割の付与。
機能の一部化。
この瞬間、
人間はもう――
“術者”ではなかった。
――世界の修復プログラムの一部になっていた。




