第127話 善悪の神
零は、彼女の兄──トワを助けられなかった。この世で唯一、彼を闇から救い出せたはずの能力を持っていたのに。
邪神となってしまったトワは、死者の魂を浄化し清廉潔白の状態に戻すという役割を持つ、“善悪の神”であった。
生まれてから少し経った頃、トワは仕事を任され、周りの神々から忌み嫌われることとなる。
しかしまだ未熟だったせいか、悪を浄化するときに自分の身体に取り込んでしまったのだ。神であるため悪に染まることはなくとも、彼には常に黒色の靄が纏わりついていた。
厄災を起こす穢れた邪神。
皆とは違う見た目からトワはそう呼ばれ、周りの神々に見下され貶されてしまう。唯一の家族であり妹である零だけが、彼の拠り所だった。
そしてトワは、やがて彼自身の人生を大きく変えることとなる彼女と出会う。
創造神である彼女は、自らが生み出した神々を平等に愛していた。そんな彼女だからこそ、トワはひと目見ただけで恋に落ちたのだ。
そして彼女もトワの気持ちを真摯に受け止め、2人の恋人関係は永遠に続いていくかに思われた。
────彼女が、彼女自身に殺されるまでは。
トワが生まれる幾億年も昔、それこそ、神々を生むよりも昔の話。彼女は彼女自身に呪いをかけた。
────神々は、皆愛する。何があっても、全員平等に。
それが難しくなったとき、彼女は創造神──そしてこの世界の神でもなくなり、彼女の創りだした世界から消える。
世界の理である彼女が彼女自身に定めた、戒めの呪い。絶対に神々《こどもたち》全員に平等に接するという、彼女の決意の表れでもあった。
そして、彼女自身がかけた呪いによって、彼女は消滅してしまう。自分に特別な感情を抱いてくれるトワに、彼女もまた、心を動かされていたのだ。
そして彼女の消滅に、トワは嘆き苦しみ、狂ってしまった。
「邪神、ね。創造神を消滅させた僕は──」
澄んでいた蒼い瞳を、今では影と濁りが支配していた。




