第126話 零の決意
カイルは焦っていた。
目の前には暴走したスイと、僅かな光を反射させて白く輝く見事な王城。
視力が良いカイルがギリギリ見えた距離のため結界のような魔法が届く距離ではないが、張ったとして止められるほど弱い体当たりではないだろう。
追いつこうにもスピードは既に最高潮で、サイスにも、転移を使えるほどの魔力が残っていなかった。
「どう、すれば──」
「落ち着け、カイル」
焦りで思考が鈍り、本来なら助けられる命を逃す。
愛する者や仲間を失って泣き叫ぶ者たちを多く見てきたサイスは、そんな状況に出会う度、それが誰でも同じことを繰り返す。
「命を救う。人を助ける。それはとても難しいことだ。生み出すことでさえも、1人ではできないほどにな。
お前が超人だとしても、できることには限りがある。全て1人で解決しようとするな。自分だけでなく、仲間のできることも考えろ」
「────っ!」
瞬間、カイルのなかに1つの案が浮かんだ。
それは常人なら思い浮かばないほど飛び抜けたことで、サイスの経験からの言葉と幼い故のカイルの柔軟な発想が生み出した一筋の光。
「──僕に、協力してくれませんか」
カイルの言葉が、漆黒の翼が浮かぶ空に静かに響いた。
スイの身体を奪った少女──零は、青空を一直線に突き進む。周りのことなどただの少しも考慮することなく、今のスイの身体が出せる全力のスピードで。
目掛けるのは、ランドル王国国王──邪神である。
「絶対、助けるから、貴方だけでも────」
──あの御方はもう、戻ってこられないから。
零は、続きを口にすることはできなかった。
たとえ声が聞こえないほどに距離が離れているとしても、その言葉は彼にとってあまりにも残酷だと思えたから。
だから、その代わりに他の言葉を。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。今度こそ。今度こそ、助けてみせるから」




